三話 色欲のアスモデウス
ベリアル国にある城。
「ようこそ。オレは八の勇罪。色欲のアスモデウスだぞ」
俺とラストは、アスモデウスに挨拶をしに来た。
他の勇者は外で待機中だ。
なんでニートな俺がここに?
魔王として敵情視察だ。
無能勇者が社会勉強、という理由で同席してる。
「おっす」
「初めまして」
「噂は聞いているぞ? 勇者ラスト。数年前に現れては、歴代最強の快進撃をしているとか」
「あはは……どうもです」
俺の活躍を押し付けて、その地位につきました。
とは言えない。
「で、そっちのあからさまにやる気のないごみは」
「どうも。ゴミ勇者ルシフェルっす」
「私の教え子がごみを自称するな!」
え? ごみってそんなに悪いか?
俺の中じゃ、最近マイブームだぞ?
「まあ、防衛の数合わせにはなるか」
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません。あの、ところで」
ラストは部屋の端に視線を向ける。
そこには、赤い何かがべったり。
「あれ、は?」
「罪人を始末したんだぞ」
「えーと?」
「あの者は賊を鎮圧した際、オレの服を汚したのだぞ」
「つまり?」
「オレに恥をかかせた。だから始末した」
服だけで?
俺なんか、部下に服をぼろぼろにされてもなんとも思わないぞ。
「断末魔は良かったな。『やめてえ! 殺さないでえ! 化け物に殺されるう!』だと! ぬはははは!」
これはヤバいやつだな。
話を聞いただけでわかる。
「ちょ、ちょっと! それは勇者としてあまり」
「は?」
アスモデウスがラストの首筋に剣を向ける。
「まさかお前。したっぱの分際で、オレに指図するのか?」
「え、それは」
「よろしい! なら、この場で」
「すとっぷ」
俺は、アスモデウスの腕を掴む。
「なんだお前?」
「教官に手を出すのはやめてくれよ」
ラストを傷つけられては困る。
ここは引き下がってくれ。
まだ行動に移したくない。
「ほう。ならどうする? お前が代わりに死ぬか?」
「いやです。俺はニートを謳歌してから死にた」
「うるせえ」
ゴッ!
アスモデウスから殴られた。
あの程度の攻撃なら避けられる。
しかし、勇者の状態で力を見せるのは不味い。
ここはあえてダメージを受けた。
にしてもよっわ。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか!?」
「全く、凄く痛い」
「回復魔術をかけますから!」
ラストが俺を治療し始める。
要らねえ。
けど、最弱がそれを断るのは不自然。
ここは大人しくしておこう。
「チッ。こんなバカも勇者なのか。もういいぞ」
アスモデウスが剣をしまう。
「お前たちは防衛に当たれ。魔王軍が来るという報告。事実なら今日、奴らはここに攻め込んでくる」
その報告は俺たちが流したものだ。
流した理由は三つ。
一つ目は、ラストの功績作り。
この防衛で、彼女に活躍してもらい、地位を上げる。
二つ目は、勇者たちの修行。
身内勇者たちが、魔王軍と比べて弱い。
これでは光と闇のバランスが取れず、後々問題になる。
だから、ここで鍛えてもらう。
最後は魔王ルシファーとして、アスモデウスの説得か排除。
アスモデウスを八の勇罪から引きずり下ろす。
理由おしまい。
「わかりました」
「オッス」
「よろしい。あ、それと」
アスモデウスが紙切れを、ラストに投げ渡す。
「これは?」
「ここの住人リストだ」
「は? なんで」
「逃げた者がいればそこにチェックを。恥をかかせた者は、後でオレが始末するぞ」
イカれてる。
しかし、驚きはない。
これが勇者の現実だから。
「ぬはははは! なんなら、多少多くつけてもいいぞ? 殺戮は大歓迎!」
アスモデウスは奥の部屋へと入って行った。
「説得は無理そうだな」
「ダメみたいですよね」
「はあ。排除しかないな。ん?」
外から騒がしい声。
『鎧の軍勢がこっちにくるぞー! 全兵は、平野へと急げー!』
鎧の軍勢。
このタイミングで思い当たるのは、一つしかない。
「進軍してきたな」
魔王軍のお出ましだ。
時間通り。
あいつらは作戦を遂行しているみたいだ。
「では手順通り。勇者の修行。そして、私の任を果たすため、いきますよ?」
「だな。適当に場を慣らしてから、ここに戻ってくるとしますか」
◇
俺たちは魔王軍が進行中の平野に転移。
視界に移ったのは、身内勇者とベリアル国の兵士たち。
「「ゑ?」」
そして、平野を埋め尽くす多くの倒れた鎧。
魔王軍の兵が全滅?
「二人とも遅いー! 全部倒しちゃったよー!」
目の前には、笑顔で剣をしまうリリス。
「「全部……?」」




