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SF作家のアキバ事件簿221 赤頭巾ちゃん火をつけて

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第221話「赤頭巾ちゃん火をつけて」。さて、今回は赤頭巾、白雪姫、眠り姫…お伽話のコスプレイヤー達が次々と殺人鬼に襲われます。


やがて捜査線上に浮かぶ、昔のコスプレパーティの記憶。その夜に一体何が起きたのか。コスプレイヤーが囲む謎の舌ベロン男の正体は?


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 満月の夜


満月の夜。東秋葉原にある和泉パークの森の中。赤い頭巾のヒロインが走る。狼の遠吠えを聞きながら。


「カチリ」


火炎放射器の激鉄を起こす音。息を呑むヒロイン。走る。小川に架かる橋を渡る。つまずき転倒スル。


目の前に焔。絶叫。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「その時!迫り来る焔に彼女は思わず悲鳴をあげた!しかし、耐えた。"タワーリングインフェルノ"のロケ中に、この子を産むワケにはいかない…どう?描けた?」

「はい、ミユリさん。しかし…マジで火災パニック映画のロケ中に出産を?」

「待て待て待て!いいや、全然違う。ロケ中の出産も銀行強盗をナンパした話も妄想だょ!」


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良くて常連が沈殿して困ってる。

さらに今宵は…メイド長自ら熱演スル中、若手のライターが何やら打ち込んでる。脚本の口述筆記か?


「テリィ様。少し脚色しました。創作者(クリエイター)の特権ですょねウフフ」

「ミユリさん。ソレは脚本家だけに許される特権だと思うぞ」

「あら、テリィ様。今、描いているのが脚本なのです。コチラが前にお話しした、若手イケメン脚本家のマカス。彼の協力で今、私の"お一人様ミュージカル"の本を描いてもらっています」


カウンター席から立ち上がる若手イケメン。


「貴方が、あの国民的SF作家のテリィたんですね?貴方の大ファンなんです!憧れの書斎で描けるなんて…もう、夢のようだ!」

「僕も(悪)夢のようだ。何しろソコは"僕専用"のカウンター席だからね」

「テリィ様!ココなら傑作が描ける気がしてマカスに座ってもらったの。ダメ?」


だから!ソコは僕の席だw


「モチロン描けるさ。何しろベストセラーを27冊、描いた席だからな」

「素敵です。テリィ様スゴーイ」

「ミユリさん、28冊目を描きたいな…今すぐ」


僕はミユリさんを睨む。


「今、第1幕の仕上げ中なので、も少しだけヲ待ちください。私がシングルマザーとして奮闘してきた話を…」


スマホが鳴る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原にある和泉パーク。回転灯を明滅させてパトカーが押し寄せ小川に架かった橋を警官が走る。


