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序章 一話 勇者ルシフェル/数年後魔王ルシファー

「俺は魔王になる。お前にはその補佐を頼みたい」


「わかっ……って、ふぁっ!? なんでですか!?」


 ここは魔王城。


 現在、俺はシスター服の銀髪少女と対面していた。


「魔王の私に対し、何を言っているかわかってるんですか!?」


「わかってる。その上で言ってる」


「はあ……少し整理しても?」


「どうぞ」


「どうも」


 少女は近くの玉座に腰を下ろす。


「それでは。あなたは勇者ルシフェル。ここには魔王討伐をしに来た」


「そうだよ」


 俺の名前だ。目的もあってる。


「そして、私は魔王ラスト。ここ、魔王城と魔王領の主。勇者と敵対関係にあります」


「だな」


 彼女のことだ。これも間違ってない。


「私たちは先ほど、お互いに争いましたね?」


「争った? お前、すぐに降参しただろ?」


「そこはおいといてくれます!?」


 ラストは床を蹴り、涙目に。


 魔王とはいえ女の子。


 いじめるのはよそうか。 


「……失礼。そこで私は負けましたね」


「だな。で、お前は何でもすると言った」


「ええ、言いました。言いましたけど」


 ラストは顔を真っ赤に、人差し指を俺に向ける。


「なんであなたの補佐!? しかも、勇者であるあなたが魔王になるなんて!」


「わかってもらえたようで。じゃあ今から」


「いやです! そんな頭のおかしいことに付き合うのは!」


「おかしいか?」


「おかしいです! 魔王として理由を求めます!」


 負けた癖にずいぶんと高圧的だな。


 まあ、話が上手くいかないのはわかっていたさ。


「なら話を手短にする」


 といっても、納得してもらえるか。


 客観的に見て、俺の話はあまりにも馬鹿馬鹿しいし。


「実はな? 俺には夢があるんだ」


「」ゴクリ


 そんな真剣な話じゃない。身構えないでくれ。


「ニートになりたい」


「なんて素敵な夢……ふぁっ? にーと? もしかして、働かない人のことですか?」


「そうだよ。社会の頂点に位置する存在だ」


「頂点って……。まあいいです。で? なんでニートに?」


「元の世界でニートやってたから。その時の延長だな」


「もとのせかい?」


「異世界。俺は転生者ってやつ」


「いせかい? てんせいしゃ?」


 ダメだ。この顔は理解してない。


 俺は日本から異世界転生した。


 と言われてもわからないか。


「えーと? つまり、あなたはニートになりたいと?」


「そうだよ。そこだけ理解してもらえれば」


「なるほど。けど、一つ。わからないことが」


「もしかしてニートの魅力?」


「どーでもいい!」


 その話なら一日中できるぞ?

 

「魔王になる理由は? ニートなら、勝手になればいいのに」


「無理。この世界は悪人まみれ。勇者を辞められる雰囲気じゃない」

  

 悲鳴とか血の雨とかで、おちおち寝てられやしない。


 しかも勇者の使命から逃げたら、追い詰められて処刑ときた。


 それで何度死にかけたか。


「そこで、俺は悪人を滅ぼすため魔王になる。あと、歪んだ勇者のシステムも終わらせる」


「随分と考えがぶっ飛びましたね!?」


 だって、元いた世界の常識が通用しないし。


 なんなら常識は無いようなもの。


 ここは多少強引に動かなければ、平穏なニート生活は送れないだろう。


「まずはある程度、世界を征服。魔王が世界中で活動できる環境を作る」


「無茶苦茶な。だいたい勇者は? 辞めるんですか?」


「いや? 続ける」


「は? どういうこと?」


「そのままの意味。二重生活」


「にじゅうせいかつ?」


「ああ。魔王と勇者。その裏表を征服する」


 言ってて気づいたけど、結構ハードだよなこれ。 


「つまり光と闇を支配すると? なんで」


「魔王の支配だけじゃな。後々、勇者に反乱されたら面倒だし」


 やるなら、仕事残りがないようやるべき。 


 光と闇で上手く立ち回り、全てを調和させる。


 これなら、反乱なんて簡単に起こらないはずだ。


「だから俺は、勇者と魔王を演じ、世界を平和にする。で、最終的にニートになる」


「……」


「以上。お前にはその補佐を頼む」


「……」


 ラストは指で玉座を軽く叩き続ける。


 ストレス?


