第十三話
ムクロ山VS六山。あっさりと終わります(^w^)/
九尾の結界に足止めされていた雪女と五郎の二人は、やっとの事で寺にたどり着いた。
「姉さぁぁぁぁぁん! 無事ですか?」
五郎が飛びつくように鴉丸の側に駆け寄ると、鴉丸は無傷で煙管を吸っていた。
鴉丸は無言で五郎にあるものを見るように促すと、五郎が息を呑む音が聞こえた。
「甘く見てたかも」
五郎の視線の先には、ムクロ山でも有名な妖怪、九尾が鉄の檻に入っていた。その側には神と呼ばれる聖獣、白虎と朱雀。鴉丸の配下にいる狛犬の風がカイトの側に座っていた。
「おやおや。人の子じゃぁないかい。黒もずいぶんと、落ちぶれたもんだねぇ」
ゆっくりのんびりと鴉丸に塚づいてくるのは雪のように白い、背の高い雪女だった。
「あれは九尾を抑えた。その上、聖獣二匹も呼び寄せた。よもや人の域にはいないだろう」
満足気に紫煙を吐き出す鴉丸を横目に見て、五郎は思い出したかのように辺りをキョロキョロと見回した。
「姉さん、ムクロ山の頭領はどこに行ったんですか?」
本来なら鴉丸は白狐と手合わせしているはず。しかし白狐の姿は見えず、鴉丸にも争いの後が見えなかった。
「女狐なら、カイトが呼び寄せた聖獣に興味を持ったようだな」
突然カイトの前に現れた白狐に、五郎は己の事のように驚き、鴉丸や雪女に助けなくていいのかと聞いた。
「神力は、磨けば一睨みで妖怪を殺せるんだよぉ」
雪女は、何が面白いのかケタケタと笑いながら五郎の頭を乱暴に撫でた。そして雪のように白い着物の懐から、やはり雪のように白い煙管を取り出した。
「葉を分けてくれるかねぇ」
鴉丸は無言で葉の入った袋を雪女に渡した。雪女は葉を詰め、火をつけるとゆっくりと煙管を楽しんだ。
一方カイトは突然現れた女に驚き、隣にいた風に抱きついた。
「な、な何の用だよ。化け狐」
「化け狐とは、失礼だね。私はここの主だよ」
「ここの主は俺だ。山はバ鴉のものだ」
「別にお前さんだっていいんだぜ?」
ショウオウは楽しそうに羽でカイトを突付いた。炎をまとった羽に触れられたカイトは叫び声をあげながら更にきつく風に抱きついた。
「貴様。主に危害を加えるとは・・・・・・」
キヨウの声をさえぎるように、白狐は口を開いた。
「今の時代、神力の持ち主は激減した。陰陽師も消えた。よもや見る事も敵わぬと思われた聖獣のうち二匹をここで見られるとは思わなかった」
「我らも同じだ」
「して、人の子。私は悪霊を成仏させる力がある。そなたが望むのなら、天へと導いても良い」
表情を読まれないように扇子で口元を隠し、カイトに問いかけると、カイトは風から離れた。
「遠慮しておく。やり方も調べた。今は、この町の平和を守ることが先決だ」
高い位置にある寺は町を一望でき、そこからは上空を飛び回る妖怪や草木を食い荒らすよう回の姿も見られた。
「・・・・・・そういえば、ここの伯父さんはどこに行ったの?」
カイトは寺の次期主であり、本来はここの和尚、翔尾が寺の主として出てこなければいけない。
「小僧ならわしが部屋に閉じ込めた。小僧はただの役立たずだからな」
灰を地面に落とし、煙管をしまった。
「確かに、伯父さんは姉さんの力で生きてるから、白狐に力を奪われたら一大事だしね」
白狐にゆっくりと近寄る鴉丸の後ろを追いながらのんびりと呟いた。
雪女はその場にとどまり、雷がとどろく空を見上げていた。
「黒犬。その子を渡せば、今日は山に戻ろう」
何かを企む瞳で鴉丸を見つめ、口元を歪めた。
鴉丸はチラッと白狐を見てから、左腕を空に伸ばし、何かを探るように手を動かしていた。そして、その何かを見つけたのか、拳を握り、勢い良く振り落とした。
鴉丸の手が下ろされるのと同時にこの世の生き物とは思えない生き物が落ちてきた。
