包囲作戦
名前を持つモンスター【スコル】を倒し、その一役を買った[シーナ]。ミケアに出会うまでは半ば友人のように綜馬と触れ合っていたが、モンスターへの嫌悪感が強いミケアの前では召喚することがなかった。
その間、ミケアは綜馬の空間魔法内をいつものように漂い小さな悪戯を重ねていた。いつの間にか得た綜馬の魔法へのパスを使い、分身を作り出したり、綜馬の記憶の海から得た物を作ってみたり、何の色もない真っさらな状態の[シーナ]は綜馬の持つ様々なものを吸収していった。
その結果、[シーナ]は綜馬に出入り口を作られなくても自由に空間魔法の隙間を生み出し、外に出られるようになった。綜馬がダンジョンに篭り、その後失意の中にあった時も[シーナ]はこっそりと現世を楽しんだ。
初めて殺意を向けられ、初めて身体を損傷し、初めて攻撃を覚えた。
そんな状況に気が付いたのは飼い主?の綜馬ではなくミケアだった。珍しいモンスターがいると鏃を放ったミケアの攻撃を難なく避け、なにもなかったかのように漂う[シーナ]。ミケアはこの時幾つもの違和感を覚えた。
獣やモンスターの持つ殺意や飢えを感じないこと、攻撃されても反撃がないこと、ミケアの存在に気がついているのになにも反応示さない事。
これは脅威だと、ミケアは直感的に悟った。この世界において知らない存在というだけで死を連想させられるのは当然だった。ミケアの説明を聞いた綜馬たちは戦闘か逃避か悩んだが、話を聞きながら綜馬が何か気付いたようで気まずそうにし始めた。
結果、正体不明の脅威は綜馬の持つ秘密の一つであり、綜馬自身もあまり理解できていない存在だった。[シーナ]と言う名前を教えてもらった3人だったが、綜馬以外はその名を呼ぶことはなくその出立からスライムや、クラゲと呼んでいた。
彼らの根底にこびりついたモンスターへの忌避感、嫌悪感のせいだろう。同じ理屈で、綜馬の召喚する分身体は[カンジ]がカラスや鳥、[スコル]が狼、[朔]が鎧やサムライと呼ぶようにしていた。
広域の探索を頼まれた綜馬とミケアはひとまず近くにある一番高いビルの屋上目指して進んだ。
綜馬の分身体とミケアの耳と感覚。精度は低いが広く探れる綜馬の力と意識は一方向に集中してしまうが精度の高いミケアの力。互いが組めば相当優秀な探索ができるのは間違いなかった。
「とりあえず協力してくれそうなシェルター探すしかないんだよね。」
「多分。ソーマが見つけるまでミケアは暇。」
ミケアは魔法を知ったあの日から日常的に行っている魔法の鍛錬に取り掛かる。【音魔法】の可能性を常に探りながら、今持っている力への影響や組み合わせを考える。綜馬は[カンジ]を飛ばし、空から偵察を行う。交流が失敗したシェルターのある方向以外に計6羽飛ばしシェルターの有無だけでなくここら辺の状況把握にも繋がる。
ミケアが魔法の鍛錬を行うように、ダンジョンから出てきたあの日から綜馬は強くなるために努力を重ねていた。これまでは長時間できなかった[カンジ]の視界共有も今では2羽同時に1時間ほど出来るようになっていた。6羽を切り替えながらだとそれだけ脳に疲労が溜まり、解除後は視界もぼやけるが出し惜しみしている状況ではなかった。
「んー、やっぱり。なんかシェルター少ないなぁ。」
以前綜馬達がいた埼玉郊外での景色とは違いここらは明らかにシェルターの数が少ない。ここに来るまでの間もなんとなく違和感として残っていたが実際に見ると明らかな変化として見て取れる。天谷に色々聞きたいが、そんな悠長にしている時間はない。五分おきに視点を変えて見ていると、人影を捉えた。
「ミケア、準備してすぐ出るよ。」
「わかった。」
[カンジ]の視界から見えた景色。野営の準備をする一団がある一カ所を包囲するように陣取っている。その数、ざっと見ただけでも100人近い人数が関係している。その場所で何か行われているのは確かで、それが自分たちにどう関係するか未知数。しかし、違和感を放置することの危険性は十分理解していた。綜馬とミケアはシェルター1501のある方向に向けて歩を進めた。
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「あぁ~、これいつまで続けるんすか。」
有栖廉人は溜息を零しながら一週間前から状況の変わらないシェルター1501包囲網について文句を垂れる。
「黙って見守れ。」
「はぁー、いっつもそれ。なぁーお前らはだるくないのかよ、これ。」
有栖の呼びかけに返事を返す者はいない。それもそのはずだ。彼はこんな世界になる前、懲役刑を受けた殺人犯だった。彼のニュースはちょうど地震が起こる二日目に全国で大々的に報じられ、その顔は広く知られていた。
そんな有栖が大人しく役割を果たしているのには理由があり、彼らを纏めるリーダーの西城がつけた枷が効果を発揮しているから。西城は破壊力や攻撃力を持つ基本的な【メイン】選ばれる元素的な魔法ではなく【契約魔法】と【探知魔法】というどちらも特殊で珍しい魔法を使う。
【契約魔法】の方は長月琴の【召喚魔法】と同じく保護指定を受けていた。
この【契約魔法】のおかげで有栖は身体の自由はそれなりに得られた代わりに従事することを守らなくてはならなくなった。
有栖は死んだ目つきで辺りを見回す。自分がこいつらにどう思われてるのかなんて分かりきっていた。話をしようとしたって無駄なことも。くだらねぇと内心呟きながら、一人だけ離されたテントからシェルター1501を眺める。どっちが勝とうが負けようがどうでもいい。西城がいる限り自分は人以下を続けるだけだし、西城が死ねば自分も死ぬ。味の薄めた地獄が続くのか、光もない暗闇に落ちるか。覚悟を考える気力すら起きてこなかった。頭に浮かぶのはあの子の歪んだ表情。
「あぁ、死ぬ前にセブンスター吸いてぇな。」そんなこと考えて時間を潰す。
読んでいただきありがとうございます。明日も載せます
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