 いや、すごい考え込んでる感じだ。


「不満か?」


「そうですねぇ」


「文句くらいは聞いてやる」


「い、いや。あなたが魔王になるなら、うちの領地が豊かになるかもなと」


 そういえば、この辺一帯は荒れ地だったな。


 今の話で、おこぼれが貰えるかもと揺らいでいるのか。


「なら手を組む以外、道はないな」


 俺はラストに手を差し出す。


「え?」


「ついでだ。この地を豊かにしてやる」


 魔王としてここに居座るんだ。


 それくらいは義務。


 なんなら、ここで第二の人生を送るのもあり。


「でも」


「よろしく」


「もう少し考える時間を」


「くどい。よろしく」


「よろ、しく?」

  

 首を傾げながら、手を取るラスト。


 ひとまず、第一関門は突破だな。


「となると、今からあなたは魔王ルシフェル様?」


 いや、それだと勇者の時と名が同じ。


 ここは魔王らしい偽名を決めないと。


「じゃあ、魔王の時はルシファーで」


 ルシフェルだからルシファー。

 

 悪くないな。


「ん? ルシファー? その名はどこかで」


「おしゃべりはここまで。さっそくだが、お前にも勇者を演じてもらう」


「はあ!? 魔王の私が!?」


「当たり前だ。何でもすると言ったんだ。責任を持て」


「た、確かに言いましたけど」


「よし、決まり」


 俺はラストの手を引く。


「ちょっ、ちょっと!?」


 こうして、俺たちの第一歩が始まった。


 さて、まずは魔王の征服活動からだ。


 ◇


 数年後。魔王城の大広間。


「連勤辛えー」


 俺は神父服をまとい、玉座にて着席中。


「魔王ルシファー様」


 隣からラストが声をかけてきた。


「ラストか。今日の予定は?」


「はい。朝は魔王として征服活動。午後は勇者として訓練。夕方はこの城にて会食です」


 勇者と魔王を始めて数年。


 ある時は魔王として世界征服。


 ある時は勇者として人を救ってきた。


 予定はいつも過密。休む暇なんかほぼ無い。


「おい待て。取り消しは?」


「出来ません。全て、魔王様が参加しないと」


「なんとか」


「無理! 交渉して、これでもスケジュールを削ったんです!」


 そう言われちゃ、やらないとは言えないか。


 俺はよろけながら立ち上がる。


「今さらだけどさ。俺、なんでこんなに働いてるの?」


「魔王様のアホな目的が原因かと」


「そんな俺についてきたお前もアホだな」


「あなたにだけは言われたくない!」


 ラストとは、いつもこうやってやり取りをしてる。


 主従関係は線引きしつつ、言いたいことを言い合う。


 悪くない。

  

 変にかしこまられるより、気楽だ。

 

「それより気を引き締めて下さい。次で最後の征服なんですから」


「マジか。はっや」


「といっても、魔王側で一区切りつくだけ。勇者の支配は、まだですよ」


 これだけやっても、まだニートにはなれないと。


 厳しいなあ。


 なんて、これは予定通り。


 魔王の支配はあくまで通過点。


 ここからが本番だ。


「ようやく、ニートへのスタートラインだな」


「ですね。では魔王様。征服はもう始まっておりますので」


「お、そうだな。さっそく行きますか」

 

 俺たちは魔王城から旅立つ。


 まずは最後の征服に向けて。


「ところでお前、今日で何連勤?」


「そうですねぇ。五十?」


「勝った。俺、四十九」


「少ない方が勝ち!? はあ。明日は、お互いにお休みを取りましょう」


 賛成。俺、この連勤が終わったら、優雅なティータイムを送るんだ。

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