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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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わがまま

活動報告見ていただけると幸いです。

 息を潜ませ鼓動を落ち着かせる。隠密行動ならずっとやってきた。魔法の力も能力も上がった今、一般人が綜馬を見つけられるはずがなかった。


「行ったよソーマ。」


「これは、どうしよっか。」


 ポリポリと綜馬は頭を掻く。困惑の表情を浮かべながら内心は悲しさと怒りが込み上がってくる。嘉山達と契約した内容では綜馬が耳目を集めることはなく、平穏を担保すると書かれていた。しかし、現状、綜馬は一部の住人達からその身を追われている。彼らが綜馬を求めている理由は容易く想像出来るが、だからこそ綜馬は辛かった。


 結局ここでも自分はこの扱いを受けるのかと、築きかけていた信頼がガラガラと崩れ始めるのを感じていた。きっと嘉山達が悪いわけでもない。彼らは必死にやってくれていたことを綜馬は知っている。だからこそ虚しいのだ。この現代を生きる多くにとって綜馬は希少で、なりふり構わず求めてしまう対象。

 欲望を浮かべた瞳は慣れたくても慣れることは出来なかった。


 時刻は午前5時を回る頃。ミケアに起こされた綜馬は、咄嗟に【陰魔法】を発動し隠密行動をとる。捜索に長けているはずもない住人達は綜馬がいるであろう場所をしらみ潰しに探している様子だった。

 バレないようにという様子はあったが、それもほんの少しで無遠慮に土足で綜馬の借家に入り込んでいた。

 彼らはもし自分が寝ていたら何と言っても話しかけたのだろうか、厚顔無恥な演技をしてダラダラと話したのち、我が我がの話を繰り広げるのだろう。


 目を血走らせて探す彼らの姿を見て綜馬はゾッとした。


 騒ぎを聞きつけたのか、まだ陽の光も殆ど届いていないのに、綜馬の借家を含むエリアには光が集まってきた。そしてその中には当然嘉山、隊長、飯垣の姿があった。

 綜馬とミケアは暗闇に紛れる[カンジ]目とミケアの耳を使って少し離れた距離から辺りの騒動を見る事にした。


 彼らとは協力関係を結びたいと本心から思っていたが、地図を手に入れ勢力関係を知れた今、無理にこの場所を大切にする必要はない。むしろ、天谷はそちらの考えを中心に動いてほしいようで、ある程度落ち着いたら自分たちが用意した仮拠点に来てほしいと渡された手がみには記されていた。



「お前ら、何したかわかってんのか、」

嘉山の口調が珍しく荒い。しかし、それよりも恐怖を煽るのは背後に構える隊長と夜番見回りで待機していた隊員達。彼らは言葉を発さずともブチギレているのがわかった。


 綜馬の物資カタログを実用化して二周目。その効果は圧倒的でシェルター1501に莫大な影響を生み出した。これまで安定にかまけていた層がやる気を出し始め、魔石の収集量は激増。不満らしい不満も減っていき、全てがうまく行っていた。

 しかし、一部惰性を取り払えない者達がいた。ただ偶然シェルター1501のエリアに入れただけなのに、選民思想を気取り、働く者達を嗤う愚か者。殆どは得るもののために汗を流すがそれを忘れた愚か者達は、自分たちが不運で阻害されていると勘違いし始める。


 その結果がシェルター内で噂として流れていた突然現れた嘉山の知り合い。彼に秘密があるという話を鵜呑みにしてその住まいを夜中に突撃する計画を立てた。


「だってよ、不公平だろこんなの!なんでタバコ吸ってんだよ。俺たちの分もないのおかしいだろ!」

「そうだ!なんでみんなに分けようとしない!お前らそうやってせこい事ばっかりしやがって。」

「うちの子、本当に可哀想。周りの子はみんなお菓子食べてるのに、」


 襲撃者の人数は13人。他にも隠れている可能性はあるが、主要な首謀者達は捕まえている。彼らは皆一様に不公平だの、独裁的だの不平不満を口にする。

 早朝とは言え、騒がしさは雪だるま式に大きくなり、野次馬の人数を続々と増えていた。隊員達に抑えられる彼らの様子を見て野次馬達は何を感じているのか。


 嘉山達は綜馬の所在の次にその事が気になっていた。もしここで民意が襲撃者達に傾く事があれば、綜馬との協力関係は完全に断ち切れる。それだけでなく、一度覚えた反抗の成功体験は今後悪い方向へ進んでしまう。


「おい、お前らもどうなんだ!命を賭けて、手に入れるのがお菓子の箱ひとつ。俺たちは搾取されてるだろ!」

「今、主張しないでどうすん、」


「黙れっ!!!!!!!」


 発言の機会を得たとばかりに意気揚々と話し出す彼らに嘉山を声を張り上げる。

「何が搾取だ、何が不公平だ。ここの住人のために命を張っている者たちの姿を見てまだその言葉を吐けるのか。彼らは私たちと同じはずだ。過去の立場など捨てて自由な生き方を選ぶ事だって出来る力を持っている。それなのに隊員達は誰かのために今も懸命に戦い続けている。」


「それは、強いからだ、」


「佐野孝之、君はスキルを持っているそうじゃないか。それに魔法も攻撃特化のもの。なぜ外に出ない?なぜ戦わない?進藤、橋本、柘植、湯本、高平、君より弱い力を持ちながらも前線に立ちモンスター、そして人と命のやり取りをしている隊員はいくらでもいる。彼らは日々の暮らしで贅沢など一つもしていない。佐野孝之、君が毎月買う焼き鳥の缶詰。隊員達はこの一年それを食べられる機会などなかった。冷えたご飯に水気のない携帯食。想像できるか?」


 嘉山は激情のまま話している訳ではない。いたって頭は冷静だ。しかし、彼らが汚してはならない領域に足を踏み入れかけたことを自覚させる必要があった。


「同じなんだ。全員。どんな力を得てもどんな立場になろうとも人は変わらない。ただその人に信念があるか、情熱があるか、守りたいものがあるか。隊員達のほとんどはこのシェルター以外に家族を残している。自分勝手だと非難されるだろうし、自分でも間違っているとも思う。けれど、私はここにいる隊員全員を家族のもとへ返す義務があると考えて行動している。ここの住人達ももちろん大事だが、それと同じように隊員達とその家族との繋がりも蔑ろにしてはならないんだ。」


 シェルター1501をより強く、そして影響力を持たせようとしていたのには背景があった。誰のためでもない。もう存在すら曖昧な国を守るための奉仕者達に恩返しをしなければならない、とそんな事を嘉山は常々考えいた。その行動の一つとして積極的な動きをしていたところ、近隣シェルターから標的を食らう結果となった。

 綜馬の存在は嘉山にとってなくてはならない物だった。彼の力は今後のシェルターにもなくてはならないものだが、それ以前に一人であの包囲網を抜けてシェルターに潜入できる能力、なにかしらの捜索能力、姿の見えない協力者など、綜馬という可能性の幅は無限に広がり、目先の目標を叶える助けになる事を確信できた。


 嘉山の話に集まった野次馬や、襲撃者、そして隊員達は言葉を失う。それぞれなにを口にしたら良いのか、なにを考えれば良いのかわからない様子だった。

 冷や水に当てられたような彼らは、陽の光が世界を暖め始めると同時に数を減らしていき、朝の陽気が完全に顔を出す頃には襲撃者と彼らに調書を取る数人の隊員達しか残されていなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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