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シェルター813

 シェルター813の中枢は旧警察署に置かれていた。シェルター生成の時に警察署を巻き込んで作り出したシェルター813は、畑や河川、山のような食料を生育させられる環境はなく、住宅街をそのまま飲み込んだ構造となっている。

 そのため、シェルター813の資源を支えているのは人の力のみで掲示板を通した魔石を使用しての物資に頼りきりの状態になっている。


 幸いというべきか、必然というべきか、住宅街をそのまま飲み込んだシェルターのため抱える人口は多い。元々あった警察署以外に、中規模の工場と宅配センター、国道沿いの飲食店群など、シェルター拡張に行付近の建物を吸収したこともあり住民の棲み分け区域は明瞭化している。

 能力が足らないため、元々住んでいた家を追い出される家族は少なくなく、偶然この地域にいた人間が能力を持っていたため、我が家を見知らぬ人間に占領される恨み顔は至る所で見受けられた。


 警察署を飲み込んだため、能力やこの世界に順応する前は警察官主導の下シェルター813は管理されていた。しかし、現在では5人の議長の下シェルター813は動かされる。


 その彼らが居住を構えるのが警察署と、その周囲にある地主山本家のエリアだった。シェルター813の中央に位置するこのエリアは要所と言えた。


 警察署では、5人の議長含め、星5等級に該当する中でも有力者を集め今後についての会議が行われていた。定期的に行うものとは別で、今回のワイバーン騒動に対する内容を議題に様々な意見を交わす。

 避難時の行動、受け入れ先の各シェルターとの関係、等級別に配給できる貯蓄物資について、議題は尽きることなく次から次へと話は移っていったが、今回の本題はこれら規則的なものではなく別にあった。


 議長の1人である田邉匡哉は一区切りついたところで、皆の注目を自分のもとに集める。

「少しいいか?事前に伝えておいた防衛力、そして戦闘面での問題解決はこうして話し合ったがいい案は出なかった。それで、私、というより何人かの提案として外から力を借りてみてはどうだろうとなったんだ。今日はあくまで参考してだが協力してくれると言ってくれた傭兵団体の代表が来てくれてるんだ。」


 田邉はドアの近くに立つ菊地に合図を送る。菊池は視線をドアに向けさせるよう大袈裟に咳払いをした後、ドアを開けた。


「紹介しよう。『ブライス』という傭兵団体の代表を務める桜川真緒さんだ。」


 マオは深く頭を下げてから田邉の元へ向かう。マオの登場を知らされてなかった面々は様々な反応を見せる。

 ここにいる者達は星5等級に該当するだけあり、それなりの戦闘力は持っている。正確ではなくとも、見るだけでなんとなくの相手の力量は測れるのだろう。


 戦力として相応か見極める者、女性と知って舐めてかかる者、聞かされていない話が淡々と進んでいきよく思わない者。会議室にいるそれぞれがそれぞれの思惑のもと、マオという人物、そして『ブライス』と呼ばれている団体に意識が向いていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


[星2等級居住区]


 レオ達が庇護する孤児院と老人達は星2等級に該当する。最近では孤児院の中からもレオ達の役に立とうと、基礎戦闘を学んだり日常業務のサポートをしてくれる子も増えてきた。

 ただ、魔石を集めるという最も重要な根幹業務をこなせる人数は限られており、無理して外に出る事で怪我を負う、最悪死に至る可能性を含んでいる限り簡単に人数を増やす事は出来なかった。


 戦闘人数が少ないながらも50人近い人数を星2等級で維持できているというのは、ひとえにレオ達の戦闘力の高さを裏付けさせる。レオ達は綜馬と会った時と同じように市街地での戦闘ではなく、ダンジョンのみを狙い潜っている。


 現在、避難誘導の時に感じた無力感以外にレオ達は大きな悩みを抱えていた。それは暫くの間いつものメンバーでダンジョンに潜れなくなった事が理由だった。

 昨日発表された議長からのシェルター813防衛策はこれまで通りの避難指示に加えて、緊急事態発生後2週間は議長達が無作為に選んだ10人の警邏隊をとし、全部で10の部隊を作るというものだった。


