新たなルール
よろしくお願いします。
もはやここは一つの街と言えた。かつての冷たさはなく、活気があり笑い声が響いている。
ここには安全があった。
ここには自由があった。
ここには豊かさがあった。
人々の営みを守るのは薄く発行する膜。シャボン玉に包まれたようなこの空間は外敵を寄せ付けない盾だった。
嘉山はシェルターを守り切った。シェルター維持できるための供物は莫大だった。けれど嘉山達はやり遂げた。その恩恵が今ここに爛々と輝いている。
中心部から外れた壁町と呼ばれるエリアには新たな住人が増えている。シェルターを失った者達は、その代わりに得た『ウィンドウ』で知った情報を元に集まっているようだった。
シェルターの破壊は投票権を持つ統率者によって決められた。その代わりとして人類が得た新たな力。それが『ウィンドウ』だった。心で念じるだけで半透明の板が浮かび上がり、シェルターで使えた掲示板機能や、個人の能力、そしてランキングが可視化出来る。
ミッションやクエストは個人単位で消化し、物資を得られる。簡易的なシェルター機能も報酬としてあるらしい。
全として維持していたシェルターのという機能が、個人それぞれで維持するウィンドウへ変わったという流れだ。
ただ、しかしシェルターが完全に消滅したわけでもない。システムによって決められた供物の数。要は課されたクエストをクリアすることでシェルターは維持し続ける。これは今までと同じだった。
シェルターの消滅の可否は人数と、魔石、そして必須クエストによって決定される。日本国内には残り130のシェルターがあり、世界では10877のシェルターが残っている。
多いようにも思えるが、元は途方もない数だった事を考えれば数えられる時点で大幅な減少は瞭然と言えた。
シェルター1501は日に日に人を増やしている。これまでとは違い、シェルターの効力はかなりの距離まで伸ばす事が出来る。シェルターの煩わしさは月に一度のクエストと供物の献上のみで、防衛機能はこれまで以上に自由自在になっていた。
かつてのような逼迫した空気は流れていない。ぼんやり光る町の外殻と、空に浮いた光る石、遠くに見える異形の群れさえ見なければここはかつての営みが戻ったのかと錯覚するほど安定していた。世界のアップデートが行われたのは凡そ三か月前。攻城戦の立役者達はそれぞれ次のステップに進んでいた。
嘉山率いるシェルター1501の者達は、この大きくなった街の管理に休みなしで働き続けている。隊員達は家族との出会いを果たした者や、居場所や安否を知ったものが殆どで当初の嘉山の目的は果たされようとしていた。新たに隊に加わる者や、別の隊に所属していた者など、シェルター1501の強みは日を増すごとに強化されていた。
それらの管理や町の細かな部分で活躍しているのは天谷だった。天谷と嘉山は歳の差は大きく離れているものの、気が合い互いの有能さを認め合っているため、親友のような関係で協力していた。
当然ただの手伝いではなく協力関係なのは、『マーク』への復讐を約束しているからである。町が大きくなるにつれて天谷の警戒は強くなり、秘密裏に色々と動き出している。
蘭香も天谷と同じように復讐心は持っているがそれよりも親友の「長月琴」行方と安否が気になって仕方なかった。流れてきた者達やランキング機能で彼女の痕跡を追い続けていたが、どうにもならない事を悟った彼女は、情報という報酬のために日夜モンスターとの戦いに明け暮れていた。ランキングシステムが導入されてからは個人での掲示板利用が可能になり、統率者権限を持つ嘉山に力を借りて‘裏クエスト‘が解放されている蘭香は長月琴の情報のために進んでいた。
このシェルターにいないのが綜馬とミケアの二人。二人の所在について語るためには前段の説明が必須だろう。ダンジョンであったあの日からミケアは故郷へ帰る事、そして綜馬を連れていく事が一番の目的となっていた。そのためにミケアは綜馬たちに力を貸してきた。
それに応えるように綜馬だけでなく天谷と蘭香もミケアのために力を貸した。大量の魔石と戦力の用意。しかし、そのどれもが無に帰す事になった。【空間魔法】で移動した先に残っていたのは暗闇だけだった。誰も理解できなかった。何が起こったのか、それとも今何か起こっているのか。何かを求めるとき答えを持っているのは決まっていた。この世界に紐づけられた絶対的法則。
消費した魔石がごく僅かだったこともあり、支払う対価は十分用意があった。
ミケアのいた世界に関する問い。その答えは主世界軸との統合。つまり、ミケアがここにやってきたように世界ごと連れて来られた。ミケアのみ座標がズレて飛ばされたのはただの偶然。バグのようなものらしい。
最悪の想像ばかりしていた綜馬たちにとって、この回答は希望を見出すには十分だった。残り全ての魔石を使い、同胞の位置を聞いた答えは一つのクエストが示されるだけだった。
‘裏クエスト‘《宝珠の欠片を集める》報酬:スキル『叡智』の獲得。
ミケアは別れを惜しむ様に寂しげな瞳を三人に向けて感謝を告げた。明日を生きるだけの希望は手に入れた、あとは進むだけ。綜馬は別れを拒絶するのが当然だと言うように自分も行くと向き直る。数回の問答ののち、折れたミケアがそれを受け入れて二人の旅が決まった。
この世界のシステムは宝珠とやらを求めるくせしてその情報を得るためには毎度魔石を必要とするという不親切使用。初めの宝珠の在りかを指し示したのは東京。二人は躊躇の素振りすらなく進む。
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