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プロローグ

見つめの石で投稿済みの26話『無情』までは基本変更がありません。

とりあえず毎日1話〜2話ずつ更新しますのでよろしくお願いします。

 3月のある朝、新生活に期待を膨らませ、それと同時に未知に対する不安が入り混じるこの季節。火寺恵は違和感を覚える。

 この違和感は喉に小骨が刺さっているようなものでも、サイズの違う靴を履いているようなものでもなく、第六感的な感覚だ。

 流れる時間、雲の動き、空気の揺れ、いつもと違う事はわかるが、何が違うのか――


 振動が感じたのはその後すぐ。大きな揺れが襲いかかった。


 人の叫び声か、それとも何かの鳴き声か、聞き慣れない大声で火寺は目を覚ます。倒れたブロック塀、一部倒壊している家も目に映るが、今はその非日常が、ただ珍しい事象の一つでしかなく視線の焦点は緑の肌の子ども、子どもというには不相応なく腕の筋肉と首飾りをしている。

 

 それが5人。蹲る男性を囲んで何か喋っている。話しているという状況のみ理解できるが、話している内容も、手に持つ棍棒のようなものも、乾いた血が張り付いているのも、一切わけがわからない。


 蹲る男性はもぞもぞと、動くいているが声を出すわけでも、その場から逃げるわけでもなく、ただ微かに動くだけ。痙攣しているようにも見える。


 緑の肌の子どもが火寺の視線に気付いたのか、2人ほど振り返る。「あぁ、」ここで理解してしまう。思考を放棄して、そんなわけないと蓋して置きたかったはずなのに。

 彼らは子どもでも、そもそも彼らですらない。化け物だ。モンスターだ。名前は確かゴブリンだっけ。


 妙に冷静に考えられているのは、脳が事実を認めようとせず、無理やり落ち着かされているのか、それともどこかで完全に諦めているのか。

 こちらを見た2匹のゴブリンは、口角をニタァと上げて手に持つ棍棒を火寺に向けて笑っている。周りのゴブリン達も火寺に視線を集め、2匹と同様に笑っている。


 私はここで殺されるんだと、ゴブリンに弄ばれて死んだ男性の遺体から推測する。彼が死んでいたって事くらい最初に見た時気付いていた。広がる血溜まりと、体の一部が砕けていたのだから当然だ。それを、蹲っているとか、小刻みに動いているとか、どうにか気付かない方向に転換させた自分が馬鹿らしくて笑えてくる。


 ニヤけヅラと、ギャーギャー喚く声がすぐそこまでやってくる。世界の破滅。人類の終結を肌で感じる。死に直面した時、クソだと思っていた元の世界が不思議と輝かしく感じる。見たかった映画、食べたかったケーキ、もっと一緒にいたかった恋人。こんな時でも両親を思い浮かべないのは自分らしいなとも思う。


 血生臭い吐息と、獣のような体臭が鼻に当たり、見上げるとゴブリンが笑って覗き込んでいた。遠くからではわからなかったが、鋭い牙には血と髪の毛が絡まっていて、自分もこんなふうにゴブリン達の血肉になるのかと思うと、一度受け入れた死をどうにも拒絶してしまう。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、


 掠れた声となって、悲痛な願いが溢れる。火寺の命乞いとも呼べるその祈りをへし折るかのように、一閃。横たわる火寺の頭スレスレに棍棒を落ちてくる。

 

「ゔぁぁぁぁあ、。」

 

 耳鳴り、キーンという音が脳内を反響する。それと同時に右耳、正しくいうと右側頭部に激痛が走る。もみあげあたりから顎にかけて血が伝って、地面に溢れて落ちる。

 

「ぁぁぁぁぁ、、!」

 

 処理しきれない痛みが声となり弾ける。グギャギャという笑い声が耳鳴りと重なって聞こえてくる。ゴブリン達は遊んでいるんだ。棍棒がアスファルトを簡単に砕いているんだから、人間の脳みそも同じように出来るはずだ。


 恐怖心は痛みと絶望に塗り替えられて、反骨精神も恨む思いも生まれない。早く殺してくれ。そんな気持ちだけが芽生える。

 生存への諦め、死への渇望、これが同時に起こった時、廃人へと変わる。どれだけ嬲られても、先ほどのような痛みを鳴く事も、世界に祈る事もしない。ありのままを受け入れるだけ。


 そんな様子に飽きたのか、笑っていたゴブリン達はそれぞれの棍棒を火寺に向かって打ち付けようと振り上げる。

 あぁ、やっと。喜びが湧き起こる。今の自分はきっと笑ってるんだろう。さぁ、


「グギャァ、」


 目を瞑り。死の衝撃を迎え入れようとした火寺にぶつかる衝撃はゴブリンの棍棒でも、即死に値する一撃でもなかった。ゴブリンの声は消え、最後のあれは断末魔だった事を知る。


「大丈夫かい?お嬢さん。」


 目を開けたそこには死とは程遠い温かな微笑みが火寺を迎え入れていた。


 だった数分で世界は塗り替えられ、人間も一種類の獣に成り下がった。獣達が爪を研ぎ、牙を磨くように、外からやってきた化け物達は自分以外のものを殺すために研鑽する。

『魔法』『スキル』を牙、爪にして、この破滅した世界で人は戦い生き延びる事を誓った。


 終わりのない闘争の中で勝者になるために。

読んでいただきありがとうございます。


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