第2章モノローグ リョウの自問
──ミナは、何を言おうとしたのだろう。
俺に何を伝えたかったのか。
公園にひとり残されたリョウは、ベンチに腰を下ろしたまま、空っぽの視線で目の前の地面を見つめていた。
足元を通り抜けていく湿った風すら、もう感じない。
突きつけられた事実を、いまだ飲み込めないでいた。
彼女の言葉のひとつひとつが、身体の内側に沈んでいくようだった。
突き刺さるのでも、焼け付くのでもない。
ただ、重い。深く、静かに、沈んでいく。
異能。
自然に逆らう力。
そして——
お前は、普通の人間じゃない、と。
「冗談じゃない……」
ぽつりと漏れた声が、夜気に溶けた。
けれど、それ以上の言葉は続かなかった。
否定したい気持ちはある。
だが、否定できるだけの何かを、彼は持っていなかった。
自分の力を理解していない。怖れている。
受け入れられず、見ないふりをして生きてきた。
——それが、全部、見透かされていた。
彼女の目は、あまりにも真っ直ぐだった。
「……俺は、本当にただの人間じゃないのか?」
問いかけても、返ってくる声はない。代わりに浮かんできたのは。
あの、”事故”の記憶だった。
赤く、熱く、焼け焦げた鉄の匂い。瓦礫の中で、手を伸ばした先に──
「…くそったれ」
あれが、始まりだったのか。
だとすれば。
「あのとき、目覚めた力… あれが俺の、罪だとでも」
誰かのせいにしたい。だけど、それすらできない。
自分が一番、自分を疑っているからだ。
自分の存在そのものが、何かの間違いなんじゃないかと。
けれど。
けれど、あのとき彼女が言った言葉の中に、ひとつだけ、救いのような響きがあった。
——思い出して。
それは命令でも、警告でもなかった。
ただの願いのように、聞こえた。
「思い出す……俺は、何かを忘れているのか…?」
記憶を辿る。
だが、靄がかかったように思考は散らばり、焦点が定まらない。
はっきりしているのは、ただひとつ。
彼女の視線。あの黒い瞳。
「……もう一度、会わないと」
自分の何かを確かめるために。何者かを知るために。
リョウはゆっくりと立ち上がった。
風が再び頬を撫でた。湿った風。
ようやく、それを感じることができた。