 目的はシェルター内の治安維持のほか、夜間の見回り、現状確認と把握など、生じた問題に対して最小限の被害で済ませるための対処だった。

 そして、この"無作為"に選出される警邏隊に、レオ、しゅん、ララ、カホはそれぞれ別の部隊になる形で配属された。警邏隊の業務は5日に1回、1日に2部隊が駆り出されるシフトになっている。


 現在このシフトは発表されていないが、4人が予定なく揃う事はあっても1日か2日程度。運が悪ければ誰か1人欠けている状況が2週間という期間ずっと続く可能性だってあった。


 作り上げた連携や、気心知れた関係からくる脱力はこの4人にしか作ることが出来ない。それに、実力があるのに孤児院や老人達を守るために質ではなく量で魔石を稼ぐ事をよく思っていない者は少なく無い。

 協力を申し出たとしてもそもそも受け入れてくれないのが過半数、一部の物好きを除いて、協力を取り付けられたとしても妨害や略奪される可能性も充分にあるだろう。


 50人近い人数を支える魔石、シェルター813では月に1度支払い日があり、その日が支給日でもある。一部貨幣的な役割を持つ星コインと魔石を交換し、そこから居住区使用料や食料、日用品などを買っていく。

 奇しくも今月の支払日は警戒解除の2週間後だった。


「あいつら!」


 普段怒りを表現することのないしゅんが珍しく声を荒げる。しゅんの怒りに、他3人も唇をギュッと噛み締めるしか出来なかった。自分もしゅんと同じ気持ちだが、全員が怒りを発露させてしまえば自制するすべを忘れてしまうかもしれない。

 そのことは全員が理解していた。そのため、しゅんの怒りに自らを重ねるように見つめるしか出来なかった。


「あのカス共は俺たちを使うためにバラバラにさせようとしてんだよ。これで何回目だよ、」


 シェルター813の中で実力者とされる議長と星5等級の者達は、日に日に肥大化する欲望のために効率よく魔石を稼げる者を優遇していた。その中で彼らが最も邪魔に思っていたのが孤児院と老人達の存在。

 自分たちで稼ぐのではなく、実力だけで見れば星5等級並みのレオ達のおこぼれを貰い続けている。


 役に立たない枷を外すことが出来れば、レオ達は低い純度の魔石ではなく純度の高い魔石を取りに行ってくれるはず。

 シェルターから受ける物資は、基本的に魔石の純度と数が重要だった。数が多ければ物資を増やす事ができるが、純度という価値は何にも変えられなかった。


 良いものが欲しければ純度の高いものを。贅沢を求める議長達はその事ばかり考えていた。

 そのための妨害工作。これで何度目になるかわからない。今回のようにわかりやすい妨害は初めてかもしれないが、これは彼らがなりふり構っていられなくなった事を意味するのだろうと、レオ達は理解した。


「兎に角、任された警邏隊はやるしかないよ。ミスをして余計に口実を増やさせたくない。」

 レオの言葉に他3人は仕方なさそうに頷く。


「足りない力は、元々知り合いだったり、近くのシェルターにいたら声かけ合おうよ。」

 カホが思いついたように提案する。「そうだね、」「いいじゃん」と賛成の意見が飛び、


「警邏隊の中にはあいつらのスパイいそうだし、やめた方がいいよね?」とララが付け加える。


「そうね、まだコインは余裕あるしとりあえずは仲間探しって事で。」


 レオ達は今後の指針を決め、自分たちを邪魔しようとする者への抵抗姿勢を確かめ合った。


「それなら、そーまくんとか良さそうじゃん!」

「綜馬なら確かにいいかも、」


 レオ達はしばらくの間、仲間候補についてああでも無いこうでも無いと語り合った。久しぶりに楽しい夜を囲んでいた。


 

読んでいただきありがとうございます。


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