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奪い合い

『シェルター1501』

 関西圏に残る50のシェルターの内、何度も付近のシェルターの攻勢、緊急ミッション、外部からの工作に耐えてきた力を持つ有数のシェルター。その力は当然防衛にのみ発揮されるものではなく他シェルターへ攻める際も力を振るった。


 裏クエストを目的としたシェルター間の闘争。世界を探せば早くから起こっていた事態なのかもしれない。こと日本においては旧和歌山が始まりだった。

 裏クエストを発見したのは単なる偶然。しかし、無限に沸き続けるモンスターという脅威と対峙するよりも、シェルターを襲う方がずっと楽な事は誰だって簡単に理解できる話だ。


 裏クエストの話はあっという間に関西圏に広がる。シェルター同士が疑心暗鬼になるだけでなく、シェルター内にも大きな隔たりが生まれる。

 現在のシェルターにいる人々は半ば強制的に同じ空間に集まり、運命共同体とされただけ。その中で魔法を軸とした力関係が生じ、ヒエラルキーが構成される。


 ヒエラルキーが出来上がったシェルター800や、ノルマや階級という報酬で縛るシェルター813を、レオ、ララ、綜馬達は食傷気味に見ていたがどこも変わりないのだ。中規模のシェルターとなれば尚更。

 これまで為政者でもなかった者が力を得て、人の上に立たなければいけなくなった。隷属的立場を用意したり、階級を大きく区分けする方がずっと管理しやすいに決まっていた。


 だからこそ、シェルターには信用も信頼もない関係が蔓延る。これまでゴミ扱いしていた力のない者達もシェルター内にいるのであれば十分脅威になり得る。

 裏クエストのクリア条件は様々だが、そのほとんどがシェルター内で誰だって簡単に行える。


 例えば、【火魔法】で放火したり、食料庫に忍び込んで【水魔法】で浸水させたり、クエストを受理されれば、対象シェルター内で誰がやってもクエストは成功判定になる。お互いが疑心暗鬼に落ち込み、シェルターヒエラルキーの上位の者はこれまで以上に制限をつけて下の者の自由を奪ったり、逆にヒエラルキー構造を緩くしたりした。が、現在関西圏に残っているシェルターの数を見れば一目瞭然で、次々に戦いに負けたシェルターは増えていった。


 その中でしぶとく残るシェルター1501には二つの大きな要因があった。一つはシェルターを統治する者が元政治家であること。もう一つは魔法能力が高く、それでいて自衛隊に所属していた者が100人近くいたこと。

 優秀な統率の下で統制の取れた実力者が中隊規模で動く。個人の能力を至上とするこの世界において、数の力はあまりにも脆い。しかし、その数ひとつひとつが力を持ち、卓越した連携を見せる時どんな強者でも敵わない。


 シェルター1501にはヒエラルキーは存在しない。民主的に作られた議会と、労働者。資源や資産の差はそれなりにあるものの各々が自分らしく生きている。

 愛国心のようなものも強く、外からの侵入にもすぐに気づく。シェルター1501は一つの国として完成していた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 深夜、廃墟と化した梅田駅に4人はいた。

「だから言ったんだ、まず僕が一人で行くって。」


「危ないからやっぱり2人でってその後言ってたし!」


「やめなよ2人とも、もうしょうがないって。」


「もとはと言えば綜馬が狼出したのが悪いんだからね、」


「それは、、」


「ソーマ悪くない。ランが馬鹿だからいけない。」


「なんだってぇぇぇ!」


 再び騒々しくなる彼らだが、水滴が落ちた程度の小さな音が聞こえた瞬間気配を殺し、集中力を高める。天谷が目線で綜馬に指示を送り、音がした方向へ[カンジ]を飛ばした。蘭香は足元の鉄パイプを拾い上げ、軽くて首を回す。ミケアも同じように軽い準備運動をして天谷の判断に耳を傾けていた。


「さっきの人たちだ。100メートル地点に5人、後方に3人。全員武器持ってる。」


「ミケアは魔法で前方攪乱、綜馬も狼とスライムだして時間稼ぎ手伝って。僕と蘭香ちゃんで裏を叩く。」


「「「了解。」」」


――――――――――――――――――――――――――――――


「昼間のガキどもほんまにここにおるんか?」


「西城が言ってんやから本当やろ。まぁ、ただ駅に隠れらちゃあんまり意味ないけどな。」


「捕まえたら女は貰っていいんよな?手分けする、」


「一人モンスター使いがいたん忘れたんか?近藤たちみたいになっても知らんぞ俺は。」


 男たちは警戒十分に月明かりすら差し込まない梅田駅を進む。所々にモンスターの死骸や、戦闘痕が残るこの場所は昼間すら暗闇に取り憑かれ、狩場にすら利用されない。

 逆を言えば誰も寄りつかない場所であり、綜馬たちの様な追われる身の者からすれば絶好の宿になるのだが、普通はこの息詰まる空間を利用しようなど考えない。


 綜馬とミケアの索敵能力があるからこその選択であり、その選択通り、この様な奇襲でさえも当たり前に先手を取れる。


「ふわぁぁぁぁ、」


「おい欠伸、」


「しゃーねぇだろ。いつもなら寝てんだよこの時間。橋本達と違って俺らは動くわけにもいかねぇんだしよ。」


「お前がこっちを選んだんだろ。」


「まぁそりゃ、追いかけるより待ってる方が楽だし、捕まえたやつは金と女貰えんだろ?それなら楽しながらやったほうが一石二鳥だって、」


「それ言うなら一石三鳥じゃねぇ?」


「ちげぇーよ。楽すんのは別。」


「そうかなぁ?」


「無駄話すんのも良いけど、ちゃんと見張れよ。」


「ちゃんとやるけどよ、旦那。本当にこっちに来るのか?」


「何回かここで人狩りはしてんだ。ちゃんとこの道に来る様に仕掛けはしてある。」


 男の悪い笑顔にへっへっとつられて笑う。ここにいる全員がさっきの女をどうしてやろうかと妄想を楽しんでいた。


「うわっ!」


「おい、どうした。」


「目に、なんか飛んっっ」


 バコンッとぶつかる様な音が聞こえ、音の正体を確かめるために右を向いたが何か確認出来る前に身体が後方に飛ぶ。微かに残る意識の中、聞こえたのは


「いやぁ、蘭香ちゃん流石だね、」


 天谷は容赦なく吹き飛ばされた3人の姿を見ながら苦笑を漏らす。


「そりゃそうよ。こいつらキモかったし、殺さないだけ感謝してって感じ。」


 確実に骨が折れているであろう姿勢の3人。おそらく意識もなく、一晩はここに残されることを考えると死と同義なのだろうが、僅かな可能性がある限りそれは生きているという事を天谷と蘭香は身に染みて理解していた。


「カラスが来てるから大丈夫だ。外に出よう。」


 綜馬達からの合図を確認して、二人は事前に確認しておいた出口へ向かった。


読んでいただきありがとうございます。英雄剣奴という作品も載せていますので、よろしければご覧ください。


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