表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/74

居場所

 西城は嗤った。自嘲的に、侮蔑的に。滑稽だと思った。今回の作戦の失敗理由はただ一つ。無能な手下を信じてしまった事。

 彼らは誰が責任を取るべきなのだと騒いでいるがそんな事どうでも良い。面倒だからこの際自分が全ての責任を取ってこの場から去りたいとさえ考えるほどだった。


 使えないとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。事前の段階でも勝率は8割以上。勝つとは言っているがただ戦力を削るだけというかなり曖昧な定義の勝利条件だった。

 この程度であれば自分が指揮を取らなくてもどうにかなるだろうと油断してしまった。

 その結果がこれ。一つのシェルター班は無理に攻撃を仕掛け、戦力を減らし他二つも物資や作戦に使った時間を考えれば大損害を出した敗北。来月にはシェルター1501掃討までの流れを用意できると思っていたが、まずその土台すら用意出来ていない。


 そして、それだけじゃない。【契約魔法】のタネが一部の囚人達にバレた。西城が最も大誤算だったのはこれ。完全に魔法の効果が切れた訳じゃないが、再び接触しなければ効果は弱まり完全に1からの状態に戻ってしまう。

 【契約魔法】から逃げている有栖を中心とした5人の囚人達。正直有栖以外は注意する必要も、再び捕まえる必要もないが一般の住人達にこの事が知られれば面倒に騒ぎ出すだろう。


 あぁ、もうこの際また1からやり直したいと後悔するほど、西城は自分の置かれた状況に呆れていた。無様な自分を笑うしかないと終わらない責任追求の会議を眺めていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 綜馬は自分の身に起こる全ての出来事を完全に消化する事なく、次の障壁にぶつかり続けていた。欲望で自分を支配しようとする人々、レオ達との出会い、見捨ててしまった岸、シェルター800の崩壊、堂島との別れ、長月琴の不在。どれ一つとっても綜馬の中で解決した事案はない。

 しかし、下を向いている暇はない事は身に沁みて理解していた。力を持つ者の義務。そして、傷つきながら戦う者達の背中を知り、慣れない交渉もしてみせた。


 嘉山の言葉が心の奥にズンと刺さる。ぐちゃぐちゃになっている綜馬の心は更に混濁し、自我に侵食してくる勢いだ。


「大丈夫、ソーマ?」


 ミケアが顔を覗き込んで来るが、今自分が浮かべている表情を彼女に見られたくない。綜馬は無自覚ではあるが、彼女に精神を依存させていた。初めての秘密を共有した仲でもあり、自分の都合もあるはずなのに綜馬の安否を常に心配してくれる存在。

 考えると辛くなるから思考から排除すらしていた母親と彼女が重なる。自分を理解しようとしてくれて、言葉を急かさず待ってくれる。口下手で、不器用で、優しいけれど勇気の出ない綜馬を無理やり一人の大人として戦士として立たせるこの世界とは正反対な存在。


 覗き込まれるのが嫌だと悟ったミケアはそっと綜馬の肩に当てをおく。


「ソーマ、もう良いんだよ。よく頑張った。偉かったね。」


 ミケアが何を思い綜馬にこの言葉を送ったのか。そんな事この際どうでも良かった。綜馬は泣き声を押し殺すように泣いた。自分の背に乗る様々な重圧が解けていく。強くあろうとしなくても良いよとありのままを認められている気がした。


 野次馬は散っていき、陽の光が綜馬をそっと包む。ぼーっとしている時間なんでないはずなのに、綜馬が落ち着くまでの間ミケアはずっとそばにいてくれた。あれ以上何か言葉をかけるわけでもなく、ただただ隣に座っていてくれた。


「決めたよ。ミケア。手の届く範囲それだけだ。自分が幸せを望むのは全員じゃない、手が届いて手を伸ばしたいと思う場所。そこだけを大切にする。」


「泣き虫ソーマ、」


 ミケアはふふッと笑い綜馬の肩を再びポンっと叩く。今度は一歩前に押し出してくれるような力強さを感じた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 シェルター攻城戦。誰が名付けたのか、いつのまにか定着したこの戦いは事前に告知された幾つかの条件をクリアする事で仕掛けたシェルターが物資や様々恩恵を得られるもの。

 裏クエストの一環であり、条件には本当の戦争のようなものも用意されている。


 嘉山は隊員と民兵達に檄を飛ばす。


「いいか!これまでの雪辱、何度も味あわされた辛酸を今度は返してやる時が来た。私たちのシェルターは強い!それは自分達が一番理解している事で、相手も痛いほど理解している。もういい加減自分らしくあろうじゃないか!」


 士気は充分。熱を帯びるほどの民意は刻々と温度を上げていた。

 先日の嘉山の話。自分勝手ではあるがと、シェルター1501の根幹でもある自衛隊員について語った出来事はその日のうちにシェルター1501全体に広がった。

 嘉山は部屋に戻り後悔に身を悶えさせながらも、綜馬を失った事による今後の方針について頭を悩ませるしかなかった。


 そんな中、ブロック長全体から提言がなされた。

 《自衛隊員の家族はシェルター1501の家族である》と、つまり、嘉山が秘密裏に準備していたシェルターとして力をつけて自衛隊の家族を集めるか、家族のもとへ送ろうという計画が、本来お願いしようとしていた住人側から要望される事になったのだ。


 シェルターの力を増強させる方法はいくつかあるが、そのほとんどが時間や物資など多くのコストを支払うものになっている。つまりシェルター全体の民意を整える必要があり、それでいて綿密な計画も必要だった。

 その仲でも攻城戦というのは増強方法の中では最も分かりやすく、そして短時間で結果が手に入るギャンブルだった。この手段は取れないと嘉山は考えていたが、急かすようにブロック長達は連名で攻城戦の開始を要求。


 隊長と板垣もこの機運に乗るのが最も良いと判断し、現在攻城戦が行われようとしていた。攻城戦の準備中、そして攻城戦の採決の間も綜馬の力がどれだけ偉大なのか思い知らされた。

 当初の契約で結んだ物資は受取済みのため、来月まではカタログも特別物資も住人達には充分量用意できる。が、問題はその後。それに、この準備期間も綜馬がいればどれだけ良かったか、とため息をつきたいが、それは綜馬も同じだろう。

 彼は安全な居場所を求めてこの場所に来た。それを最も傷つける形で居場所を奪ってしまった。まだ子どもな彼に選択をさせ、大人と社会というものに絶望と暗闇を与えてしまった。


 彼から協力を今後得られないとしても、彼には何としても謝罪をしなければならないと嘉山が考えていた。


 そんな嘉山に一枚の手紙が届く。見慣れない便箋、そこには


《次の取り引きは少しばかり多めの魔石と、寝込みを襲われない宿の用意を》


 嘉山は思わず口角を上げる。くっくっと小さく笑いながらあの少年を思い浮かべて精一杯の感謝を送った。

 

 

読んでいただきありがとうございます。

『巨神兵は堕ちた』もよろしくお願いします。


いいね、☆☆☆☆☆の評価頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