七話 偽りの勇者と魔王 その結末
「ま、魔王ルシファー! 勇者ラストの名の元、あなたにしぇ、宣戦布告します!」
魔王の前に現れた少女。
それは俺の側近、ラストだ。
「ほう。俺に楯突くと?」
「は、はい! あにゃたを倒し、世界に平和をもたらしにゃす!」
かみっかみじゃねえか。
演技下手くそだな。
『いいぞ勇者ラスト!』
『教官! 魔王を倒してくれえ!』
『このままじゃ全滅だあ!』
民衆がラストの応援を始める。
自分たちの命運がかかってるもんな。
多少変でも気づかないか。
下手な劇に、乗ってもらえてよかった。
「いいぜ。その勇気に免じ、俺の魔術で」
『『『グギャアアアアア!?』』』
突然、民衆の背後にいた黒龍たちが消える。
なんで?
ラストに討たせるはずの龍が倒されてるの?
「ラスト教官、ごめんー! 来るのが遅れたー!」
「「なっ!」」
現れたのは、ぼろぼろなリリス。
ラストからの報告によれば、彼女は動けないと聞いていた。
それが、ここにきて参戦とは。
完全に予定外。
またかよ。
これじゃあ、手抜き戦闘ができない。
「リリスさんっ! そのケガで動いてはいけません! ここは私に任せ」
「ケガしてるから戦わない、は愚かだよー! ワタシは勇者として、命を懸けて戦うよー!」
カッコいい。けど、すごい邪魔。
こいつが戦ったら、ラストの功績作りができなくなる。
「魔王ルシファー! 勝負!」
リリスが直進してくる。
もうやるしかない。
こいつを適当にいなし、ラストとの死闘を演じるしか
「待ちなさいっ!」
俺とリリスの間に何かが落下。
「残念だったわね! アンタの相手はアタシよ!」
更なる乱入者。
魔王軍幹部のウリエルだ。
こいつも動けないと聞いたんだけどなあ。
俺の描いたシナリオに、次々と新キャラが登場してる。
結末? 知らないよ。
こんな状況で無茶言うな。
「魔王! あんたはアタシの援護に入りなさい!」
「ラスト教官! 同時に剣技をお願い!」
ウリエルとリリスの力が衝突する。
思い描いた流れはいずこに。
演目は全くの未知へ。
『勇者たち! そいつらを倒して!』
『教官! この国に平和を!』
『思う存分やってくれ!』
「「ええ……」」
今さら仕切り直しは不可能だ。
こうなったら仕方がない。
もう、全てを最大限に利用する。
俺たちは二人に合わせ、適当な戦いをすることにした。
◇
「やるねえー!」
「そっちこそ」
俺はリリスと、ラストはウリエルと戦闘中だ。
「魔王ルシファー! ワタシの本気を受けなさいー!」
リリスから剣撃の嵐。
それは一切の狂いなく、優雅に俺を捉える。
「軽い」
俺はそれを全て斬り流す。
「む! さすが魔王だねー! これを涼しい顔で受けるなんて!」
涼しくねえよ。
手抜きしつつ、最強の勇者を相手にするとか精神的にきつい。
「勇者ラスト! これで終わりよ!」
「あ、ちょ!? 私、気配違うけど仲間」
離れた場所では、ウリエルがラストにとどめをさそうとしている。
ヤバイな。
勇者ラストが魔王軍に負けた。
となれば、彼女の面子は丸つぶれ。
ここまで積み上げた、勇者の支配計画が台無しだ。
「ったく。同時進行とか辛すぎだろ。しょうがねぇ、な!」
「消えた!?」
俺はすぐに、ラストたちの元へ。
「終わりよっお!?」
すぐさま、ウリエルの肩に軽く触れる。
「なに、この力!? 抗えない!」
ウリエルはこの葉のように吹き飛ぶ。
「ラスト。頼む。ダメージを与えた今なら」
「わかりました」
ラストが魔術を発動。
「ちっ! 油断した! なら次は本気、は!? なんで転移!? まだ戦え」
ラストの転移で、ウリエルはこの場から退場した。
そんな物があるなら最初から使え?