「わしの所有物を、女狐に渡すわけがあるまい。貴様の相手はこやつだ」
サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビの生き物、鵺はムクリと起き上がり、その不思議な顔でヒシヒシ笑い始めた。
カイトはその笑い声に鳥肌が立ち、ショウオウが隣にいるにもかかわらず、寒気が襲ってきた。
「鵺、それは神力の持ち主が呼び寄せる獣。なぜ黒犬が呼び寄せた?」
「わしは人間だった。それは昔から言っている。それに、女狐程度に己の手は下さん」
下せば亡き者にしてしまうからな、と見下したような笑みでかえす鴉丸に、白狐は扇子を持つ手に力を込めた。
「鵺は電気をまとう獣。四方を守護する聖獣には含まれていない性質を持っている。さらに、こいつはわしが眠っている間、食事を一切していない。意味は、分かるな?」
「私の部下を食したのかい?」
「いや。女狐以外の妖怪は九尾以外、すべてわしの部下が山へ返した」
「小娘が調子に乗りおって、この私が鵺ごとき、獣に遅れを取るはずがなかろう」
不気味な笑いを聞かぬように自分に言い聞かせ、冷静を保っていた。しかし、鵺はゆっくりと獲物を追い詰め、今にも飛びつく勢いだった。
「おいバ鴉、そのヒシヒシ妖怪、気味悪すぎだ。何とかしろよ」
「主、顔は生まれ持っているもの、変える事はままならないのでは?」
「それでも、毎晩あの顔を思い出すのはゴメンだ」
「確かに、友達ができなさそうだなぁ」
カイトは風の影で鵺を指差しながら言うと、キヨウとショウオウがその場に似合わないほどの口調で話し始めた。
「ヒシヒシ・・・・・・何年ぶりの地上だろうなぁ。ヒシヒシシ、狐もいいが、小僧もいい」
虎が唸るような声で言葉を発した鵺は、白狐からカイトへと目線を変えた。
「お、俺は怖くないぞ。ぜんぜんだ。大丈夫だ。その妙にクリッとした黄色い目も怖くない。おいしくないし」
「ヒシヒシヒシ。もうじき嵐が来る。電気をまとった嵐だ。狐はどうする?」
鵺がゆっくりと振り向くと、白狐はゆっくりと扇子を閉じた。
「黒犬、災いはいつか、貴様に降りかかる。その時、この山は崩れ、妖怪は消える」
白狐は悔しそうに顔を歪めると、ゆっくりと寺を去って行った。
「ふん。味気のない一団でしたな」
いつの間にか鴉丸の隣に立っている正陀はまだ興奮気味の雷を落ち着かせながらため息をついた。
「何だあれ? 戦いどころか、ただの話し合いじゃないか? て言うか、嵐のために帰ったのか?」
散々暴れるような雰陰気を出しておきながら、鴉丸は戦わず、白狐も戦わず、呼び寄せた鵺は笑っているだけで、自分は九尾を捕まえた。結局、ほとんど土地争いらしき事はしていない。
「雷は電気。電気は妖怪にとって致命的な傷を作る。特に、女狐の用に、獣が妖怪になった場合、それは避けなければいけない」
「さて、やる事は終わりましたので、帰らせていただくよ」
正陀は雷と風を引きつれ、どこかへと消えていった。
「出番がなかったねぇ。ま、黒に会えただけよしとしようかねぇ」
雪女は相変わらず同じ位置で紫煙をはいていた。
「主、我らは四方の守護に戻りますゆえ、必要な時はなんなりと」
そう言い残すと、キヨウとショウオウは札へと姿を変えた。
カイトはそれをすばやく回収し、ポケットにしまった。
「ヒシヒシヒシ・・・・・・帰るかねぇ」
蛇の尾を揺らしながら空へと登る鵺を見送り、ようやく寺に静寂が戻った。
女狐の指示で町に放たれていた妖怪はすべて山へと戻り、町も静かな夜を迎えていた。
「寝るか」
「あ、俺と舞姫さんもここでお世話になります」
「はい?」
鵺って本当に気味悪いんです!!
なんていうか、目が、気味悪いんですよ! 顔が猿だし・・・・・・