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名をミケア

[シェルター813 シェルター外住宅地]


 ララとしゅんは互いの苦手を補いながら戦いを続ける。ララはメインの『風魔法』とサブの『棘魔法』を駆使し距離を保ってしゅんの戦いやすい環境を作り出す。

 しゅんは『土魔法』と『強化魔法〔肉体〕』で、ララが倒しきれない耐久の高いモンスターや、速度の速いモンスターを相手にする。


 これがレオ達の戦闘隊形の基本だった。ここに前衛のレオと『支援魔法〔肉体〕』を持つカホが加わる事で単純だがバランスの取れた戦闘を行える。それぞれの役割が重要で、誰か1人かけると連携だけでなく精度やバランスが極端に落ちる。

 現在ララとしゅんの2人で魔石を集めているのがシェルター近くの住宅街という事もあり、そこまで手間取る事はなく活動できているが、これがダンジョン内や異常発生中のエリアでは太刀打ち出来なくなる。


 最も戦闘力の高いレオと、貴重な支援魔法を使えるカホの二名はそれぞれが配属された警邏隊で中軸になっており、仕事量と活動時間割り振りが、ララとしゅんに比べて多い。

 ララとしゅんは時々時間や場所が被るため、自由時間も同じように使え、今日のように魔石集めに向かえる。


 この2人の連携がレオ達の基礎戦闘の軸ではあるため、安定感のある活動は行えるが集められるまさきの量と質はかなり粗い。

 しばらくは蓄えがあるから大丈夫だとレオは言っていたが、議会のやつらが今回のような大胆な方法を今後いつ使ってくるかわからない。今回の警邏隊任務を引き金に、様々な規則がなし崩し的に決まってしまうかもしれない。


 議長5人と星5等級の者で構成した名ばかりの議会は、自分たちにとって都合の良い仕組みをどれだけ巧妙な手口で浸透させていくかのゲームになっている。シェルター813に住む全住人に議会参加と、規則決定の投票権を持っているとさも平等であると謳っているが、実状は豊かさに飢えた最も人数割合の多い星2等級以下の者に魔石をばら撒き投票権を得る。

 議会は参加できるが、意見や新たな規則を提案する発言権に魔石を使用しなければならない。


 馬鹿げた話だった。しかし、シェルター813のシェルター機能を十全に利用できているのは上位5%、つまり議長と星5等級に該当する者達が稼いでくる魔石の恩恵だ。シェルターを使うだけなら議会のメンバーだけで事足りるが、贅沢を楽しみ、快楽を求め、惰性を甘やかす、そんな欲望を満たすためには多くの人間が必要だった。

 魔石を取ってこれないとしても、単純労働力としてマンパワーは必須だった。


 下にいる者達は自らがシェルターの荷物であり、負担であることを理解しているから強く声を上げる事は出来ない。寧ろ、本来の実力では得られない利益を少ない魔石で得ているのだから、感謝する者も少なくない。

 1番不満を持つのは中位層にいる者達だが、いつか上位の立場を狙えると信じているから今の体制を壊そうとは思わない。まるで正義を燃やしているような振る舞いを見せるが、結局は自分も甘い蜜を吸う独裁者側に回りたいだけだった。


 孤児院のみんなとおじいちゃん、おばあちゃん。シェルターでの生活は3年目に突入する。孤児院の中では戦える、戦いたいと言ってくれる子も増えてきた。レオの判断で実戦にはまだ出せていないけど、不安ばかりの未来の中でいくつか光る希望の一つだ。

 時間は味方でもあるが反面敵でもある。戦闘はできないが、炊事洗濯などの家事を担当してくれたおばあちゃん、その中でもみんなを仕切ってくれた中村さんがここ最近腰を悪くして、立ち上がるのもやっとだ。

 まとめて魔石と交換するレオ達は、肉や魚を得る時小分けではなく、素材丸ごとで交換する。そんな肉や魚を食べやすく捌いたり、加工してくれるシゲさんも長年のタバコが原因か、喉を壊している。


 病院もないこの世界ではシェルター機能で身体状態を判別し、破滅する前に流通していた薬を魔石で交換するか、『回復魔法』『治療魔法』『解毒魔法』など回復系の支援魔法を使える者に頼むしかない。

 ポーション類やアイテムなどの効果でも、健康や身体の状況に好転的な影響をもたらす物も多いが、威力が高い分そのどれもがとても高価である。


 明日どんな事が起こるかわからないような状況で、レオ達はギリギリの綱渡りをし続けている。今回のワイバーンの騒動も治ったわけじゃない。

 

 自分たちしか考えられないあいつらみたいにはならない。しゅんは強く拳を握りながら、目の前のゴブリンの頭を弾いた。


――――――――――――――――――――――


 彼女の名前はミケア・ウラャタ。ビュス生まれのロア族。エルフの彼女と出会った綜馬は、彼女の話す言語を理解出来なかったが意味は理解出来た。

 どんな仕組みなのかミケア自身もわかっていない様子で、相互の発する言葉は音を声として聞き取り意味に変換する事は出来ないが、そのまま意味を脳の中に垂らし入れられるように理解し合って会話する事が出来た。


 生まれて初めての違和感に最初は苦戦したが、会話を重ねるうちにその違和感は薄れていった。


 彼女達の世界ではエルフという呼び名は存在せず、耳の長さと皮膚の色で種族を分けて呼ぶらしい。逆に彼女達の世界では人間という存在が空想上の生き物であり「ンッカ」と呼ばれているらしい。


 腰を据えてゆっくりと会話したいところだが、今の綜馬は急を要する状況でもあった。あの時の1秒が無ければなんて絶望は耐えられない。

 軽く事情を話し、しばらくは15階層に居住を構えたままにしてくれとミケアに頼み込む。

 すると、ミケアから返ってきた言葉はどの予想とも違った答えで綜馬の行動に同行したいと言い出した。自分の同族や同じ世界の者に出会うかもしれないという可能性と、1人で行動するよりずっと楽しいという理由だった。


 綜馬は少しだけ考えてミケアを受け入れた。


「ソーマの言ってた、大事な人は強い?」


「うん。強いよ。」


「ソーマより?」


「もちろん!」


 ミケアは眉間に皺を寄せて、何か考え込んだ様子でしばらくの間黙ったままだった。


 言葉にできないでいた鬱々とした感情は、ミケアという異常事態に出会った事で拍子抜けした。この世界の変動は常に思考の外にある。希望や期待が無駄であることは理解していたが、反対に絶望や不安も文字以上の意味を持っていなかった。

 死角から頭を殴られたような衝撃は、良くも悪くも綜馬の思考を放棄させた。


 調査に出していた[スコル]と[カンジ]から思念が伝わってきた。

 これまでは分身体を斥候的な使い方をする時、[カンジ]の視覚を共有するにとどめていたが、ダンジョンで幾度となく自由にさせる索敵方法を用いたことで、思念伝達のやり方が掴めてきていた。召喚した分身体の得た五感情報を、強い刺激として召喚主の綜馬に伝える。


 強い刺激になる情報はその分強烈な感覚を得た時のみになるが、召喚時に命じた仕事内容は強い刺激として処理されるようになっている。つまり、今回の場合15階層から下に続く道という情報は分身体の中で最も強い刺激情報に該当するため、刺激を読み取った綜馬は分身体に意識を送ることで、共有した視覚から確認することが出来た。


「16階層への道が見つかったんだけど、ミケアは準備大丈夫か?」


「うん。この辺の獣くらいなら準備もいらない。」


 2人は警戒を強め、分身体のみつけた道の方へ進んで行った。

読んでいただきありがとうございます。


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