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八咫鴉様と俺  作者: 白猫
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第弐話

「祟られても知らないぞ」


「大丈夫だって。相手は侍なんだから」


顔が青いカイトに引き換え、友弘はルンルンと鼻歌を歌っている。


「違うだろ。この祠には妖怪が封じられてる・・・・・・ってじいちゃんが言ってた」


カイトは祠の前に供えられている大量の塩をどかしながら鋭く言った。


「そんなの、ただの迷信でしょ?」


「もしかしたらって事も、あるかもしれないだろ」


やっとの事で塩をどかすと、カイトは急いで神木の陰に隠れた。


「後はお前がやれ。俺はここから見ててやるから」


「・・・・・・その前に言っておくけど。この祠、もしかしたら空かもよ? 扉も壊れてるし」


友弘が指差す先には、朝見た時よりもひどい姿となった祠だった。


「塩をどかしてるときに気付かないなんて、そんなに怖い?」


「うるさい! 一体誰がこんないたずらを・・・・・・」


クスクスと笑う友弘にカイトは口をヘの字にしたまま言った。


とにかくじいちゃんに報告しようと神木の影から出てきたカイトは、人ならぬ気配を感じた。


「それはわしの所出だ。別にかまわないだろう? そのような祠など」


声は屋根の上から響いてきた。すぐさま屋根の上に視線を移すと、そこには派手な着流しを着た、侍らしき人物がゆうゆうと煙管を吸っていた。


「久々に外に出れたと思えば何だ、この変わり様は。おかげでわしの部下どもも消えたではないか」


侍は屋根から軽々と飛び下りた。

そして祠の前にたたずむ友弘と、神木の横に座り込むカイトを、ゆっくりと笠の下から観察し、その場に腰を下ろした。


「あの~・・・・・・自己紹介をしてもらってもかまいませんか?」


「相手の名を聞く前に自分の名を語るのが常識だ」


侍は友弘の方に煙をはくと、何処からか煙草盆を取り出し、灰を落とした。


「すみません。僕は古川友弘。こっちの怖がりがここの寺の和尚の孫、福井カイトです。すぐ近くにある高校に通っています」


「ワシは名を多数持つからな。鴉丸と名乗っておこう。ついでに六百年前の化け物だ」


化け物と言う言葉に、カイトは四つん這いで友弘の影に逃げ込んできた。


「もしかして、この祠にいた化け……妖怪ですか?」


「そうだと言ったら?」


「特に驚く必要もないですね。僕はもっと、・・・・・・ま、いいや」


友弘の言葉に鴉丸は短くと笑うと、立ち上がり笠をはずした。

笠の下に隠れていたのは、友弘が予想した通りの整った顔立ちをした、まだ幼さを残す女だった。


「外見は人みたいだね」


「どこから見ても気味の悪い女にしか見えないだろ。髪の毛が異常なまでに長いし」


「気味の悪い女子おなごで結構。そこの茶髪はともかく、貴様は相当の臆病者だな」


煙管をふかし、下駄を鳴らしながらゆっくりと鴉丸が近づいてくる。


「大体どうやって封印を解いたんだ? 俺のじいちゃん、一応結界を張ったって言ってたけど・・・・・・」


「あんな貧弱な結界、ワシには無意味だ。どうやら、この六百年で妖力どころか神力も衰えたようだな。それに行っておくが、封印されたのもワシの意志があってのことだ」


そうでなければ、封印される事はまずないと言い張る。


「意志って、自分から封印されたってことですね」


「そうだ。ワシの寿命は永遠に近いが、いつかは死ぬ。しかし封印され、その期間眠り

続ければその分長く生きることが出来る。それに退屈だったからな」


頭をガリガリと掻きながら、深いため息をついた。


「あんた、いくつ?」


「さあな。八百歳くらいじゃと思うが。今回は六百年、以前は百年寝ていたからな。普通に生活してたのは百年だけだ」


「なんか面倒くさい生き方だな」


「わしには生きる場所がない。目的も、意味さえもない。ただ偶然生まれてしまった化け物だ」


鴉丸の瞳は一瞬だけどこか遠くを見つめた。色んな所で鈍感なカイトは気付きもしなかったが、気持ちに敏感な友弘は鴉丸の見る先が分ったような気がした。


「ところでそんなお話、他人の僕たちに話して良いんですか? 普通は隠しますよね」


「何を言ってる。わしはこれからこの時代を生きる。そのためには付き添いが必要不可欠。そこで腰を抜かしている腑抜けは、これからわしの世話をするのだ。だから説明したまでだ」


