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働く

 昼寝は15分から30分が最適だとどこかで読んだが、そんなはずないと綜馬は常々思っている。

 あくびを噛み殺しながら午後の配達の用意を始める。といっても、午前中に受け取った郵便物の中で、シェルター800宛てのものをまとめるだけだ。


「あぁ、忘れてた。」

 

 トイレに行く途中、洗面所の水桶に洗濯物を浸けて置いた事をここで思い出す。中の水を全部捨て、綺麗な水に変えた後、洗濯板でまとめて洗う。

 お洒落ようの服では無いし、これくらいでいいだろう。ある程度汚れが落ちたと思ったら、水気を絞り洗濯かごの中に入れておく。いくつかハンガーをかごの中に入れ、玄関に置いた後、本来の作業であるシェルター800宛の郵便物仕分けに取り掛かった。


 うぅぅーーと唸り声のような声を上げながら、伸びをして背中と腰の怠さを取り払う。パキパキと鳴る骨の音が気持ちよく感じる。昼寝前にやった分と合わせて、仕事は終わった。

 あとはシェルター800に届ければ、2日はダラダラしていられる。


 手紙類は肩掛けカバンに、他の荷物は空間魔法で収納して準備完了。玄関に置いてある洗濯かごも持ち、朝と同じように覗き穴、監視カメラの順に索敵を行ったあと、不在を確認して外に出る。

 今度は木の板を渡らず、2つ隣の506号室に入り、今に置かれた部屋干し用の物干し竿に洗濯物をかけていく。この部屋日当たりが良いため、明日の夕方に来れば乾いているだろう。


 こんな世界になってから、綜馬はベランダに出る危険性を何度か味わった事もあり、完全装備している状態でない限り外には出ない事を心がけ、洗濯物は日当たりのいい506号室で行う事にしている。


 全て干し終えて、軽く索敵をしたあと隠密と気配察知の魔法を発動する。昼寝のおかげか、さっきよりスッキリとした気持ちで発動できた。


 ハシゴを使い屋上に立った綜馬は、適当な方向に発音弾を投げつける。地上にいるモンスター達はそちらの方向へ向かっていくが、逆に綜馬向かってくる大きな黒い影。

 

「おぉ、クロウ。早かったな。」

 

「グァァァ!!」

 

 送った時と同じように頭と嘴を撫で、クロウの背に乗る。

 

「よし、いくぞ、」

 

 と、背をポンポンと叩くと上昇する。クロウはそのまま、シェルター800へ一直線。最近はワイバーンがはるか上空の高度を飛んでいるため、空への危険性はあまり気にしなくていいのは助かっている。


 青白い幕が見えてきて、あっという間にシェルター800へ着いた。


「おかえり、クロウ。綜馬くん。」

 

 お出迎えは長月琴と、その友人椎木蘭香の2人だった。

 

「おっすー、綜馬。相変わらず死んだ目してんな、」

 

「らんちゃん、そんな事言わないの。」

 

「たっはは、綜馬の事となると厳しいな琴は。」

 

「蘭香ちゃんも相変わらずだね。」


 胸当てだけではなく、全身に帷子や装備をしている蘭香は、シェルター800において1番の要である討伐隊のメンバーで、相当な実力者だ。長月とは小学校からの友人で、綜馬とも中学から知り合いだった。


「それで今日の荷物は終わり?」

 

 琴と蘭香と談笑しながら、空間魔法にしまっていた荷物と、肩掛けカバンに入っている手紙類を集会所の机の上に乗せていく。

 集会所である元小学校に場所を移動した3人は、シェルター800宛てのものをさらに、住人ごとに分けていく作業に取り掛かる。

 

「うん。1番重いのは、804からのメンテナンス済みの武具防具と、量が多いのは803からの野菜かな。」

 

「おっけー!あぁー!私のナイフ届いてる!!やっぱり橋本さんの手入れは綺麗だよなー、」

 

 蘭香は興奮気味に武具防具の山から自分のナイフを見つけ出し、何度も傾かせナイフの輝きを確かめている。


「見てないで、仕分け作業やるよらんちゃん。」

 

「あと、ちょっとだけ、」

 

「まったく、」

 

「そういえば、一輝さんは?」

 

「堂島町長なら掲示板の前で次のダンジョンの目星つけてるよ。」

 

「またダンジョンアタックするの?」

 

「うん。なんか、今月のミッション、未達成なのが何個かあったから、支援物資の量がしばらく減っちゃうみたいで、」

 

