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第44話

「まあいっか。じゃあ話していくよ。まず初めに、君は富川大学の医学部医学科とやらに合格する。流石だね、おめでとう。大学も優秀な成績で卒業し、医師国家試験?っていうのもあっさり受かり、研修医生を経て、無事医者になる」


 さほど驚きはしなかった。そこまでは予想できている未来だからだ。


「医者になってからも君は一生懸命仕事に励む。自分のプライベートを犠牲にしてまでね。こういうのを患者ファーストって言うのかな?誰もが君のことを素晴らしい医者だと言って尊敬するようになる。そんな君だが、やがて医学の研究に力を入れるようになっていく。とある医学の研究機関に所属することになるんだけど、そこで君はなんと、がん細胞を死滅させる新薬を開発することに成功する」

「がん細胞を死滅だと?」

「そうだよ。詳しいことは知らないけど、今までの抗がん剤よりも強力で、なのに身体への負担がめちゃくちゃ軽いっていうことで、医学界は大注目。これによって茜川翔の名は世に知れ渡ることになる。よっ、有名人! 君の開発した新薬は世界中で使用されることになって、がん治療に大きく貢献することとなった」


 流石に予想外のことだ。俺が将来、そんな功績を残すことになるとは。がんで苦しむ人たちの助けになっているのであれば、こんなに嬉しいことはない。有名になってしまうのは正直、勘弁願いたいが。


「でもね、世の中には悪いやつらがいるものでさ、全く、けしからん」


 小さな腕を組んでみせて、にこまるムスッとした表情でそう言った。


「君の新薬の技術を応用して、生物兵器の開発を始めた国が現れたんだよ」

「生物兵器──だと?」

「な、けしからんだろ?」


 けしからん、などという言葉で片付けられることじゃない。


 生物兵器は容易に大量殺人を行えてしまえるというその残虐性から、国際法で使用が禁止されている。


 命を救うための新薬が、命を奪うための兵器に利用されるなど、決して許されることではない。


「その生物兵器の開発を進める研究チームなんだけどさ、チームのリーダーが君もよく知る人物なんだよ。いやあ驚きだね」


 俺が知っている人物──?


「そんな人物に心当たりはない」

「いやいやいや、一人いるじゃないか、生物のことに詳しい生物学者さんが」


 生物学者──まさか……。


「本郷純一郎だよ」

「ありえない!本郷さんはもうこの世にいない!」


 あの人はもう生きていない。こいつはどこまで俺の神経を逆撫ですれば気が済むんだ。


「君は、彼の遺体を見たのかい?」

「──そんなものは、見ていない」

「だったらどうして死んだ、などという断定ができるんだい?」


 本郷さんは自らが抱える病気の手術を受けると言って、俺の元から立ち去った。それから今日に至るまで一度も会っていない。


 しかしだからといって、それが彼の死を決定づけるものにはならない。


「本郷さんが、生きている──?」

「君も薄情なやつだよね。彼は君にとって恩師なんだろ? そんな恩師を勝手に死んだことにしていたんだからさ」


 会えないことと、本郷さんの死を勝手にイコールで結びつけていた。だけど冷静に考えれば、その式が必ずしも成り立たないことは自明だ。


どうして俺は、本郷さんが死んでいると思い込んでしまったのだろうか。


でも生きているなら、なぜ東部分館に訪れないんだ?


なぜ、俺に会いに来てくれないんだ──。


「とにかく、本郷純一郎がそのチームのリーダーで、彼が中心となって研究を──」

「待ってくれ」

「──何だよ?」

「本郷さんについて、詳しく教えてくれ」

「だから今話をしているじゃないか」

「未来のことじゃない、過去のことだ」


 本郷さんが俺の元を去ってからどうなったのか、俺の頭はそのことでいっぱいだった。


「仕方ないなあ、大サービスだよ?」


「ありがとう」なんて言葉は言わない。だが、心の中でほんの少しだけ感謝をすることにした。

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