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秘密基地

 シェルター801への配達と受け取りを済ませ、代金の魔石と食料品を受け取る。

 今日は白の魔石が20個、橙色の魔石が10個、黄色が1個と、ミネラルウォーター3本、クッキー2袋、パスタ3束、豚肉1キロだった。


 シェルター803の荷物が多かったこともあり、色をつけてくれた報酬の豚肉1キロはまさかの収穫だ。元々農場だった場所が結界に守られた事もあり、シェルター803は畜産をしている珍しいシェルターという事で報酬に肉がもらえる。


 残りはシェルター800への届け物だけになり、一度家に帰る事にした。


「綜馬君ありがとねぇ。」

 

「また来週きますので、よろしくお願いします。」

 

 鞍田は、汗を何度もハンカチで拭きながら綜馬に頭を下げる。シェルター801はここらのシェルターの中で極端に人が少なく基本的には報酬が僅かだが、他のシェルターより広く、田んぼを有しているため年に2回大量のお米をくれる。


 荷量もそこまで多くはないため、綜馬からしてもありがたい取り引き先だ。


 シェルター800を中心とした場合、南側が農耕地、北側が都市部となっているこの辺りでは週に一度、南側が火曜日、北側が金曜日にシェルター間での郵送取り引きを行なっている。


 半強制的にシェルター毎の住む場所を分けられた現在、家族で散り散りになっていたり、友人、恋人会えなかったり、シェルターが協力し合ってダンジョン、ミッション攻略のために連絡を取り合う必要がある。綜馬は元々シェルター800にいたが、能力ヒエラルキーや、様々な事情から嫌気が差し逃げるようにセーフエリアではないシェルター外に住むようになった。


 しかし、電力、水道、ガス、どれも機能していないセーフエリアではモンスターの有無に関わらず現代人が住むのに適していない。それでもシェルターの生活を拒絶した綜馬に手を差し伸べたのは綜馬がシェルター800を出て少しして、別のシェルターからやって来た一輝だった。

 

 彼は、ギルドというダンジョンを攻略するチームを組んでいたが、裏切りに合い行き倒れ間近で助けられた。モンスターと対峙するために鍛えていたという事もあり、元町長の羽間に推薦される形で町長に就いた。


 そんな一輝が綜馬の話を聞き、家を訪ねて来たのがちょうど半年前の事だった。一輝戻ってくるように説得する事はせず、綜馬が社会的な生活を送るためにどう協力出来るか問いかけてきた。

 綜馬はその誘いを何度も断っていたが、ある日一輝の用意した炊き立ての白米と、生姜焼き、大根と豆腐の味噌汁を食べた事で、その考えも変わった。


 温かいご飯や、清潔な空間、その存在の大きさをわからされてしまったのだ。

 シェルターでは、元世界を破滅に追い込んだ張本人であり、モンスター跋扈する世界に書き換えた自称【神】が週に3つ、月に1つミッションを作り、それをクリアする事で様々な報酬が受け取れるようになっていた。

 

 他にも、支援物資や、常時発生しているクエストなどで魔道具や、シェルター内の環境、消耗品、食料品、武器など、文字通りなんでも手に入れる事ができた。


 その分、何もしない、何も出来ない人には何か得る事ができるチャンスは少なく、シェルター800が結界を張れているのも、電気、ガス、水道が通っているのも、安定した食事を取れているのも、能力を持った人間のおかげといえた。

 

 【神】の設定したランク制度に当てはめると、ランクD以上が1人でシェルターを出ても中型モンスターに合わなければ帰って来れるとされているため、ランクDより下の人間は能力ヒエラルキーに苦しめられる生活を送る事になっている。


 例外も存在し、例えばシェルター800にいる長月事は、ランクEに該当するが、希少魔法である召喚魔法を覚えているため、貢献性が高いとみなされ、待遇も良い。

 他にも、先ほど会ったシェルター801の鞍田なんかも、能力は凡庸だが、米農家としていくつかのシェルターに新米を送る事で、立場を保証されている。

 戦闘力の低いシェルターでは、このように人数が多かったり強い存在がいるシェルターに贈り物をする事で、定期的にミッションやクエストを消費にやってきて貰える。


 シェルターはそれぞれ独立した国と呼称する人もいるらしいが、相互間の協力は必要不可欠であると綜馬は感じている。


 それは一輝も考えていた事であり、炊き立ての白米に負けた綜馬は、一輝と話し合い、綜馬の持つ魔法『陰魔法』と、『空間魔法』を使う事で郵便屋を出来るのではないかと思いついた。


