一話 八の勇罪(ゆうざい)
休み明けの朝。魔王城、大広間にて。
「オッス」
俺は玉座に座りながら、部下たちに挨拶をする。
今から始まるのは魔王軍の朝礼。
やるべきことの確認などを行う。
『『『おはようございます。魔王様』』』
部下たちは床に膝をつける。
もっと気楽でいいんだぞ?
「まあいいか。ラスト、頼む」
「はい。では挨拶が済んだので、本日の予定を」
ラストが書類を持ち、前に立つ。
ここでの彼女は俺の側近だ。
率先してまとめ役をしてくれる。
「先日、我々の目標である世界征服が完了しました」
『『『ウオオオオオオ!』』』
といっても、全ての地ではない。
あえて未征服地を残している。
理由は、魔王軍だけの征服で反乱されたら困るから。
あとは勇者にお任せ。
まあ、残りも俺とラストが管理するんだけどな。
「我々がこれからすべきこと。それは、目障りな邪魔者の排除です」
勇者側ではクリーンな活動。
こちらでは汚れ仕事を負うのが基本だ。
「では、今日の予定を発表いたします」
ラストの一声で緊張が走る。
「ベリアル国の主にして、八の勇罪が一人。勇者アスモデウスの排除です」
八の勇罪?
なんだっけそれ?
「なあ、その八の勇罪って」
「……八人いる勇者を支配する王。魔王軍にとって最大の敵です」
そうだった。
こいつらを説得、または排除が次の目的。
で、そこにラストを押し上げ、最終的に勇者の長にする。
だったな。
「今回は排除が目的です。征服ではありません。他の勇者等には手加減するように」
魔王軍が攻め込むのに、手加減は不自然。
という疑問は、予め適当な説明をしてある。
「では作戦を。まず、ベリアル国周りに戦闘人形を置きます。皆さんはそれを操り、兵を誘き寄せ」
「その隙に、俺とラストが敵将を討つ。これが作戦だ」
「魔王様! 説明の前に、結論を言わないで下さい!」
長々とした説明は嫌い。
どうせ最後は力任せなんだ。
話しはそれでいいだろ。
「はあ。詳しい資料はこちらに」
ラストは紙を数えながら、部下たちにそれを渡す。
「よし。俺たちは作戦遂行の為、先に出発する。ラスト」
俺は、ラストに転移を使うよう合図する。
この後、俺たちにはちょっとした野暮用。
それを行わないと、この作戦は成功したとはいえない。
「お前らは準備が出来次第、進軍を」
「ちょっと!」
俺の前に、紫髪少女が駆け寄る。
「ん? お前、誰だ?」
「はあ!? ウリエル! 魔王軍幹部ウリエル! アタシのことを忘れんな!」
そういえばそうだった。
ウリエルはいつの間にかここに現れ、直ぐに幹部へと登り詰めた少女。
寝起きのせいで忘れてた。
「ちょっと。魔王様に無礼は」
ラストが間に割り込む。
「気にすんな。部下の会話に応えるくらい、わけない」
ここでスルーして、仕事終わりに突撃されても困るし。
「もう! 気にして下さいよ!」
「悪い悪い。で」
ウリエルに要件は何かと目線。
「あんたらいつもどこ行ってんの! 作戦時はまだしも、普段からいないじゃない!」
「「あー……」」
勇者として活動中。とは言えない。
勇者兼業は俺たち二人の秘密。
バレたら魔王軍が崩壊する。
「どうしたの? 答えなさいよ!」
ウリエルの言葉と共に、部下たちの視線も突き刺さる。
言われて見ればこいつら怪しくね? と。
「こ、答える必要ありましゅか! だ、誰だって秘密はありましゅ!」
「ラスト、動揺しすぎ」
「その反応。ははあーん? わかったわよ?」
ウリエルは目を細め、顎に三本指を添える。
ま、まさか勇者なのがバレた?
そんなはずはない。
魔術による隠蔽は完璧なはずだ。
「あんたら二人! アタシたちに内緒で、デートしてるんでしょ!?」
「ないわ」
「な、ないです!」
あー良かった。全然違うわ。
『あの二人がなあ』
『そんな気はしていたわ』
『男女がこそこそすると言ったらなあ?』
おい。
なんか勘違いが広まってないか?
俺とラストはそういう関係じゃないぞ?
「みにゃしゃん! そういうのは止めてくだしゃい!」
「はいはい。で、どうなのよ? 魔王?」
作戦前にこれは不味いな。
とはいえ、言い訳なんか考えてない。
少し考える時間を。
ちょいちょい
服の裾を引っ張られる感覚。
「……魔王様。そろそろ」
ラストが魔方陣を展開。
どうやら、反論する時間はない。
「悪い。この先は個人の想像に任せる」
「ちょ!? 去り際にそのセリフは、勘違いされますよ!?」
「あ! おい待て! 転移で逃げんな! アタシもデートに混ぜなさいよ!」
場が騒然の中、俺とラストは転移していった。
最後とんでもないことが聞こえたか?
気のせい?




