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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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覚悟の重み

 綜馬は[シーナ]を出してみせた。続いて、両手にチキンを握り、次の瞬間には大根へ変えてみせた。【空間魔法】の実演とモンスターを扱えるという証拠。

 一連の出来事に嘉山と隊長は言葉を失う。そして、それと同時に目の前の少年が持つ力の強大さとそれがもたらす自分達への利について思案する。綜馬は彼らと交渉するにあたっていくつかの準備をしていた。その準備をするのに二日ばかりかかってしまったが時間をかけた甲斐のある結果を見せるだろう。


 包囲されているシェルターに向かおうと決めたのには協力関係を結べば、掲示板の利用や拠点を得られるからといった現在求めている物を手に入れられるだけではなく、天谷の計画するマークへの反撃のために大きな効果を発揮すると考えたからだった。

 ミケアの姿は誰であっても見せるつもりはないので、ミケアには隠密に徹してもらい情報収集と扇動を頼んだ。【音魔法】の汎用性は高く隠密には勿論、工作活動にも十分な効果を見せる。


 その結果が現在の状況に起因している。


「それじゃあ、君は私たちのシェルターに物資を提供する代わりに魔石と掲示板の利用権限を得たい。そう言う事でいいのかな?」


「あ、もう一つ、どんな状態でもいいので寝られる場所を貸してください。」


 この部屋にいる人数は綜馬含めて四人。嘉山と隊長、そして参謀を務める飯垣は少し時間をくれと言い残し、応接室から出ていった。ミケアは綜馬の【陰魔法】で姿を隠密化させており、近くにいるが綜馬でさえも姿を追えていない。待っている間、彼らを視覚的に驚かせようとオリジナルではない、分身の効果で増やしたコメを俵で十個ほど積み上げ、コメと同じようにこちらも分身産の肉や魚といった生鮮食料品を並べる。 

 この世界においてこれがどんな状況なのか理解できない者はいないだろう。折角だからと今度はオリジナルではあるが、【空間魔法】産の野菜も並べて置く。まだ来ないかなと待っていると突然声が響いてきた。


「いくら何でも怪しすぎます!即刻捕らえるべきです。」


「だが、それで彼からの協力が得られないでみろ、あと一週間もしたらここは地獄と化す可能性だってあるんだ。」


「彼がその一週間を今日に早める可能性だって否定できないはずですよ。もし市街地にモンスターを解き放たれたら。」


「そんな考えがあるのならもうやってるはずだ!」


 部屋を挟んで向こう側。もっと遠くかもしれない。三人がどこで話しているのかなんて知らないが今さっきまでは声が聞こえてくることなんてなかった。まるで突然その部屋の音が頭の中に流れ込んできたような、


「ソーマ、これ聴こえてる?」


「うわっぁ、」とつい声を漏らした綜馬だが、今何が行われていたのかすぐに理解した。

「これもミケアがやってるのか?」


「うん。秘密話はミケアの前では意味ない。」


 綜馬はミケアの応用力の高さについ笑ってしまった。扇動の時に声をまねて悶着を起こさせるのにも驚いたが、こんな器用なこともできるのだと感心しながら、盗聴を続けてくれと頼んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


〈シェルター813〉


 一か月近い時間を経て地獄は終結した。星4等級が主軸となった反乱は、一部の星5、議長も力を貸しいつの間にか、一部を除いた星5、議長対シェルター813全体の抗争に発展していた。

 明らかに誰かの作為によって生じた戦いというに気付いたのはごく少数で、ほとんどの人間は今までグツグツと熱された民意が一つの出来事で暴発したように感じたはずだ。

 

 大いなる民意で舗装されたこの戦いは民意の勝利という形で幕を下ろす。しかし、彼らは勝利だと声を大きくするがその実情は半数以上の星5と3人の議長が戦いの終結後これまで通り管理できなくなると判断し、戦略的撤退を選んだに過ぎなかった。

 そんなことを理解しているのもごく少数であり、多くは自らの掴んだ勝利にグラスを掲げていた。


「いやぁ。君たちのおかげだよ。」


 木原は残った星5数名と活躍した星4の者達に労いの言葉をかける。続いて『ブライス』の面々。最後に星4から1までの各等級の代表者。これからここにいる者達で行うのはシェルター813で始めて行われる民主主義による意見の決定だった。


 それぞれの思惑、それぞれの主張の下、木原が議長の役職を継いだまま会は始まった。


 一方、その裏では今回の作戦の立役者である羽間が同じく立役者の石田と共にある場所を目指して歩いていた。

「本当に話乗ってくれるんですかね。」


「任せてくださいよ。一人顔見知りがいるので叩き出されるなんてことは無いですよ。」


 二人は家の前で立ち止まり、しっかりと音が届くように力強くノックした。


「何の用だ。」声が聞こえてきたのはドアの向こう側ではなく、伸びきった垣根がある方からだった。

「彼は、」と石田が羽間に囁いて聞く。羽間は、「俊君。少し話をしに来ました。二人はここに?」と声をかけた。


「あぁ、冬弥とレオは中にいる。けど、そのおっさんだれだよ。」しゅんは石田を指さす。


「話し合いのために必要なんです。君たちが何を求めているのか、そしてそのために何をすべきなのか、わかりますよね?」


 しゅんは険しい表情を崩すことなく踵を返した。彼なりの歓迎なんだと羽間は笑いながら石田に説明する。二人は家に入ると奥の部屋にいる冬弥の声に導かれて進んでいった。


 テーブルには椅子が五つ用意されており、チラッと見えたキッチンには洗い物が溜まっていた。生活感を漂わせるここはレオ達の拠点であり、彼ら家族の居場所だった。

 レオに促され二人は席に着く。焦るように声を発したのは冬弥だった。


「言われたことは全部やった。帰る前にやらなきゃならない。」その眼にはここに来る前に宿していた憎しみとは違う別種の怒りが滲み出ていた。冬弥が言葉をつづける前にレオが口を開く。


「まだ信じてない。けど、それしかないのも事実だ。何をすればいい。」


 羽間は思わず吊り上がってしまいそうな口角を宥めつつ、トーンを落とし寄り添ったような声で話し始めた。

「やってもらう事は簡単です。同じことをしてもらえばいい。シェルターを内部から潰す。そうすれば君たちの仲間、いや家族のララさんと夏帆さんは生き返りますから。」


読んでいただきありがとうございます。


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