第七話
「そういえば、姉さんは何の妖怪なんですか?」
すっかりきれいになった校長室で一休みしていた友弘は、鴉丸の編入書類を確認している五郎に聞いてみた。
五郎はしばらく考えた後、困ったように笑った。
「鴉丸の姉さんは、表向き八咫烏、光を導く妖怪。しかし、裏では夜叉鴉の作り出した化け物と呼ばれてます」
「そっかぁ・・・・・・とにかく凄い妖怪なんだ。ね?」
カイトに話を振ってみたが、カイトは話しに一切耳を傾けず、折れたかんざしと睨めっこをしていた。
妖力や神力をまったく持っていない友弘には分からないが、妖怪である五郎は肺を潰されるような息苦しさを感じていた。
「カイトさん。どうかしましたか?」
「ものすごく、いやな感じがする」
そこで、友弘はカイトが神力を抑えきれず、漏れ出している力が五郎に影響している事を理解した。
「いやな予感は分かったけど、その前に力を抑えないと、五郎さんがすごく苦しそうだよ」
「無理だと思います。カイトさんの言う通り、そのかんざしは邪気をまとっています。妖怪には害がありませんが、人間には体調不良や、ひどい時には死の危険もあります。今はカイトさんが己の力で邪気を無意識に跳ね返している状態です」
「そいつの言う通りみたいだ。感情がコントロールできない」
カイトは眉間によったシワをほぐそうと額を撫でながら。困ったようにため息をついた。
「じいちゃんに御祓いをしてもらうか」
「おや? カイトさんは神力を持ちながら、浄化ができないのですか? それくらいの邪気ならば、すぐに祓う事が出来るはずですが・・・・・・」
「俺は霊感が強いだけで、特別な力を持った覚えはない。さらっと言われても分からないし、出来ない」
カイトの言葉に納得した五郎は、少しの間考えると、笑顔でカイトに近寄った。
「言われてみればそうですね。僕がお教えしましょう。知っていて損はありませんし、結構役に立ちますよ」
向かい側のソファーに座り、その隣に友弘が座ると、五郎は掌を見せるように広げた。
「妖力と神力はとても似ています。ただし、妖力は制御が難しいので、妖力を持って生まれる人間は少ないです。さて、浄化に必要なのは、清い力だけです」
五郎の掌から小さな青い炎が現れた。その炎は時折パチパチと音を立てながら赤くなっては青に戻っていた。
「これが清い力を形にしたものです。この火は邪気を酸素の変わりに燃えています。時々赤くなるのは、強い邪気に反応しているからです」
試しに炎をかんざしに近づけてみると、先程まで時々赤に変わるだけだった青い炎が、真赤な炎へと色を変えた。
「つまり、その火をだせば良いって訳だな?」
カイトは掌を広げ、力を込めてみたが、何も起こらなかった。
「これにはコツがあるんですよ。掌だけに血を集中するような感覚で、神力を集中させます。それを形にするには、頭の中に邪気を燃やす炎を浮かべれば、うまくいくはずです」
カイトは言われた通りに掌だけに意識を集中し、邪気を燃やす炎を思い描いた。
それでも青い炎は現れず、だんだんとイライラしてきた。
「無理だ! 大体そんな化け物染みた事、人間の俺に出来るはずがない」
バン! と机を叩くと、ソファーに仰け反り、わざと大きな欠伸をした。
「何事も努力が必要だよ。カイトはまだまだ始めたばっかりの初心者なんだから、これくらいの事でへこたれてたら、鴉丸の姉さんに笑われちゃうよ」
返事を返さないカイトに友弘は困ったように笑うと、脳裏に鴉丸の姿が浮かび上がった。
「そうだ! 姉さんに教えてもらえばいいんだよ!」
我ながらいいアイディアだと飛び跳ねる友弘を余所に、カイトは目を丸くした。
「じょ、冗談じゃない! 誰が鴉に教わるかよ!」
「僕もそれはやめておいた方がいいと思いますよ。姉さんは確かに最強の妖怪ですが、物事を教える時は最悪ですから」
急に顔色を悪くした五郎の様子から、やめたほうが良いと悟った友弘は、その案を取り消した。
「と、とりあえず、このかんざしは僕が浄化しておきますので、お二人はそろそろ授業とやらに、戻ったほうが良いのでは?」
すっかり授業を忘れていたカイトと友弘は、全速力で校長室から教室まで駆けた。
短いですけど久しぶりの更新です!
テスト期間も終わり、後は夏休みを待つだけ!