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足踏み

 綜馬とミケアは息を殺して身を寄せ合う。県境のダンジョン20階層。中級難度に位置するこのダンジョンでシェルター810を中心とした勢力は瓦解した。

 いわゆる中型モンスターはB〜Dランクにも該当するモンスターの総称であり、この階層からは中型モンスターのみ発生する構造のようだ。


 基礎的な身体能力だったり、外皮の硬さ、魔法、特殊攻撃の取得、高度な知識を持っていたり、固有スキルを持つモンスターもいる。

 つまり、これまで培ってきた動物的モンスターと相対する価値観のままでは大きなズレが出来てしまう。このズレが何を意味するのか、みなまで言わずとも理解できるだろう。


 17階層から寝る間を惜しみミケアから戦いのイロハを叩き込まれてきた綜馬。自分でもあまりあると自覚する力を理解しなおし、再構築する努力を続けていた。


 2人は20階層を生き延びれるのだと信じて疑わなかった。

 しかし現実はそう甘くなかった。中級ダンジョンという事もあり、中型モンスターは浅い層でも対峙することは何度かあった。10階層より後は半々近い遭遇確率になっていったし、18、19階層に至ってはほとんど中型モンスターとの戦闘だった。


 中型モンスターという概念を知らないミケアも、モンスターの持つ生まれつき差は理解していたようで、綜馬が20階層に行けるだろうと判断したのは、これまでの積み重ねからだった。

 ただ、20階層はどうにかなるだろうという意識の根拠となったその積み重ねは無意味だったのだと知ることになる。


 [カンジ]や[スコル]の力を借りて主モンスターの索敵を行っていた2人は、ただならぬ気配を察知した。2人の予想通りその気配は主モンスターのものであり、その気配から今自分たちが何を相手しようとしているのか体感する。


 森林型のフィールドダンジョンは、階層によって輝度が違っていて、ダンジョン内に自生するライトツリー、ライトフラワーといった光源になる植物や、鉱石の有無によって変化をもたらしている。

 20階層はこれまでの階層と比べて一段と周囲が暗く、視界による有利は存在していない。


 そのため綜馬とミケアは耳を凝らし、聴覚による察知を行っていた。


 ドンドンと大地を踏み締める音が聞こえる。気配を押し殺そうなんて小細工をする素振りすらない。フゴフゴと鼻息を荒くし、目に映るもの全てが自分の獲物であると理解している余裕。

 戦いとは捕食の過程であり、痛みや血などは流れない。


 オークの王は久しぶりに感じた同族達とは違う気配を見つけるため、根城となる森を歩き始めた。見慣れない小さな獲物を見つけては砕いて捕食しようとしたが、叩き潰した瞬間に暗闇へと溶けて消えていった。

 何度かそれを繰り返した事で、オークの王は憤慨する。彼にとって自分の求める時に食事が出来ないのは何よりも苦痛で、許し難い行いだった。


 怒りを晴らすためにオークの王は見るもの全てを粉砕し、その血肉を飲み干した。しかし、王の機嫌は治らない。生まれて初めて屈辱を与えられた。何度も潰したはずの鳥と狼は、その後も視界に映る。

 自分はあの小さな生き物達に馬鹿にされているのだと王は理解した。


 このまま、あの矮小なものに精神を凌辱され続けるのかと思うと頭がどうにかなりそうだった。グツグツと血が沸き立ち、全身の筋肉が張り始める。殺さなければ、王の頭の中にはただれそれだけが鳴り響いていた。


 圧倒的な殺気。自分たちを殺してやろうという明確な意志を読み取った綜馬とミケアの両名は、本能からくる震えと寒気をどうにか堪えながら20階層の探索を続けていた。

 ただ、探索といっても移動している範囲はごく僅かで、このペースを続けていたら堂島達の痕跡を見つけられるのに相当時間がかかるだろう。


 手分けして動くか、主モンスターの討伐を急ぐか、どちらにせよ現状を打開するためには少々強引な手段を選ぶしかなかった。

 そんな状況に置かれた2人は、主モンスター討伐をとりあえずの目標に立て、積極的に[カンジ]と[スコル]を扱った。しかし、この判断が後々二人に牙を剥くことになる。


 主モンスターであるオークの王は時間を増すごとに殺意の濃度を濃くしていく。そしてその気配の圧力は綜馬とミケアに伝わっていく。


 探索を始めて約2時間が経過し、20階層入口付近一帯は全て見終えた2人。仮拠点で体を休ませるか、もう少し辺りを見回るか今後について頭を悩ませる2人。


「休むにしても、この場所には長居できない。早く倒して移動しないとダメ。」


「けど、今の力じゃ、」


 ブォォォォー!!けたたましい咆哮が鳴り響き、それと同時に綜馬が用意していた[朔]以外の分身体が全て消滅した。全身を這うような違和感を覚えつつ、その違和感を簡単に塗り替える恐怖によって2人は瞬時に行動を起こす。


 主モンスターを早急に討伐すべきという提案を持ちかけていたミケアだったが、主モンスターの気配を直に受け取れる距離に踏み入れた事でその考えはさっぱりなくなったらしく、とりあえず姿を隠すという判断を選んだ。

 2人は示し合わせたわけではないが、綜馬があの咆哮を聞いて1番初めに浮かんだ行動は逃げ隠れるというものだった。


 つまり、2人とも主モンスターの力を全身に浴びた事で思考は簡単に帰着し、その思考は同じものとなったのだ。

 薄暗い森というのは、身を隠すのには絶好の地形と言える。

 [カンジ]を使い主モンスターがオーク種である事はわかったため、嗅覚から悟られぬように、【ソルジャーニュートの臭い袋】を周囲にばら撒き嗅覚を麻痺させる。


 ミケアと綜馬も異臭の中堪えるしかない。生き延びることが最も優先すべき事項であり、それ以外の願いは全て贅沢ですらあるだろう。


 2人は肩を寄せ合い、今この瞬間を生き延びるために願った。


――――――――――――――――――――――――――――――


 時間通りに戻ってきた冬弥、ララ、カホの3人はそれぞれが背負うリュックから大量の魔石を出してみせた。


「こんな短時間で!」


「おいおい、マジかよ。」


 レオとしゅんはあまりの成果に驚きの声を漏らす。

 それもそのはず。冬弥達が集めた魔石の数はこれまで4人でダンジョンに潜り3日丸々滞在した時の成果とほとんど同じだった。


「ララもびっくりしたよ!」


 当の本人達もその成果に衝撃を受けている様子だった。冬弥加入によって全ての効率が上がり、3人での探索でもこれまで以上の結果になった。


「これで、みんな、」


 レオは喜びを噛み締めるように拳を握る。これまで胸の奥につっかえていたモヤモヤが晴れたのだろう。なんの憂慮もない晴れやかな表情を浮かべていた。


 


 

読んでいただきありがとうございます。


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