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第29話

 モグラ叩きのワニバージョンみたいなゲームが目に入った。これは──ダメだな。きっと「ワニがかわいそうで叩けません」とか言い出す気がする。


 その向こうにあるレーシングゲームはどうだろう。これも「法定速度を守らないとダメですよ」と注意をされ、レースに全くならないことが想像できる。


「どうしました、茜川君?」

「──何でもない。ただ、あらゆる角度、観点から近未来を予想していただけだ」

「え? 近未来?」

「いや、本当に何でもない。忘れてくれ」


 対戦系でもなく、何かを傷つけることもなく、法律上セーフなゲームか。まあ、いくらか候補はあるが──。


「次はメダルゲームでもやるか」

「メダルゲーム、とはどういうものですか?」

「メダルを購入して、そのメダルを使って遊ぶゲームのことさ。メダルゲームにも色々種類はあるんだが──メダルをゲーム機に入れて、ゲーム機の中に既に入っているメダルを指定の範囲に押し出して、その押し出した分のメダルがもらえるっていうタイプのをやろうと思う。まあ、実際にやってみれば分かるよ」


 メダルゲームには競馬やスロット、ポーカー、ビンゴなどがあるが、俺がやろうとしているのはプッシャーゲームと呼ばれるものだ。多分このタイプのものなら三宮も楽しんでできるだろう。


 さっそくメダル貸出機でメダルを手に入れる。ちょうど近くに、空いているプッシャータイプのゲーム機があったため、それをやることに。


「ちょっと見ててくれ」


 俺はメダル投入口に四枚のメダルを入れる。動く台によって入れたメダルが既にゲーム機内にあるメダルを押し出す。そして押し出されたメダルによって5枚のメダルが指定の範囲に落ちた。時間差で「カラン」という音と共に、落ちたメダルが手元にやってくる。


「すごい、ゲームの中のメダルが出てきました」

「こうやって手持ちのメダルをどんどん増やしていくってわけさ。やってみろよ」


 三宮は俺と同じように4枚のメダルを投入した。そしてそのメダルは、川の水が流れるように滑らかな動きをしてゲーム機内のメダルを押し出す。押し出されたメダルによって6枚のメダルが指定の範囲に落ちた。


「やったあ。茜川君、私もメダルをゲットできましたよ」

「やるじゃないか」

「このゲーム、面白いですね」


 目をキラキラさせながら、自分の力でゲットしたメダルを眺める三宮を見て、俺はどこか救われたような気分になった。


 最初の方は調子が良く、どんどん手持ちのメダルが増えていったが、そんな好調がずっと続くわけもなく、次第にメダルの数は減っていく。ゲーム開始から大体一時間ぐらいで手持ちのメダル数は0になった。


「ゲームセンター、とても楽しかったです」


 ゲーセンを出てすぐの場所にあるベンチに俺たちは座っていた。


「来て良かったか?」

「もちろんです。茜川君、ありがとうございます」

「いや、お礼を言われる筋合いはないよ。俺も楽しかったし」


 遊びに誘ったのは俺の方だ。どちらかというと、礼は俺が言うべきな気がする。


「──私、こうやって遊ぶのが初めてなんです」

「こうやって、というのは?」

「……男子の友達と二人で。という意味です……」


 その言葉に、俺は胸が高鳴るのを感じた。


 俯く三宮。気のせいか、頬が少し赤く染まっているように見える。


こんな時、何て言うのが正解か分からない。


「……そうか」


 俺の口から出た言葉はあまりにも適当な3文字だった。何とも情けない様だ。


「茜川君は、女子と二人でゲームセンターに来たことは──あるんですか?」

「俺? 俺は──」


 記憶を掘り起こしてみるが、女子とゲーセンに行くという青春メモリーは、俺の脳内フォルダには入ってなかった。桃香とも行ったことがない。待てよ、そういえば聡美とは小学生の頃に何度も行っていたなあ。


「俺も──初めてだ」


 別に事実を隠したかったわけじゃない。小学生の頃のことなんてカウントしなくていいだろうと思っただけだ。それに、聡美だしな。


「茜川君はモテそうなのに──意外ですね」

「そんなことはないさ」


「モテそう」と言われることは、結構ある。別に悪い気はしない。だが、実際はそんなにモテていない──と自分では思っている。


 ふと視線をゲーセンの方にやると、高校生の男女二人組が手を繋いでゲーセンから出てくるのが見えた。あの制服は、どちらも富川商業高校のものだ。校内カップルというやつか。いや、手を繋いでいるからといって付き合っているとは限らないか。


 二人でベンチに座る俺と三宮は、周りからはどのように見えているのだろうか。カップル?ただの友達同士?または兄妹?


 実際、今の俺たちの関係性を表す適切な言葉とは何だろうか。


「息抜きって、大切ですね」

「──え?」


「茜川君、言ってたじゃないですか。息抜きは必要だって」


 そうだったな。だからこうしてゲーセンに来ているんだった。


「今日、茜川君とゲームセンターで遊んでとてもリフレッシュできた気がします。明日からまた、色々頑張ろうっていう気持ちになりました。受験勉強とか、東部分館のこととか」

「それは、何よりだ」

「ひょっとして──茜川君はリフレッシュできなかったのでしょうか?」


 俺の返答が素っ気無かったせいか、心配そうな表情をされてしまう。リフレッシュできなかったわけがない。何なら気持ちが高揚している。


「めちゃくちゃリフレッシュできてるよ」

「なら、良かったです。これからも、お互いに頑張りましょう」


 微笑む三宮の顔を見て、俺は分かった。


 戦友だ──。


 俺と三宮の今の関係性はこれだ。


 受験勉強では互いに夢を持ち、努力をし合う。大切な場所である東部分館を守ために協力をし合う。ただの異性の友達、などという枠組みの中にはもういない。


「そうだな。これからも一緒に頑張っていこう」


 商業ビルを出て、駅前の駐輪場へ戻ってきた。


「今日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ。気をつけて帰れよ」


 まだそんなに遅い時間ではなかったが、何となくお開きの雰囲気になっていたので、ここで解散することになった。


 自転車に乗ってどんどん遠ざかっていく三宮。風でなびいている後ろ髪を、姿が見えなくなるまで眺めていた。


 おそらく三宮も俺のことを、ただの男子の友達とは思っていない。鈍感とよく言われる俺だが、それぐらいのことは分かる。あいつが俺との関係性をどのように捉えているか、正確には分からない。ただ、「戦友」と似た感覚の関係性で捉えているんじゃないかと俺は思った。


 俺たちは共に戦い続ける。


 少なくとも、受験が終わるまでは。最後まで一緒に戦いたい。


「戦友」として──。


 でも、この関係性は果たして、変わらないものなのだろうか。


 古代ギリシャの哲学者であるヘラクレイトスは「万物は流転する」という言葉を残している。これは、この世のものは常に変化し、永遠に変わらないものはないという意味だ。ヘラクレイトスは万物の根源を火として捉えている。それは、火というものが、常に形を変えながら燃え続けて存在を維持している様子を、変化の象徴としているからだ。


 俺たちの関係性も、火と同じなのだろうか。


 しかし、もし変化が訪れるとするのならば、それはどんな状況だ?


 一体、何が起こると俺たちの関係は変わるのだろうか?

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