変化の兆し
小規模シェルターと思わしきシェルターを目算300人によって包囲されている状況。理由ははっきりしないが、ここら一帯にシェルターが少ない事や自分たちを追ってきたもの達の様子から、この包囲網は何かしら関係があると考えるのが自然だろう。
「消耗戦か、」
ミケアが呟く。民族間の争いで集団での戦いには慣れているらしい。ここに来るまでの間、見知った空気だと口にしていたが、実際に状況を目の当たりにして何が行われているのかすぐ理解したようだ。
「どうする?ダンジョンの場所聞いたら教えてくれるかな。」
「ソーマはバカだな。ん、アホか?この場合は。」
「どっちも一緒だよ。」
「密偵か斥候か、何にせよ疑われて捕まってすぐ尋問だよ。一言も信用されず捌け口に使われて終わり。」
ミケアの口から齎される言葉はまるで何かを知っているようなもので、冷たく胸に響く。
「アマヤに聞き行く?」
「どうしよう。けど、二人を探してたら時間かかりすぎる。約束の時間まで何しないわけにはいかないし。」
「じゃあさ、そっちじゃなくてあっちに行くのは?」
ミケアの指さした方向には薄く光る半球。彼らの包囲対象であり、問題を抱えているのは誰の目から見ても明白だった。しかし綜馬はこの時ミケアの提案が自分たちの活路をもたらす気がしてならなかった。
「二人なら陰魔法でどうにかなるし、ものは試しだ。行こう。」
綜馬とミケアは隠密しながらシェルターに向かう。以前の綜馬ならこんな火中の栗を拾うようなことはしなかっただろう。
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シェルター1501に生じる問題は日を増すごとに増える一方だった。当初想定していた包囲網の期間から一週間以上が経過し物資不足が喘がれていた。実際のところ現時点では物資への不安はそこまでない。しかし、嘉山は過去の経験から不安に駆られた大衆がどんな考えを持ち、どんな行動をとるのか知っていた。
不自由を覚える瞬間は自由の幅を知るときではなく、本来所有しているはずの自由を奪われる瞬間だ。外に出る力も意志無かったとしても、外に出るのが難しくなったと言えば途端に閉塞感を感じ始め、自分に何か恐ろしいことが近づいてきていると恐怖するだろう。
その兆候がここ最近顕著に表れてきている。何か目を逸らせる方法がないか、それとも解決に至る奇跡でも起きないかと神に縋るしかなかった。
「隊長、ブロックごと報告事案は?」
「はい。A、C、Dはこれまで通り、ブロック長がどうにかやっているようですが、B、Eに関しては隊員を数名配備しなければ統率厳しい状態続いています。特にここ数日Bブロックの若者たちが包囲に対して自ら出ると言い出し始め、制止させるのに小隊を派遣いたしました。」
「やっぱりその二つか、」
嘉山は溜息をもらす。円滑に動いているシェルター1501内にも派閥というのは存在しており、普段は輪を乱すようなことはないがこういった不測の事態が起こった際、強い自我を出してくる。
市長派と呼んでいる彼らは、嘉山の事を先生と呼びながらも心の底では自分たちこそ統治者に相応しいと考えている。その強い気持ちが役に立つときもあれば、今回のように問題を大きくしたり厄介ごとを増やしたりする。
BブロックとEブロックには市長派が多く、何か問題が起こるならこの二つからだろうと当初から考えていた。そのため、何時でも事態に対処できるように隊員は近くに派遣しておいたし、いくつも行動パターンとその解決策を練っていた。思惑通り、彼らは問題を起こしたが、どれもそこまで大きなものに発展しないのは事前予測した嘉山と現場で動く者達のおかげだろう。
しかし、嘉山がため息を漏らし、頭を抱えるのは予想外の長さになっている外の状況だった。こんな様子では派閥など関係なしに嘉山への不安や不満が溜まっておかしくない。それがどういった形で爆発するのか、予測しようにも手立てを用意できるかもわからない。
こんな世界になる前にも似たような経験はいくつもした。自分の判断に何人もの人命が掛かっていて、失敗が許されない状況下を迫られる。経験をいくらしたって慣れないこの重圧。嘉山と隊長は眉間にしわを寄せながら重たい空気を浪費するしかなかった。
口を開く事さえ憚られる様な冷たい雰囲気の中、焦ったような勢いで扉をノックする音が響いた。また問題か、と二人は一層皴を深くしそのノックに応じた。
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ミケアの故郷、長月琴の行方、マークへの復讐、天谷の脳内を巡るいくつもの情報と思考はこれらの問題解決のために使われていた。綜馬の持つ【空間魔法】の可能性はこれら全てを解決に導くだけの力を秘めている。根拠はないが、天谷はそう確信していた。そのために力の強い魔石を大量に手に入れるのは最重要課題で、そのためならなんだってやる覚悟を持っていた。
それは他の三人にも同じことが言え、それぞれが願う最善に向けて前を向いていた。
だからこそ――
「蘭香ちゃん、この勢いのまま進むけど大丈夫?」
「うん。よゆーかな。強くないから、」
隠密行動と索敵、探知の上手い綜馬とミケアに情報集めを任せ、二人はダンジョン化していた地下鉄内を探索していた。天谷の考えている作戦を実行するためには誰からも邪魔されない空間が必要不可欠だった。そのために現在蘭香と共に地下鉄のモンスターを掃討しながらモンスターを産んでいる中央部、魔力だまりに向かっていた。
「掲示板で見た記憶だけど、階層を生み出すタイプじゃないダンジョンは奥にボスが一体いるはずだったと、」
天谷はこれまでとは違い積極的に前に出て【結界魔法】でヘイトを買い蘭香の攻撃の補助を行う。自身でも攻撃する隙を窺っている。
「あれだ。」
天谷が指さす方向には一体のミノタウロス。雄々しい角と手に握られたメイスが恐怖を予感させるが、あのダンジョンで対峙した恐怖と比べればなんてことなかった。
「ちょうどいいじゃん、あれくらいの方が燃えるよ。」
蘭香もこれまで戦いごたえのない相手ばかりだったせいか、久しぶりの強敵を目の前にしてやる気を漲らせている。
「じゃあ、行くか、」
蘭香と天谷の戦いが始まった。
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