「は?」


鴉丸の発言に、カイトの口からは驚くほどの高い声が漏れた。


「当たり前じゃ。六百年前、ここはわしが制した山だった。

そして人間と言えば、そのふもとに集落があるくらいの妖怪の時代だったからな。

今のように、空気の不味い時代の中、何も知らずに生きていけるわけがなかろう。

ついでに、この寺の周辺をわしの力で洗浄した。そうすればわしの手下どももここへ集まる。元々この寺はわしの手下が作ったものだ。貴様のような腑抜けな青二才に拒否権はない」


カイトを見下したように笑う鴉丸の顔は、カイトを黙らせるのには効果的だった。


「じ、じいちゃんはどうするんだよ。ああ見えて結構意地っ張りなんだぞ」


「心配無用。もう話はつけた。若くいたいのであれば、わしを置けと言っておいた」


「それって、じいちゃんがまるで・・・・・・」


いたずらっぽく笑う鴉丸に、カイトはいやな予感を感じた。


「あのガキが若いのは、わしの体から漏れた妖力の力が原因だ。わしがここを離れればすぐに迎えが来る。天からな」


カイトが顔をしかめるのと同時に、鴉丸は先程とは違う、冷たい笑みを見せた。


「分った。付き合ってやる。だが面倒事は御免だからな」


「それくらい心得ておる。話が変わるが、ここらへんに紅鳴と言う名字を持つ家はあるか?」


「ああ、それならこの寺の近所にありますよ。三十分はかかりますけど」


「そうか。おい腑抜け坊主。わしはこれからそこへ行く。付き合え」


そう言うと鴉丸はズカズカと寺の中に入って行った。


「困った事になったねカイト。それともこの寺に来たときから覚悟してた? こういうのは付き物だもんね」


相変わらず呑気な友弘は、よいしょ、と声をあげながら立ち上がり、服についた泥や埃を払った。


「考えた事もないに決まってるだろ? 六百年前の妖怪が自分ちに来るなんて」


「それもそうだ。だけどきれいな姉さんだったじゃない。僕たちと変わらない人間に見えるし」


「いいよな、お前は脳天気で。これだから霊感のない奴は苦手なんだよ」


「そうだねぇ。カイトは霊感強いもんね。けど、神力って言った方が良いんじゃない?


鴉丸の姉さんが言ってたし」


それにそっちのほうがかっこいいじゃん、と満面の笑みで、友弘はボサボサな毛玉のようなカイトの頭をグシャグシャにかき混ぜた。


「知らねぇよ。それより紅鳴って、あのでかい家の事か?」


「ああ。カイトは行った事ないっけ? あの家は祖先が祓い屋をやってたらしいんだ。

だから疫病神が寄り付かない。おかげで繁盛してるって噂が流れてる」


「それが本当だったらあの妖怪の敵だろ?」


とにかくその家へ行って、もう一度封印できるかを聞くためにカイトは足を進めた。


「そうだな。確かに敵だった。しかしそれはわしが暴れていた時のみだ」


突然の出現に、カイトはまたもや腰を抜かした。

そんなカイトの目の前には、刀をぶら下げた鴉丸が煙管をふかしながら立っていた。


「瞬間移動ですか?」


「いいや。わしの実力だ。ほら行くぞ」


「ちょっと待て。その格好で行く気か?」


「そうだ。何か不満か?」


「ありまくりだ。はぁ・・・・・・どうせその着物も男物だろ? 俺の服を貸してやる」


服を取りに行こうと、寺に一歩踏み出したカイトだったが、鴉丸の言葉で考え直した。


「わしは、そのようなきつ苦しそうな服など着たくない。ましてや貴様のような、ひょろひょろの服、わしには小さすぎるに決まっておる」


「それもそうだ。カイトは高1にしては小さいもんねぇ」


鴉丸と一緒になって笑う友弘に、カイトは言い返したくなったが、事実なので言い返す言葉が見つからなかった。


「余計なお世話だ。俺はこれから大きくなるんだ」


鴉丸率いる高校一年生は、町でも有名な屋敷、紅鳴家へ出発した。

最初の妖怪の登場です。鴉丸はその名の通り、鴉の妖怪です。


カイトの家系は先祖代々霊感が強く、妖怪独特のにおいや力を感じる事が出来ます。

妖怪は元々実体があるため、特殊な力がなくても見えます。

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