巡る
魔石を利用した爆破攻撃、空間魔法による身体を抉る攻撃、[朔]の完全体を最大数(3対)召喚する。綜馬の持っている格上と戦うための方法。
自分の持つ最大火力、そして飛び道具的な一発。【空間魔法】と【陰魔法】の可能性を常に思考し続け、現在を打開するために頭を悩ませる。
ミケアから漏れ出る焦燥感にあてられたのもあるが、実際のところこの階層にずっといるわけにはいかない。主モンスターを倒すかどちらかが犠牲になるか。突きつけられた選択を決めるためにもまずは自分の持っているものを確認する必要があった。
じっとしていられないミケアが飛び回っているおかげで、主モンスターのオーク以外、中型級のモンスター数はかなり減ってきている。他の階層とは違い、減った分を足すような湧き方はせず一定の周期によって湧く仕組みになっているとミケアは気がついた。
そのため、注意を向ける箇所が減り、いつのまにか囲まれていて逃げ場がないみたいな事故の可能性も大きく減っている。
綜馬が半ば強引に休憩を取る約束を取り付け、お互い2時間行動したら3時間以上は体を休めるという条件下で働いている。
これまでは身体能力と純粋な魔法の力でダンジョンを進んでいた綜馬も、なりふり構っていられなくなったため、分身体と空間魔法内の様々なアイテムを使いモンスターを撃破している。
おかげでオークのようなフィジカルに補正の掛かった中型モンスターであれば、1人でも複数体を相手できるようになっていた。
現在は休息時間で、ミケアの帰りを待っている。本来ならば二人で行動した方が確実に安全性は高くなるのだが、効率と疲労面を考慮した際、常に殺気を漏らしている主モンスターに遭遇する可能性が少ないなどの理由から個別行動を取ることにした。
手に残る確かな感触と、モンスターが残す結晶。確実に今を更新し続けている感覚はあるが、それがどこに向かって進んでいるのかそれは未だ見えてこない。
このまま続けていればいずれかあの主モンスターを打倒できるのか、それとも今やっているのは現実逃避でしかないのか。
暗中模索の時間を過ごしていた二人。今日も今までと同じように主モンスターから逃げながらモンスターを減らしていくのだとため息を吐いた時、
「あれ、綜馬じゃん。相変わらず死んだ目してんね。」
顔を上げた綜馬の目の前には椎木蘭香が立っていた。
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突きつけられた判断の決定権は天谷が握っていた。目の前に現れた仰々しい魔法陣。それがなんなのか天谷は知っていた。
「この転移陣はそういう事なのか?」
「わかんないなら飛び込んじゃえば良いんじゃない?」
堂島と蘭香はそれぞれの考えをそのまま口に出した。
堂島と天谷が考える疑問は飛び込むかどうかではなく、その先のついて。最も考えられる可能性は三人の目的地である新規主モンスター階層。
しかし、この悪辣なるダンジョンが望んだものを素直に与えるのだろうか。即死級のトラップでない保証がない。
自分の判断に全てかがかかっていると覚悟した天谷は残る気力を絞るように考える。普段の状況下ならこの転移陣に飛び乗るなんで愚策するはずがない。けれど、この転移陣が地上へ繋がっていないとも限らない。切迫した現状が天谷の思考を惑わせる。
「ねぇー、あまやん。ダメなのー?せっかくだし行ってみようよ。今より悪くなるなんて事多分ないんだしさ。」
蘭香の言葉は空元気から出るものだと言うことを二人は知っている。無限のように引き延ばされた体感時間と、閉塞するこの空間は最も簡単に精神を蝕んでいく。
彼女は自分が声を出して溌剌とした自分を保っていなければ自分含めた全員がダメになってしまうと理解していた。
だからこそ彼女のこの発言はどちらにも受け取れた。小さな希望でも諦めない意志とも、終わってしまえという破滅願望とも。
「行こう。天谷。」
背中を押したのは堂島だった。その目には蘭香と同じ種類の翳りを抱えている。天谷は首を縦に振ることも横に振ることも出来ず。呆然と堂島の顔を眺めるしか無かった。
堂島と蘭香の意見が一致し、難しく考える天谷だけが取り残された。これ以上時間を使っても仕方ない。天谷は覚悟を決めて、魔法陣の前まで進んだ。
「バラバラに飛ばされる可能性もあります。自分が通った道に印を残しておいてください。そうだな、木の皮を一周。指くらいの太さでぐるっと剥がしておいてください。あと、まず初めに見つけるべきは階段でも僕達でもなくて水場ですからね。」
「あと、そうだ。」と話の長くなる天谷の説明を一通り聞き終えたあと、覚悟の決まった三人は魔法陣を囲むようにして立つ。
「とりあえず無事で、また。」
「うん!二人とも会うまで死んじゃダメだからねー!」
「大丈夫。大丈夫。」
誰かが掛け声をしたわけではないが、三人揃って一歩踏み出した。踵が魔法陣に着くと同時に薄く発光し、その光の輝きに三人は飲み込まれる。
目を覚ますとそこは見知った地獄が広がっていた。
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驚きや喜びといった複雑な感情の起伏は理解してから遅れてやってきた。
「蘭香ちゃん!!」
「綜馬、久しぶり〜、」
椎木蘭香は昨日ぶりみたいな表情と態度を示した。あまりの反応の薄さに綜馬はモンスターの一種では頭をよぎったが、体に馴染んだ蘭香との記憶がそれを否定した。
「ど、堂島さん達は!」
言い聞かせるようにして落ち着きを取り繕った綜馬は、今一番の疑問を堪えることなく吐き出した。
「多分今寝てるかな?」
綜馬が言葉を詰まらせた質問も蘭香は日常の一コマかのように返す。そんな事よりと蘭香は、周囲をキョロキョロと見回す。
「あのオークは今いないみたいだね。良かった良かった。」
「蘭香ちゃん今まで何が、」
「細かい話はあまやんに聞いて。とりあえず二人のところ行こ?」
「ミケ、仲間がいて、待ってないと、」
「それじゃあ探しながら行こうよ。二人とも綜馬に会ったら絶対喜ぶよ。」
蘭香の圧に負けた綜馬は、困惑しつつも三人の生存の喜びを噛み締めたり、ミケアをどう紹介しようか悩んだり、頭の中を行き来する様々な考えに混乱必至だった。
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