戦意むき出しの相手、加えて見知った身内以外には使えない。
以上。
「よし、次は」
俺はリリスの元に戻る。
「おまたせ」
「ねえ? なんで魔王が、ラスト教官を助けたの?」
リリスが人差し指を、自身の唇に当てる。
その目は疑惑に満ちていた。
怪しんでる、か。
さっきの行動。
あれは、強者以外は見きれない早業だ。
まあ、強者二人が相手ならボロがでちまうか。
「勘違いだ」
「勘違いー?」
「そうだよ。あれは部下をラストから救っただけ」
「そうかな? どう見ても」
これ以上の会話は不味いな。ごり押す。
「もう始まってる戦いで、動きを止めるな。勝負あり」
「え。!?」
俺の剣圧が、リリスを圧し飛ばそうとする。
「いつの間に!?」
「さあ。それより、もっと腕を磨け。今のお前じゃ、俺の足元にも及ばない」
「くっ。魔王、ルシファーぁぁぁ!?」
圧に耐えられず、リリスは吹き飛んで行った。
戦いの中で調整しまくった一撃だ。
あれくらいじゃ、死なないだろう。
「さて」
俺はラストの元へ歩く。
疲れで若干ふらついてしまった。
「おまたせ。勇者ラスト」
「き、きましたにぇ! 思わぬ乱入がありましたが、ようやくあなたと戦えましゅ!」
ホントに思わぬ乱入だわ。
まさかここまでずれまくるとはな。
「だな」
「かきゅご!」
ラストが不器用に剣を振るう。
それに合わせ、俺も剣を適当に。
ガキン!
「……まさか。俺が敗れるとは」
ラストの剣が俺に突き刺さる。
やられるのが早すぎて違和感?
予想外の連続で疲れてんだよ。
もう休ませてくれ。
「勇者ラスト。その力を認め、この魔王ルシファーのライバルと認める」
「は、はい!」
「しかし、今は決着をつける時じゃない」
俺はわざとよろけながら、建物の屋根へ飛び乗る。
「勝負はお預け。では、去らばだ」
屋根から屋根を飛び駈け、俺は退散。
『ゆ、勇者ラスト! 勇者アスモデウスの遺志を継ぎ、魔王を撃退しましゅた!』
『『『ウオオオオ! 勇者ラストつええええ!』』』
場を離れてすぐ、民衆からの拍手喝采。
どうやら、魔王と勇者の死闘は成功で幕を閉じたようだ。
「あー疲れた」
しばらくあと。
あの場から離れた俺は、周りに人がいないことを確認。
「どっこいし」
慎重に腰をおろす。
本当に大変だった。
手加減。
被害なし。
正体がバレないように魔王を演じる。
この同時並行はきつい。
こうならない為に、もっと計画を練らないとダメか?
でも、練っても潰されそう。
「なんて考えても仕方ないか。よし。じゃあ、勇者ルシフェルになりますかな」
魔王の衣装を脱ぎ、勇者の衣装へと着替える。
「……」
「ん?」
気のせいか?
誰かに見られているような。
「まさかな」
『ルシフェルさーん! どこですか!』
『ニート! 出てこい! サボってんじゃねえぞ!』
『こんな時もやる気ないとかマジ受ける!』
身内勇者たちが、近くで俺を探している。
今回の勇者ルシフェルは、途中で抜け出した糞ニート。
ラストが活躍した裏で、怠惰な大馬鹿。
印象は最悪。
ニートとして、更に成り下がることだろう。
まさに
「完璧なハッピーエンドだな。はっはっはっ」
大満足の中、俺は立ち上がり
「労働者の諸君。ご苦労」
偉そうな態度で皆と合流した。




