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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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カレーと揚げ物

 一か月続く包囲作戦。着実に効果は出来ていると誰しもが考えていた。その証拠に一週間、二週間と、時間が経過するごとにこれまで焦りを見せなかったシェルター1501からその様子が漏れ出始めていた。普段ならシェルター付近での魔石集めは隊員ではなく、一般戦闘員だが二週間時点では殆どが隊員で、探索時間も短く帰っていった。


 おそらく予想するに中では戦闘経験や能力による違いで外出できるものとそうでない者の区別が行われている。斥候に出したもの達の話を聞く限り、明らかにシェルターから出てくるもの達の技量が高すぎるという。

 西城の管理下に置かれた三つのシェルターは各自指揮官を置いているが、今回の作戦成功が近づいてるという実感から日に日に態度が横柄になっている。シェルター1501を今回の作戦で壊滅させるわけではないが、その一助になるのは確実だった。そうなった場合、今回の作戦を現場で指揮した者は必然的に評価される。


 彼らは一様に未来の自分を思い描き下卑た笑みを浮かべていた。しかし、その笑顔がちょうどひと月経った今日崩れる事となる。


「おい。どういうことだ!」


仮設テントに怒鳴り込んできたのは1班のリーダー古森。西城直系の部下であり、今回の作戦の総指揮を務める人物。テントの中には五人の姿。2、3班の各リーダーと斥候の二人。古森を呼んでくるように言った1班の副リーダー。

皆同じように苦い表情を浮かべており、それが受け取った報告の信ぴょう性を裏付けるようで古森は皆を睨みつけた。


「ちゃんと説明しろ。感想とか憶測はいいから事実だけだ。」

古森に促されて斥候の男が口を開く。


「作戦終了間近となりましたので、当初の作戦通り恐怖を与えるための夜襲のため準備をしていました。物資不足に自由の剥奪。常に監視されてる状況ですのでそこそこ近距離に襲撃拠点を建てる事が決まったと聞きました。そのため我々斥候部隊は拠点位置を見つけるためシェルター1501に接近。状況把握のためシェルター内部の確認を行ったところ、」


男は一度つばを飲み込み、一拍置いて


「事前に予測されていた内部ひっ迫の状況には陥っておらず、寧ろ確認した箇所によれば以前よりも状況が安定していた部分があると、」


 斥候を務める彼らは漏れなく【陰魔法】の熟練者達になる。そのため、暗視や透視のような不透明な場所を覗き見る力は確実なもので、今回の報告も事実であることはここにいる全員理解していた。


「そのため、当初の目的である襲撃作戦の始動要件には満たないと判断し報告に参りました。」


 簡易的な報告を受けただけだった古森は詳細に語られたことで眼光がより鋭くなる。他の者達も二度目の報告にはなるが、古森がやってきたことでより一層緊張感を高めていた。


「古森総指揮、これはどう、」


 欲深く空気の読めない2班のリーダー上石が静寂を破る。彼の頭には今回の作戦が失敗した際の影響と、その責任追及が自分に向かないようにすることでいっぱいだった。そのことを古森もわかっていたようで

「上石、お前の班もっと近づけて圧かけて来い。あと3日、門への攻撃も許可する。」


「いや、それは、」


「これは命令だ。逆らうならそれでいい。三日後お前らのシェルターを攻めに行くからな。」


 上石はか細く消え入りそうな声で「はい、」とだけ返し自分の拠点に戻っていった。あの様子では古森の無茶通りシェルターへの直接行動に出るのだろう。


「あのバカが時間を作っているうちに撤退準備始めろ。あぁ、あと有栖と数人呼んで来い。」


 古森の判断は早かった。仮にシェルター1501の内情が実際は逼迫したものだったとしても彼らの底なしの物資というのは事実だ。こちらは自由に動くことが出来、補給もできる環境にいてもなお物資はかつかつなのだから、互いに持っている地力の差は圧倒的なもの。それならば作戦を変えまた別の手を考えるしかない。彼らがどんな作戦の下現在動いているのか不明だが、掲示板が更新される一か月のタイミングで外に出てくる可能性が一番高い。

 それならば、出来るだけ最小の被害で抑える動きをするのが指揮官として戦場でできる唯一の仕事だと言えた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 人の心を操ることが出来なくても、ある程度意のままに扱う事は容易なのだと綜馬は理解した。

炊き立ての白米、広がるカレーの匂い。一人ずつ数に限りはあるが揚げ物類も用意されている。シェルター1501に漂っていた重たく暗い空気は一瞬にして晴れる。


「順番に並んでください。全員分の量は用意されてます。押さず、走らず、慌てずに並んでくださーい!」


 こういった炊き出しに慣れているの様子で隊員たちは効率よく人数をさばいていく。カレーを手に持ち仮説の食事スペースに流れていく者達はみんな、五感全てを使って今という瞬間を味わっていた。一部地域のみでしか手に入らなくなった野菜。お米はその中でも特に希少で、渋々高い魔石を使ってパックご飯でお米欲を落ち着かせる日々。温かいご飯は作れるが、豪勢な食事を望むよりも一日分でも多くのご飯や、防具、武具といった身を守るものの優先度は高くなる。そんな生活が当たり前になっていた今、目の前で輝きを放つカレーはどれだけ魅力的に見えるのか。想像するに容易かった。


「予想以上ですよ。」


 嘉山は心底嬉しそうな笑顔を綜馬に見せる。不安のあった綜馬も目の前に広がる幸せの空気を前にしてほっと息を撫でおろし、そしてみんなが求めているものを再確認した。



「それじゃあ、私たちも。」

 嘉山の家に集まった、嘉山、綜馬、隊長の三人は皿に盛られたカレーにスプーンを伸ばす。冷静さを装っていた二人もカレーを前にすると躾の無い犬みたいに食べ始めた。


 具材の全てを提供し、そこまで久しぶりではないカレーを食べる綜馬だったが、大きな鍋で自衛隊の方々が炊いたからかいつもに増して美味しく感じた。何処から手に入れたのかわからないが、ミケアも「おいしいね、」と脳内に語り掛けてきたのでくすねる必要は無くなった。


 普段の通りに食事を勧める綜馬の正面で嘉山と隊長の食事の手が止まる。突然の事で何があったんだと心配になったが、二人は同じように皿の中を見つめている。その視線の先にはカツ。

 チキンカツ、トンカツ、から揚げ、と三種類の揚げ物をどれか一つという事で油も一緒に奮発して用意したご馳走。綜馬からのサプライズプレゼントだったのだが、久しぶりの彼らにとってこれは余りにも刺激が強かったようだ。


 ここに来るまでの間、今まで規則を守り禁欲的に働いてきた自衛隊員の一部も揚げ物の魅力に勝てず、つまみ食い未遂をしてしまう者や、皿に盛られたから揚げを食べるなんてもったいないと両手で包みながら帰る者など、その威力は絶大だった。

 それは当然目の前の二人にも言える事で、自分はこれを目の間にしてどうしたらいいのかと戸惑いながら葛藤をしている。


「もし良かったら、こういう食事もまた用意しますよ。」


 綜馬は思わず漏れた言葉にハッとしながら同じように驚いた表情を浮かべる二人と顔を見合わせた。


読んでいただきありがとうございます。


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