「なるほどね、これから寒くなるのに、大変だ。」

 

「また配給減るのかよー、うちらめっちゃ働いてるのにさ。」

「今って、どれくらいなの?」

 

「最近は鞍田さんのお米入ったから豪華だけど、1日白米200gと、パン、レトルトの味噌汁がどっちも2つずつで、おかずは炊き出しで日替わりって感じかな。」

 

「3食はちゃんとあるんだね。」

 

「うん。綜馬くんのおかげで、色々取り引きの幅が増えたみたいだからね。とはいっても、前みたいにお菓子とか新鮮な果物とかはやっぱり贅沢品なんだよね。」

 

「あぁー、ステーキ食べたい、ハンバーガー食べたい、コーラ飲みたい、ポテチ食べたーい!!」

 

 突然蘭香が叫びだす。


「落ち着いてよ、らんちゃん。」

 

「だってよ、クエスト報酬とか支援物資の選択に、お菓子とか色々あるけど、結局ティッシュとか、日持ちするパスタとかになるんだぞ。目の前にあるのに!!って感じでもうムカムカすんだよ。」

 

「しょうがないよ。ここは人が多いんだし、安全が1番で、その次が食事、そして快適さ。娯楽とか甘味とかは本当に後回しになっちゃうのは仕方ないんだって。」

 

「わかってんだけどよ、やっぱり恋しくなっちゃうんだよなぁー、」


 2人の話を綜馬は胸を痛めながら聞き流す。ステーキ、ハンバーガーはもちろん、コーラもポテチも大量の在庫を抱えている。彼女達に差し入れる事は当然可能だし、むしろ渡したいくらいだが、その事がバレた時綜馬はどうなってしまうのか。

 想像しただけでゾッとする。


 魔道具は、陰魔法を使った分身による複製は出来ず、魔物の低確率ドロップか、シェルターからの恩恵でしか手に入らず、魔道具獲得の頼りがない限り、真の意味でのシェルターからの独立は出来ない。

 つまり、問題が起こった場合綜馬は、大きな選択を迫られる事になる。そうならないために、綜馬は有用で優秀な隣人であり続ける事を意識する。


 ある程度の仕分けを終え、シェルター800内での学内、学校周り、シェルター側の3つの区分けごと別々の入れ物にしまう。

 

「これ、天谷さんに渡してくるけど、他ないよね。」

 

「うん。シェルター側のやつはそれで全部だよ。」

 

「おっけー、じゃあ渡してくる。綜馬またね。」

 

「ダンジョン気をつけて。手紙よろしくね。」

 

 蘭香が外へ行くついでにシェルター側の荷物を渡して、シェルター800内での配達役をしている天谷への使いを引き受けてくれた。


 ちなみにこのシェルター側の住民というのは、このシェルター800ないでのヒエラルキー下位に位置する者たちが住むエリアであり、最もモンスターの恐怖を間近で感じる区域といえる。

 シェルターを守る青白い光の幕はミッションによる報酬で、選ぶシェルター結界の拡張であり、本来の距離よりも多く広げられた結界が今、このシェルターを守っている。

 つまり、数ヶ月ミッションをサボると範囲が元に戻り、現在シェルター側のほとんどのエリアがセーフゾーンから外れる事になる。


 この場合、最もヒエラルキーが高いのは中心の小学校の周り、一軒家が並ぶエリアであり、安全性や掲示板や会議が行われる小学校への利便性、そして一軒家という広く住みやすい環境を得ることが出来る。

 学内には子どもやお年寄りなど、保護下にあたる者たちが住んでいる。


「それじゃあ、仕分けも終わったし、一輝さんに挨拶したら僕は帰るね。」

 

「うん。いつも、ありがとね。」

 

「こっちこそ、クロウと長月ちゃんがいなかったら出来てないよ。ありがとう。」

 

 2人は照れながらお互いに感謝を言い合う。彼女なら、


「これ、内緒で食べて。」

 

「え、」

 

 綜馬が渡したのは個包装のソフトキャンディ。12粒入っている未開封のものを渡す。

 

「これって、」

 

「僕のとっておきのひとつ。みんなには内緒ね。」

 

「綜馬くんは、すごいね。」

 

 久しぶりのお菓子だったからなのか、綜馬の底の見えなさに驚いたのか、琴は目をまんまるくして、綜馬を見つめる。

 その後、また2人で笑い合い、去り際綜馬は口元に指をあてて内緒のポーズをして、それを返すように琴も人差しを唇に当てて笑った。


 


 

読んでいただきありがとうございます。


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