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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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一夜の急襲

 古森は深い絶望の中にあった。この作戦は失敗する。そんなことが脳裏をよぎったのは補給班がエリアボスに進路を阻まれたと報告を受けた時だった。そんな考えを持ってはならないと何度も妄想を払ったが、一瞬浮かんだ最悪がこれから現実になろうとしているのを肌で実感してしまう。

 誰かの意思がそうさせているのか、それとも運命の悪戯か。この際どっちでも良かったし、なんでもいいから救済をと神に祈るしか選択肢は残されてなかった。


 シェルター1588は今のところ西城という恐怖のみで外に出てきていない。本来ならば1週間はたっぷりと恐怖を味合わせてから小突くように攻撃を繰り返し、10日目で魔石と魔法を使い一つの門を破壊する算段だった。しかし、その魔石を届けるはずの補給班がここには来られず、そもそも作戦どころか7日目以降の食糧の備蓄すら心許ない状況だった。

 シェルターを攻めるための仮シェルターを作りながら、殆どの者は威嚇攻撃をしたり、モンスターを倒して魔石を集めていた。

 このままじゃただの課外実習に来てキャンプをして帰るだけになってしまう。そして、その引率である自分は帰るや否や立場を失い流されておしまい。

 どうにかしなくてはならない。幾つかの選択肢が浮かぶが現実的ではないもの、倫理的道徳的に反しているもの、失敗した時今よりもっと深い傷を負うものなど、即断即決できるような計画はどうしても思い浮かばなかった。


 時間は刻々と経過していく。外から聞こえる足音が激しくなり、数も増えてくる。それだけで何が起こっているのか嫌な想像を浮かべて、再び気が滅入る。古森の不安は予想通り的中して、

「報告よろしいでしょうか」と、苦い表情を浮かべた報告役がテントにやってきた。



「もういい下がれ。撤退の準備はまだしない。一瞬でも気取られるような行動はしないように言っておけ。」


「はい。」と報告役が姿を消すのを見送ってから古森は大きなため息を吐き出す。

 完全に終わった。補給班がエリアボスに敗北し、それだけでなくエリアボスがこちらに向かってきているらしい。今から撤退準備を始めても、鉢合わせするだけ。それならばギリギリまで引きつけてシェルター1588に相手させるのが最善策だった。

 古森は今までの全てを使って現状を打破する可能性を思案する。しかし、


「後方より、敵勢力!!現在対応に動いていますがかなり厳しい状況にまで追いやられているようで、」


「なぜ早く報告しなかった!!」


「それが、伝令役が役目を果たす前に消息を絶ってしまい、」


「言い訳はいい!今すぐ前線の後方支援班並びに、魔石狩りに行ってる前衛たちを集めろ!私は対応に向かう!」


 自分は神に呪われている。いつからこんな事になったのか。なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか。苛立ちが沸々と温度を上げる。なぜ、なぜ、なぜ、と頭の中では自問自答が繰り返される。


「なぁ、古森さん。そんなしかめっ面でどうしたの。嫌な事でもあった?手でも貸そうか?」

 有栖はニヤッと口角を上げて古森の耳元に近づく。普段の古森なら否応なしに有栖を捕らえるだろう。会話を交わす事はなく、逃げ出した彼らに制裁を加えようとする。

 しかし、古森はそれをしなかった。驚いた表情は見せたものの、何かに縋るような視線で有栖の言葉に耳を傾ける。

「エリアボスの話、あれ嘘だぞ。」


「は、?」と咄嗟に有栖の方を振り向いて目を丸くする。


「西城に利用されてんだ。あいつはお前を切る気満々。あいつが管理してるシェルターの不満やらヘイトを全部お前に擦りつけて切る気なんだよ。」


「何を言って、」


「疑ってんなら、これ見ろよ。」有栖は2枚の写真を見せる。【念写】のスキルで切り取った光景。そこには報告では交戦の末に敗北したと言われていた補給班が呑気に酒を煽っている場面だった。

 もう一枚は古森が任されていたシェルター1390で、西城とその部下たちが何かをスピーチしている場面。


 古森の思考はフリーズした。自分が今なんのためにここに居るのか。疑問が憎しみへと変わるのにはそう時間は掛からなかった。なぜ、なぜ、なぜ、と西城は今まで捧げ続けた自分の全てが無駄になったことを受け入れられない。


 有栖は再び囁く。「手でも貸そうか?」


――――――――――――――――――――――――――――――


 シェルター1588の包囲網が徐々に解かれている事に気がついた嘉山は全体に指示を送る。自分たちに風が吹いていると喜ぶものは少なくない。けれど、嘉山はより一層背中を押す追い風が誰かの作為に塗れた暴風ではないか確かめる必要があった。

「作戦開始は明朝!各隊、配置に付け。」


 しかし、これが絶好の機会である事も否定できない。嘉山は頭を悩ませながらも決断を下した。最悪の可能性を念頭におきながら進む決心は、周囲の者達に覚悟として響いていた。



 シェルター1588と、それを包囲する古森の隊。その日の夜には包囲網は半分ほどになっており、どこかへ移動する様子だった。その意図を察してか、シェルター1588も攻勢に打って出る事を決めたようで半分になった包囲隊と、シェルター1588で競り合いが起こっていた。

 これこそまさしく嘉山の狙っていたチャンス。ただ、出るのは今ではない。隊員達はギリギリまで体を休ませて、その力を遺憾なく発揮できるように待機させておく。その間、嘉山はこの先について幾つもの可能性を視野に入れつつ思案する。決して慢心とは程遠い指揮官の姿だった。


 翌朝、シェルター1588は意表を突く。最も手前にある裏のかき方である夜襲のためにまだ日が出きってない時間帯、恐らく午前3時頃に包囲網に向けて忍び寄る。

 目標は通信の魔道具。これさえ無ければ援軍は遅れ、その間に準備の時間を作れる。決死の覚悟で選ばれた精鋭達は、この作戦を成功し、通信の魔道具を次々に破壊した。

 シェルター1588の工作に気がついた頃には、すべての通信魔道具が破壊されており、それだけではなくチャンスは今だと思ったシェルター1588は全体で攻勢にかけた。


 嘉山が想像していた以上の状況が目の前に溢れていた。

「進め!!」

 嘉山の単調な指令でシェルター1501は動き出す。

 シェルター1588の内部を目指して進む隊、

 シェルター周囲の敵を跳ね除ける隊、

 古森の指揮下である者達を追いやる隊、


 それぞれが満身創痍になっていた両軍を圧倒的な力で潰していく。文字通りの鏖殺。三分の一を削りきった頃に、隊長が拡声器に声を通した。

「あ、あー、聞こえてるかな。武器を捨て、地に体を伏せて投降した者のみ助けよう。それ以上は言わせるな。」

 シェルター1501がシェルター1588、そして残された古森隊を制圧したのは作戦開始から一時間も経っていない午前8時頃の出来事だった。


 

読んでいただきありがとうございます。


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