第壱話
物語を文字にするって難しい(泣)
カイトは窓際の、前から三番目の席で昼寝をしていた。
自分で作った弁当には手をつけず、代わりに学校の売店にあるアンパンを買って食べ、空腹をしのいだ。
「カイトさぁ、何のために弁当作ってるの? もったいないよぉ」
カイトの親友、古川友弘はカイトの髪の毛を引っ張りながら、手をつけられていない弁当箱を覗いた。
「なんか癖で作ってる。食べる気はしないけどな」
「そうかぁ。じゃあ僕が食べるね~」
「おう・・・・・・あ、そういえば最近夢を見た」
「夢? 女の子の夢とか」
友弘は米粒を口の周りにつけたまま、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「なんでニヤニヤするんだ? 残念ながら、外れだ。うちの寺に祠があるだろ? あの祠の扉が開いて、中から刀を持った侍が出てきたんだ」
「侍が出てくるのかぁ・・・・・・ありきたりすぎて、つまんない。本当に出てきたの?」
「夢だって言っただろ。だからじいちゃんに話したら、祠に手を出すなって言われた」
「カイトは何にでも首を突っ込むからねぇ。おじさんも苦労してるだろうな」
米粒を一つも残さず弁当を平らげた友弘は、御地租様と手を合わせると、生き物の本を片手に世間話を始めた。
「どうやったら遠くからチワワと猫が区別できるか、一緒に考えてよ」
「そんなの形で分るだろ? それよりも古典を教えてくれよ。チンプンカンプンなんだ」
汚い字でぐちゃぐちゃに書かれた国語のノートを友弘に見せた。友弘は顔を引きつらせ、ノートから顔を背けた。
「それは授業中に寝てるのが悪いんだよ・・・・・・そんなに祠の事が気になるんだったら、いっそのこと開いちゃえば?」
「無理。祟られたらどうしてくれるんだよ」
「怖い? どのくらいその夢見てるの?」
カイトの頬を左右に引っ張りながら、友弘は子供をあやすように問いかけた。
「先週からずっとさ。怖くはない」
「怖くないの? じゃあさ、今日そのお侍さんを退治しよう!!」
カイトの反応を楽しんでいる友弘は、黒い笑みを浮かべた。
「うぎゃ!」
いきなり友弘が立ちあがったもので、カイトは思わず椅子ごとひっくり返った。
「イテーじゃねぇか!! 大体退治ってなんだよ。そいつは夢の話しなんだぞ」
「でも原因は祠なんだから、そこを何とかすればいいでしょ? 準備は僕がするからさ」
友弘は心底楽しみだといっている様に目を輝かせ、自分の席へと戻っていった。
睡魔地獄の5・6時間目が終わると、友弘はすぐさまジャージに着替え、鉢巻を巻き、どこからか竹刀を用意してきた。
「僕、一度でも良いからお侍さんと戦ってみたかったんだよね」
「だから夢なんだって」