 その後、近くのシェルターに一輝と綜馬が宣伝したところ、1日で回れる範囲全てのシェルターが協力的で、参加を申し入れてきた。

 それから綜馬は、シェルターを軸とした郵便を行い、各シェルターからの成功報酬と、シェルター800からの固定報酬をもらい、生活している。

 その中には部屋を照らす魔道具や、結界を張る魔道具など、今では無くてはならないものばかりだ。


 自宅のあるマンションに戻ってきた綜馬は、クロウに餌を用意し「また呼ぶからねと、」頭を撫でた後、部屋に帰った。


 一輝が綜馬に提案するまでの間、多くの者は綜馬がその日暮らしで魔物の肉を食べたり、荒らされ廃墟となっている多くの家から缶詰や食べられるものを探しているのだと思われていた。

 しかし、


 ただいま、と返事を期待しているわけでもないのに、癖で呟く。空間魔法でしまっておいた、荷物や手紙を取り出し、持っていくシェルター毎に仕分け始める。

 速達ではない限り、今日もらった荷物は同じ南側なら来週、北側なら3日後届ける事になる。


 作業を区切りの良いところまで終え、お昼ご飯の準備を始める。もらったばかりの豚肉を使ってポークソテーにでもしようと、元冷蔵庫を開き、空間魔法で拡張された空間から具材を取り出す。せっかくなら付け合わせがあった方がいいなと、綜馬は『秘密基地』の扉を開けた。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 綜馬の空間魔法は基本的に空間の拡張と、空間の短縮を行なっている。郵便物や生活用品などを拡張した空間に入れておき、そこで保存する。時間経過も劣化も起きない代わりに、術者の綜馬が死んだ時、全ての品物がその場に飛び散る。


 何もない場所に自在に部屋を作り、鍵は綜馬だけが持っているという感じだ。

 綜馬がシェルターから出て単独行動が出来たのはこの力と、破滅したあの日に行った綜馬の決断が大きく関係している。


 綜馬の作り出した空間は、時間の経過が起こらない亜空間と、時間経過が生じる異空間の2つに分けられる。その事に気づいた綜馬はシェルター800を抜け、自分の家に畑と倉庫を作り出した。

 大地震と、モンスターの発生により社会が混乱したあの日、綜馬は大型ホームセンターにいて、特に理由はなくホームセンターにある品物ほとんどを空間に入れ込んだ。


 それだけでなく、魔法の使い勝手がわかっていない当時、ありとあらゆる物資を片っ端から集めて回った。

 それにより、綜馬が一生暮らせるだけの食料や物資が集まり、魔法の多用で魔力量と練度も上がるという一石三鳥の出来事が起きていた。


 その後、魔法という分野の研究が進み、強引な利用と多用は、下手すれば死に直結する事を知った。あの時の無茶が今は生きているが、再びやるかと聞かれたら怖くて腰が引けて出来ないだろう。


 単独行動を選んだ綜馬は、異空間を作り出しそこで畑を作った。広大な土地を耕し育てるのは陰魔法で作り出した分身体。オリジナルである自分を元に作り出す場合魔力と気力を多く消費するが、90%綜馬の要素を引き継ぐ。再現性を低くする事によってコストを低くして作成出来るが、命令通りしか動けなかったり、魔法が使えない個体が作られる事も珍しくない。

 

 また、この90%の要素というのは綜馬の能力や、持ち物さえも保持して作り出される事を意味する。


 つまり、綜馬の集めたたくさんの資源は魔力が尽きない限り無尽蔵に増やすことが出来ると言える。この破滅した世界において綜馬の力は喉から出るほど欲しい力である事は確かで、その事を理解している綜馬は、誰にもバレないように常に警戒している。


 綜馬の根源である秘密基地の正体は、無尽蔵の資源と広大な土地を開拓する分身体であった。


 ポークソテーの付け合わせになす、キャベツ、トマトを収穫し、外へ出る。外の世界ではなるべく分身体を使わないように気をつけているため、料理の下拵えが少し面倒に感じるが、この面倒臭さを覚えることもむしろ贅沢だといえる。


 昼食を作り終え、腹を満たした綜馬は、午後の仕事に入る前に少し昼寝をする事にした。

読んでいただきありがとうございます。


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