表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/57

ぷかぷか

お久しぶりです。今日からまたよろしくお願いします。

 正体不明の浮遊体。綜馬はとりあえず目の前のそれを受け入れる事にした。これはこんな世界になったからこそ綜馬が習得した技術だった。受け入れ難い現実に身を置くためには、自分が折れるしかない。諦めたうえで今できる最善を探す。そのことに気付かされたのだった。そうせざるを得ない状況にこの世界の神は、臣民たちを追い込んだと言えるだろう。


 綜馬が手を付けるべき抱える問題、それは緊急ミッションの対象であるモンスターの掃討。モンスターとの戦闘は得意ではないが、絡め手を自由に使っていい状況ならいくらでもやりようがある。その面でのアドバンテージが自分には大きくあることを理解していた。

 [カンジ]や[朔]、自分自身を召喚しての代理戦闘が一番初めに案として浮かんだが、綜馬に依存した戦闘力になるため、いたずらに魔力を消費するだけになりかねなかった。結果思いついたのが、火薬や爆発を用いた一撃必殺。


 空間魔法から目ぼしい道具を用意し、作戦を練るために準備を整える。その間も綜馬の周りを浮遊し続ける物体を見て、いつかの思い出が浮かんできた。

「クラゲみたいだな。おまえ。」家族といった水族館、目に映る全てが新鮮で喜ぶ弟と妹。それに付きっきりな両親。興味のあった爬虫類のエリアに見飽きた綜馬はどこか座れる場所がないか館内をうろついていた。その時たまたま目にしたクラゲの展示を思いだす。ふわふわと水中を漂い、溶けて消えるみたいな身体で水槽の中を行ったり来たり。

 目についた瞬間は自由だなと思ったクラゲの揺らぎも、見続けると不自由に縛られた窮屈さにあるのだと気付いた。綜馬は暫く水槽の前で魅力に心が支配されて動くことが出来なかった。


 あの時の情景を鮮明に思い返す。その瞬間浮遊体を覆う光が濃く強く変化し出し、綜馬は眩しさに目を閉じる。目を開けるとそこには一桶のクラゲが泳いでいた。触角を器用に動かし、くるくると回転しながら綜馬の目の前で泳ぐクラゲ。あの時と同じようについ目を奪われてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――


[カンジ]で空から対象を観察する。少し前まで激しい戦闘が起こっていたのだろう。砂煙が一帯を覆い地上の様子がいまいちよく見えない。分身体を使い、対モンスターへの爆弾を作りながら、モンスターの様子を探ろうと動いているが効率を考えすぎて、むしろ非効率になっているのではないかと心配になってくる。


 予想だにしない大きさのモンスターだったり、その逆で小さくて正体を掴めない可能性だってある。複数のモンスターから成る場合も、爆発の効かない液状だって考えられる。自分の判断が浅はかで早計だったことは何度も理解させられてきた。また今回も、とネガティブな方向に考え始めたせいで自分の行動すべてが意味のないもののように思えてきてしまった。


 そんな風に考えているうちにいつの間にか砂煙は晴れており、シェルター跡地には大きな戦闘の傷が残されていた。想像していたシェルター800に残されていたような被害とは比にならないほどの傷跡。まさしく壊滅と言える被害だった。


 その場所に立つ一匹のモンスター。いろいろと構えて様子を窺っていたが、綜馬のネガティブな予想は外れて大きめのコボルトか、成体のワーウルフ程度の大きさを持つモンスターだった。しかし、内に秘めている暴力性や残虐性はどのモンスターとも比べようのないほど強大であることが見て取れた。それに冬弥の時と同じように視線を感じたモンスターは音もなく[カンジ]を消滅させた。


 情報は多く集められなかったが、綜馬の作戦が有効的である可能性は高い事を知れた。綜馬が操作して監視するのは危険性が高くそれに精神を強く摩耗する。今回のように消滅によって強制的に意識を戻らされると相当な負荷が掛かった。[カンジ]自身に主導権を渡し、定期的に情報を共有する作戦に変更した。


