「古の裂け目の鏡(いにしえのさけめのかがみ)」
"ひび割れた鏡が君を映すとき──それは、君の知らない顔を見せるかもしれない。"
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宮殿のガラスの灯が徐々に消え、リースたちの前に降りてきたのは、天井から垂れる影のベールだった。
その大広間の中央に立っていたのは、ひときわ大きな黒水晶の鏡。
縦に走る無数のひびは、まるで遥か昔の地震の残響のように広がっていた。
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壊れた自分との対峙
最初に進み出たのはセイロンだった。
遠くから自らの姿を見つめ、そのひび割れの中で、反射が複数に揺らいでいた。
その瞬間、鏡の奥から囁きが漏れ出す:
> 「痛みを通して己を見つめる者は──
剥がせぬ仮面と向き合うことになる。」
静かに歩み寄ったイヴェラが、そっと鏡の表面に手を添える。
冷たい水晶が震え、青い光が放たれた。緑のスペクトルが混ざり合いながら、忘れられた物語を語り出す:
かつてのアールドライ、空の彼方で揺れる炎の弓。
破滅を知らぬ子供たちの笑い声。
世界が砕け散ったその瞬間の、胸を裂く悲鳴。
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映し出される真実
リースは鏡の前に立ち、自分の中の声と向き合った。
> 「お前は“灰の者リース”か?
それとも、古の象徴が宿る器か?」
迷いに飲まれぬよう、彼は手を伸ばし、冷たい水晶に触れた。
血管の中で何かが脈打ち、裂け目の向こうから呼ばれるように感じた。
> 「裂け目を超え、真実に触れよ。」
その瞬間──
鏡から黒い影の手が現れ、リースの手を掴んだ。
彼の意識には、見知らぬ記憶が溢れ出した:
倒れゆく指導者たちの姿──
滅びに向かう子供たちのまなざし。
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静寂の爆発
その手が突如として消え、鏡全体が震えた。
黒い欠片が宙に舞い、まるで黒真珠のように煌めいたかと思うと、すぐに再び形を整え、千年を超えた姿を保った。
仲間たちが息を飲む中、セイロンが静かに言った。
> 「裂け目は彼の力を見た。
これより、旅立ちの刻が来た。」
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第十四章・終