六話 色欲断罪
「……ん。ん!?」
「ようやくお目覚めみたいだな」
ここはベリアル国の処刑台。
俺は、拘束していたアスモデウスの目覚めを確認。
すぐさま腹に力を入れる。
「これから、アスモデウスの処刑を執り行う。民よ。そして、勇者たちよ。その目に焼き付けろ」
周囲には、この光景を離れて見る群衆。
怯え、不安、怒り、娯楽、驚嘆。
各々が、それらを表情という絵で表現していた。
「な、なんだ? 何が始まろうと」
「これは抑止だ」
「よくし?」
「ああ。お前たち勇者は、仲間が死ぬといつもこう言う。『この死を胸に、敵討ちをしよう。例え、一生をかけてでも』と」
「なにを言って」
「それはいい。仲間の死を無駄にしない、素晴らしいことだ」
「だからなにを」
「きっと、勇者たちは魔王軍に向かってくるだろう。例え、それが無駄死にとなっても」
アスモデウスの顎に手を添える。
「だが、実態は体の良い綺麗事。悪なる勇罪の捨て駒だ」
「悪だと!? お前、オレ悪ぶほっえ!?」
アスモデウスの口元を鷲掴む。
「悪だろ? このシステムから逃げたら抹殺。そんな汚いルールを強いてるのだから」
「う、うるさい! それは、正義の為」
「弱い自分たちの為だろ」
それに何度苦しめられてきたことか。
そんなルールのせいで、余計な被害が広がる。
これがあるから、俺はすんなりニートになれないんだ。
わかれよ。
「それで勇者に死なれたら、光のコントロールができないんだよ」
「こ、コントロール? 一体なにをごっ!?」
「だから、この処刑は抑止。お前を惨たらしく断罪。そこからの恐怖で、勇者たちを無駄死にさせないためのな。オーケー?」
アスモデウスから手を離す。
「糞が! この偽神を騙る罰当たりが! オレの処刑!? 神の天罰が下るぞ!」
「ぎしん? よくわからんが、その神の天罰とやら。あるなら、今ここで下してみろ」
「う、うるさい! いいから拘束を解け!」
「自分で外せ」
アスモデウスは体全体を動かす。
目を血走らせながら。
が、びくともしない。
「こんな不当が許されると!? 俺は色欲のアスモデウスだぞ!? おい! お前たち、なにをしている! 助けにこい! でないと処刑するぞ!」
アスモデウスは群衆に助けを求める。
……。
皆、視線をそらす。
「無駄だ。あいつらはこない。良く見ろ」
「何が、……!?」
アスモデウスは群衆。
その背後を見て驚愕。
そこには、無数の黒龍。
「あれは俺の使役する魔術だ。少しでもここに近づけば、容赦なく死を与える」
「そこまでするのか!? なんと外道な!」
「結構。俺は闇の魔王だ。外道くらいは思ってもらわないとな。さて」
俺は片腕を空に上げる。
「やれ」
掛け声と共に、龍たちがこちらに蠢く。
「ま、待て! オレを殺せば、他の八罪が動くぞ!?」
「どうでもいい。そいつらも潰す」
「ふざけんな! なあ頼む! 何でもする! 何でもするから!」
「何でも? なら、そこから抜け出してみろ」
「できねえんだよお! 誰か助けて! この化け物に殺されるう!」
「話しはここまで。断罪だ。落ちろ」
龍たちが一斉に口を解放。
アスモデウスを
「が、ぎゃあ! 待って! 話を」
噛砕。
ガチャン!
……
血液一つすら残らなかった。
「さて。俺に向かってくるものは?」
……
誰もこないと。
「では、この地を侵略」
「ま、待ってください!」
俺の前に一人の少女。
「ま、魔王ルシファー! 勇者ラストの名の元、あなたにしぇ、宣戦布告します!」
それは、震えながら剣を持つラストだった。
魔王と勇者の邂逅。
これは、俺たちが入れた嘘のイベントだ。
魔王ルシファーと、それに立ち向かう勇者ラスト。
ここで二人が戦い、俺が敗北。
ラストの信頼を絶大なものに。
というのが、主な内容。
勇者と魔王が織り成す結末。
それを、今ここで行う。
民衆や勇者たちは、怯えて手出ししてこない。
絶好のチャンスだ。
え? 勇者リリスはどうしたかって?
彼女はウリエルと戦い、重症で動けない。
とラストからこっそり聞いた。
よって、ここにはなんの邪魔も入らない。
最高の舞台だ。
では早速、仕上げに取りかかろう。
全ては、ニートになるために。
と考えていた俺は浅はかだった。
このあと、事態は予想外の混迷を極める。