 これまで集めていた多くの魔石の中で最も魔力含む緑色の魔石を用意する。物資換算をすると、800食分くらいにはなるだろう。普通ならシェルターに消費するであろう緑の魔石を4つ。暴発するまで魔力を込められる自信はないので1つの魔石に精一杯を込めて他の3つは誘爆させる。そのために大量の火薬とガス管を用意する。


 [カンジ]の偵察によって試行錯誤を繰り返す時間は無いことがわかったため、色々と案を考えていたが暴発寸前の魔石を括り付けた4つの魔石を出会い頭に空間魔法で投げ込む事にした。


 用意した火薬類は、空間魔法にしまい脳内でシュミレーターを繰り返す。失敗した時の事も考えて、付近に[朔]を召喚しそこまで逃げられるように道も把握しておく。


 そうこうしている内に、[カンジ]からの視線共有で対象のモンスターが接近していることを告げられる。高鳴る鼓動を深呼吸で整えながら、一歩ずつ慎重に進んでいく。

 綜馬の不安を和らげようとしているのか、浮遊体はぐるっと一回転して見せその行動を褒めて欲しそうに顔まわりを漂っていた。


 一連の行動に綜馬の緊張感はわずかに和らぎ、覚悟を決める。相手は綜馬の存在をおそらく感じ取っているが、脅威として認識していないのだろう。

 何か策を弄する様子も、警戒するような素振りもない。邂逅は一瞬にして終わる。

爆散したモンスターの肉片が周囲に飛び散り、モンスタードロップが現れる。藍色の魔石と黒い光を放つビー玉くらいの玉。見た事のない純度と濃さを持つ魔石と、どこかで見覚えある玉。


 どちらも拾い上げようと手を伸ばし綜馬の手におさまったのは魔石だけだった。黒い玉は前回のダンジョンの時と同じようにスッと綜馬の中に入って溶けた。二度目の『祭壇』スキルが発生した瞬間だった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 表記名[スコル]は綜馬と相対した人狼の魔物で間違いなかった。[カンジ]と、[朔]を手にした時と同じように分身を生み出すとき[スコル]という形で分身を作成できるようになっていた。

 偵察に能力を振り切っている[カンジ]、戦闘面、主に一対一の肉弾戦に特化している[朔]達とは対照的に[スコル]の能力は器用に何でもこなせるオールマイティーな特徴を持っている。


 嗅覚と聴覚は人の数倍以上も鋭敏で、機動力や反射神経も優秀。牙と爪は命を狩るための形をしている。消費魔力は[朔]の半分ほどで完全体を召喚できるためコスパもいい。これなら基本的には[スコル]に頼りたいな、と考えるとどこからか冷たい視線を向けられているような気分に陥った。

 冗談冗談、と何故か自己暗示するように言い訳を考えながら咳払いをした。


ところで、と役目を終えた達成感と役に立てたという充実感に満たされる綜馬は、後回しにしていた問題が目の前を浮遊しているという事実に思わずため息を漏らす。誰がどう見てもこの浮遊体はモンスターでしかない。テイマーの能力があった長月琴の管理するモンスターたちでさえ住居スペースはシェルター外というルールのもと利用されていた。

 

 テイマーという前提のない綜馬がモンスターをシェルターに連れてきたらどんな騒ぎになるのか、想像容易い。せめて長月のように自分の意思を伝えて言う事を聞いてくれればと、浮遊するクラゲを見つめる。

 綜馬に見られて嬉しいのか、クラゲはくるくると回りながら触角を動かす。

「ほんと不思議だよな」と呟きながら、ゆらゆら動く触角に手を触れた。ほんのり冷たい触角は綜馬の体温でじんわりと温度を持ち始めた。

読んでいただきありがとうございます。


いいね、☆☆☆☆☆の評価頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