暗闇
8月2週目までは投稿頻度落ちます。お願いします。
ミケアは焦りを隠さなくなっていた。どうにかなると信じて飛び込んだ20階層。ダンジョンという構造にも慣れ、その本質は自分たちの世界の森となんら変わらない事に気がつき、英雄候補の彼を鍛える日々。
森にいた頃も苦戦を強いられる状況は少なく、知恵の持つ獣以外は敵にすらならなかった。自分がいれば主モンスターとやらも対処できるそう信じていた。
しかし、その結果がこれだ。20階層に降りてから2日間、主モンスターに怯えながらそれ以外の強い気配を狩り続ける。何かしていないとダメだという強迫観念からオークの側近を始末しているが、これがあまり意味をなしていない事を当の本人達が1番理解していた。
「少し休もうミケア。」
「ミケアはまだいける。ソーマは休んでていいよ。」
ミケアは綜馬の言葉に一瞥もくれず、次の標的に意識を向けていた。
「ミケア!!」
「ソーマ!うるさい!今足音聞いてるでしょ、」
「ミケア、僕たちが死んだらダメだって約束したよね。」
ミケアは綜馬の呼びかけをわざとらしく無視しながら、地面に耳を近づけたり、風の向きを読んだりしている。綜馬は声をかけ続けるがミケアの瞳に宿った焦燥は拭えなかった。
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今自分という存在が形としてあるのか、目を覚まして一番初めに浮かんだ思案はそれだった。あの瞬間の光景が脳裏を掠めるが意識の覚醒によって全身の痛覚の嘆きを感じ取った。
「っっぐぁぁ!」
堂島は跳ね起きて、脇腹の傷を確かめた。
「まだですか、堂島さん。」
天谷は焚き火の前で堂島の起床を苦笑いで受け入れた。
「悪い、天谷。夜の番は俺が変わるよ、」
「堂島さん、あの日からまともに寝れてないじゃないですか。明日は下に行くのでそのために体だけでも休ませてください。」
「でも、」
「でもも、だってもありません。蘭香ちゃんを見てくださいよ。堂島はさんの呻き声なんて知らずに幸せそうですよ。」
天谷の視線の先。そこに眠る少女の姿を見て堂島は思わず口角を緩めた。
「とにかく、ここらの階層では僕が役に立ちません。僕が出来ることはこうやって魔法で結界を維持するくらいです。堂島は堂島さんのできる事を、僕は僕のできる事を。頑張りましょう。」
天谷は『結界魔法』でモンスター達から身を守り休息地を作り出していた。
「そうだな。すま、ありがとう天谷。」
互いに柔らかな笑顔を浮かべ合い堂島は横になった。再び一人の時間を過ごす事となった天谷はダンジョンの天井、つまり地上の方を見上げながら聞こえない程度のため息を吐いた。
死者でなければ出られない主モンスターの階層という情報はごく僅かな人数にのみ絞られて伝わっていた。その中に天谷もいた。
幾つもの可能性を考え、様々な作戦を立てた。その中にはとても無慈悲で非常なものも沢山あった。しかし、そんな作戦全て虚しく無意味に終わった。
【マーク】の裏切り。気付いたものはごく少数だと思っているが、天谷、そして堂島はその瞬間を目の前で見ている。マオとジン。副討伐隊長の聖が圧倒されたスライムを抑え、シェルターから逃げる時間を作ってくれた恩人。
その実力と人間性は保証されていると皆が思っていた。
ダンジョンの滑落に見せかけた工作と、ダンジョン内のモンスターを誘導しダンジョンから帰還させないように準備していた。
合同ダンジョンアタックの指揮をしていたからこそ、ダンジョンの異常次第。それも人為的な違和感に堂島と天谷が気が付かないはずがない。
しかし、気がついた時が彼らの行動開始と同時だった。先遣隊のほとんどが死亡。助けに行った者も殆どが死に、20階層にいた者は誰一人生還できていない。唯一の希望は15階層の拠点キャンプにいた者は数人逃げ切れたかもしれないという可能性。
その数人の中に冬弥は必ずいるだろうと堂島達は信じている。
救助という淡い希望がなければ生き残った3人が精神をまともに保っていられるはずがない。ただ、しかし何もなくダンジョン内を徘徊しているのは体力も気力も持たなかった。
その結果考えた作戦が時点の主モンスター階層へ向かい、主モンスター階層にあると言われている隠し部屋。転移陣の部屋を見つけ出し、地上を目指すという二つ目の希望策だった。
おそらく今いる場所から近い20階層に向かわない理由は、あの豚の王に3人の匂いが覚えられてしまったためだ。嗜虐心の塊であるかの王が一度逃した餌をみすみす見逃してくれるはずがない。
それならば、未知という部の悪い賭けを選んだ方がマシだと考えた。
主モンスター階層でなければ湧いてくるモンスター達にそこまで苦戦することはない。中型モンスターが殆どではあるが、堂島と蘭香の二人がいればどうにかなる。森林型のフィールドダンジョンというのも幸運して、食事や水に困ることはないし、天谷の『結界魔法』があれば休息も充分に取れる。
堂島が失った右腕以外はこれまで通り、むしろ修羅場を越えたからこそ得た経験値によって、これまで以上の力を発揮しながら次の主モンスター階層まで進んでいた。
ダンジョンアタック失敗してからどれだけの時間が経過したのか、昼も夜もないダンジョンの中では今を知る方法なんて無かった。普段のダンジョン探索では常備している装備品も当然持ち合わせていない。
森林型である事が唯一の救いでもあるが、その分危険も多く孕んでいる。こんな生活を続けていればいずれは、と天谷は一人の時間を噛み潰す間その事ばかりを考えてしまっていた。
救助という一縷の望みはあるが、その希望の光がどれだけ薄いものなのかも理解している。次の主モンスター階層へというアイデアは咄嗟に思いついた策だったが、今思うと唯一の希望から遠ざかっている行為でもある。
自分はどうしたらいいのか。戦闘面で大きく貢献できない天谷にとって堂島と蘭香の二人を最善に導く必要があると自覚していた。司令塔というのは烏滸がましいが、指針の一つにでもなりたい、なるべきだと頭を悩ませていた。
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