残像
本日の有馬は4-3.9.16の馬単でいきます。
嘉山と西城の決戦は驚くほどとんとん拍子に進んでいった。嘉山は戦いを長引かせるつもりはなく、西城も決戦に向けて準備を進めていた。嘉山達シェルター1501が攻略したいくつものシェルターには当然自衛隊の家族も残されており、シェルター1501をはじめとする一団は士気を上げ続けていた。
安定した環境をを作る、という嘉山の構想は明らかに確実なものへと変わっていた。相反する思想を持つ嘉山と西城。決戦までは秒読みだと両陣営とも、臨戦態勢を取りその瞬間を待つ。
先に仕掛けたのは西城陣営だった。嘉山陣営による勢いで、飲み込まれた元西城陣営のシェルターの中に潜んでいた者たちが動く。物資の焼却や、魔道具の破壊を企てたが、結果は芳しくなかった。
事前に準備していた嘉山の判断により、間者たちは一斉に捕縛。本来、シェルター1501だけであれば起こり得ない事態だったが、まるで何も起きていなかったように対処した彼らは、その事実が漏れる前に一手打った。
以前にも行った間者達を演じさせて敵シェルター内部に送り出す作戦。これが劇的な攻撃になった。
「これ、呆気なく終わりませんかね?」
上石はヘラヘラとしながら嘉山に問いかける。シェルター1501所属の者以外、勝ち馬に乗れたとご機嫌な様子だった。酒臭いものの中に入る。
綜馬が用意してくれた嗜好品は残りわずか。彼らがどうやって手に入れたのかわからないが、シェルター1501の物資であることは確かだった。
「それは、まだわかりません。慢心せず、次の攻撃を、」
「そうは言いますけどね、色々と急なことが起き続けてるんで、みんなへとへとでね。」
「今はそんなことっ、」
「まぁまぁ、言いたいことはわかりますよ。けどね、こういう攻城戦はうちらの方がよくやってきてるんですよ。まぁ、おたくは強い軍隊抱えてるから序盤は上手くいきますよ、ただ、案外勢いってのはそう長く続くものじゃないんですよ、」
「だから、この勢いがあるうちに、」
「任せてくださいよ、嘉山さん。信じる政治?でしたっけ?以前そんなこと言ってたじゃないですか。」
上石や、それに賛同する元西城派の者達に対して隊長がこめかみに筋を立てて何か言い放とうとした時、嘉山はそれを制して続ける。
「わかりました。それでは私たちは次の作戦の準備に取り掛かります。前方の指示の方はよろしくお願いします。」
「はいよー、」
ヘラヘラと笑う上石からはタバコの香りもしていた。
「良かったんですか、あれで、」
隊長は語気を強めながら嘉山に問いかける。
「あれはしょうがない部分です。組織が大きくなればああいう輩も増える。変に反発させても意味がないですから。それに、前方の隊は内からの人員はほとんど配置してません。機動力のある特Aがいますが、あれは別動隊ですし、」
「つまり、捨て戦略という事でしょうか?」
「それは違います。私たちのやり方と彼らなりのやり方がある。海の魚を川に放っても泳げないように、彼らにあった水で泳がせてあげる必要があるんです。」
「確かに、それなら。」
嘉山が彼らを見捨てて、囮のように使うのではないかと隊長は最初とは違う不安を抱いたが杞憂に終わる。
「それで、これからは?」
「しばらくは上石さん達が戦線を維持するとの事なので、一度シェルター1501に帰ります。彼との約束があるので、あ、いや、彼らの方が正しいですね。」
嘉山の浮かべた笑顔に隊長も釣られて笑顔になる。これは安堵によるものではなく、仄かに思い出すカレーの香りが理由だった。
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古森は自分の判断が完全に過ちだったと悔いる。行き当たりばったりでしかない有栖達は、目的の場所に来るまで二週間近い時間を要していた。
西城への復讐。それと同時に行われる王国の崩落。古森は自分の力がやっと認められるこの世界になって良かったと心の底から歓喜していた。だからこそ、どこかで西城の手下を続けている事には不満を持っていた。
その不満が今回の件で爆発したのだが、それを発散する場所は完全にこの場では無かったなと頭を悩ませる。
古森の作戦は至ってシンプルだった。シェルター1501と西城達がぶつかるから漁夫の利で全てを奪ってしまおうという計画。確かに有栖の実力があればそれは可能かもしれない。そんな事を思ってしまった。
有栖の持つ【崩壊魔法】は全ての理を無視したような脅威だ。それに首輪が付いていたのだから、彼はとても有能な駒だった。この首輪が外れていないことを古森は知っている。
きっと有栖はその事に気がついていないのだろう。それは、幹部しか知らない【契約魔法】の契約不履行は「死」という部分。今は完全な自由でないことを自覚しているが、本当の意味で解除されることはないと知らない有栖を利用すれば、本当の最後に立っているのは自分だけだ。
そんなふうに腹の底で笑いながら有栖の提案に乗り、ここまで来たのだが、ミスったと思うほど段取りがうまく行っていない。その間にもシェルター1501の奴らは西城の陣営を削り続けている。
結局全ての段取りが終わる頃には、両陣営の決戦間近にまでなっていた。
「おい、大丈夫なのか、これ。」
「間に合ったじゃないすか、結果オーライですよ。」
「ちゃんとあいつらやれるんだろうな?」
「次から次に、ホント信用ないんすね。悲しいっすよ。まぁ多分大丈夫ですよ。あいつら馬鹿ですけど、ただ指定された場所に行くだけですから。その練習と準備をずっとやってきたじゃないですか。」
いつの間にか軽薄な敬語を使うようになっていた有栖はヘラヘラとしながら、頼りなく胸を叩く
当然電子機器がほとんど使えなくなったこの世界で、ドローンはおろか、カメラすら用意するのは不可能に近い。魔道具の中にはカメラに近い機能を持つものがあるらしいが、そんなものを用意できる時間も仕入れ先もない。
有栖の【念写】スキルはこのカメラの代替品になる。
【念写】を発動するためには幾つか条件があり、一度訪れた場所であることや、生物の視覚を通す必要があったりする。少ない人数で割り振らなければいけなかったため、その物資や拠点作りには時間がかかった。
練度の高い古森の【土魔法】がなければ確実に間に合っていなかった。
けれど、この準備のおかげで古森と有栖は絶好の機を逃さずにいられる。幾つか撒き餌も用意している。もし仮に有栖達が用意したエリアに西城や嘉山が現れなくても、戦いが終結した後なら必ず訪れるような場所で狙うことだって出来る。
上手くいきそうなら外に出て、そうでないなら機を待つ。圧倒的に有利な立場だった。古森は心配性な性格から有栖に色々と不安を口にするが、内心では完全な勝ち馬に乗ったと思い始めていた。
当初はミスったと何度も思ったが、最終の最終で、信じた自分こそが王の資格があるのだと、笑みが溢れかけていたのだった。
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