「スピアが鑑識のインターンを始めたと思ったら、今度はミユリさんだ。みんなで僕の世界を侵略してくるw」

「私もそうだった。でも、大丈夫。その内に慣れるわ。私みたいに」

「おいおいおい。僕がラギィに同行スルのは侵略とは違うぜ?そもそも、そんなに侵略してナイし」


ラギィは笑って答えない。彼女は万世橋警察署の敏腕警部だ。彼女は僕のスマホに話しかける。僕のスマホは鑑識を手伝ってくれるルイナと繋がってる。


車椅子の超天才ルイナは彼女のラボにいる。


「ルイナ。状況は?」

「体温や死斑から想定して死亡推定時刻は昨夜10時から0時の間」

「ソレから…コレは火炎放射器か?」


狭い公園の歩道は一面が焼け焦げてる。その中央にコスプレ女の焦げた死体。あのコスプレ、もしや…


「"科学女忍者隊ガッチャウーマン"の"赤雀のジュン"のコスプレか?ソレとほっぺたに爪痕がある。コスプレの深夜撮影中に動物に襲われたとか?」

「かなり足が汚れてるから、真夜中のパークを逃げ回ったコトだけは確かね」

「和泉パークに夜な夜な人を襲うようなモンスターがいる?」


頬の傷跡を覗き込むラギィ。


「襲われて死んだワケじゃない。傷は浅くて致命傷ではなさそうょ…検視結果が出るまでは何とも言えないけど」

「身元は?」

「財布もバックもないの。誰だかわからない」


ラギィとルイナの会話に割って入る。


「あぁそのコトなら…アレが誰かは一目瞭然だ」

「"科学女忍者隊ガッチャウーマン"?」

「まさか。アレは妄想の産物だ。赤いマント。森。爪痕…赤頭巾ちゃんだょ」


赤頭巾も妄想の産物だがな。


「なるほど!じゃ"悪い狼"を指名手配スルわね。ヲタッキーズ、パーク付近で猛獣が脱走してないか問い合わせてみて」

「"悪い狼"ね?」

「貴女まで?」


ヲタッキーズのマリレが当意即妙に応じる。因みに彼女はメイド服だ。何しろココはアキバだからね。


ラギィ警部はミニスカポリス。


「あのコスプレ。彼女を見て姉が読んでくれたグリム童話が頭に浮かんだわ」

「そう。じゃ思い出に浸り終わったら目撃者を探すついでに彼女の名前も調べて…言っとくけど、赤頭巾以外の名前ょ」

「ROG」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。


「お前を食べるためさ、と狼は言って赤頭巾ちゃんを食べてしまいましたとさ…この狼は言葉を話せるから、きっと自白も取れるぞ」

「あら、テリィたん。原作では赤ずきんちゃんが死なないバージョンもアルのょ。猟師に救われて、逆に死ぬのは狼」

「おいおい。彼女は、赤頭巾こそ被ってたけど"科学女忍者隊"だぜ?グリム童話ナンて残酷なだけじゃナイか」


ナゼかムキになるラギィ。


「あのね。お伽話は、森で迷ったり、怪物に食べられたりスル。つまり、未知の脅威への対処法を教えてくれる。だから、現代人にはお伽話が必要なの」

「僕のSFだって、4次元で迷ったり宇宙人に襲われたりスルぞ。しかも、正義の人には必ずハッピーエンドが訪れる」

「テリィたんのSFでは、でしょ?」


話が混乱してきた時、エアリが割り込む。因みに、彼女もメイド服だ。だって、ココはアキバ(以下略)


「ラギィ。被害者はマジで赤頭巾ちゃんだったわ」

「まぁエアリまでテリィたんに洗脳されちゃったの?ミユリ姉様に言いつけるわょ」

「違うの。衣装のタグに"赤頭巾"とあったの」


タグの画像を示すエアリ。溜め息をつくラギィ。


「お伽話コスの専門メーカー?しかし、科学女忍者隊のコスプレに赤頭巾を被って深夜に何処へ行こうとしてたのかしら」

「そりゃ当然"おばあさんの家"だろう」

「テリィたん。彼女の祖母は乙女ロード在住ょ」


エアリの言葉に立ち上がるラギィ。


「身元がわかったの?」

「エイミ・モガン。"blood type BLUE"。やよ、」姉のラズリ・モガンを本部に呼んだわ」

「でかした、ヲタッキーズ」


メイドとミニスカポリスはハイタッチ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の会議室。取調べではナイのでギャレーのパーコレーターで淹れたコーヒーが振る舞われる。


しかし…


「どーゆーコト?妹は、深夜に獰猛なライオンか何かに襲われたってコト?」

「ラズリさん、落ち着いて(ライオンじゃなくて狼だし)ナゼ妹さんが和泉パークにいたかわかりますか?」

「あの激務の妹が深夜のパークにコスプレして行くヒマなんて無かったハズです」


赤頭巾の姉、ラズリ・モガンは憤慨スル。


「忙しい?なんで?」

「妹は弁護士で週に100時間働く人でした」

「サプソ法律事務所だ」


夫のダレンが有名法律事務所の名を口にスル。


「恋人は?昨夜は誰かと一緒でしたか?」

「恋人はいません。一人暮らしでした」

「仕事熱心なの…仕事熱心だった、なのね」


姉は泣き出し、夫は抱き寄せる。


「ダレンさん、エイミさんがコスプレをしてた理由はわかりますか?」

「エイミ…何だ?コレはケープか?」

「"科学女忍者隊"のコスプレの上に赤頭巾ちゃんのコスプレを重ねてマス」


のけぞる姉夫婦。


「確かにエイミの唯一の趣味はコスプレだったが…赤頭巾のコス(プレ)を?」

「そぅよ。妹のコスプレは見ればわかります。全部、国民的SF作家テリィたん系だったから。妹は、赤頭巾ナンて着ないわ」

コスプレパーティ(コスパ)に行く途中だったとか…何か言ってませんでしたか?」


根気よく質問するラギィ。


「知りません。とにかく!"科学女忍者隊"は赤頭巾のコスプレなんか絶対にしない。コレは赤頭巾への冒涜ょ」

「いや、ソレを逝うなら"科学女忍者隊"への冒涜だろう…」

「職場や私生活でのトラブルを妹さんから聞いてませんか?」


首を振る姉。


「聞いてないわ。1週間連絡がなくて」

「ソレは珍しいコト?」

「普段は毎日話してた。仕事が忙しいのかと思ってたけど、きっと何かあったのね。ところで、貴方は国民的SF作家のテリィたんにソックリだけど、まさか…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィのデスクに持参したスタボ(スターボックス珈琲)のグランデカップをコトンと置く。


「わかった…ありがとう。テリィたん」


スマホを切りカップを受け取るラギィ。1口飲む。


「今、エアリからでパーク内で獣が逃げたと言う届け出は1件だけだって。和泉小学校で飼ってるウサギで名前はパン太」

「だとするとパン太が猛獣なのか、謎が深まっただけなのか、どっちかだね。コスプレ好きのスゴ腕の弁護士がどうして赤頭巾を被って殺されたのかな」

「せめてコスプレは科学女忍者隊か赤頭巾か、どっちか1つにして欲しいわ。頭が混乱スル」


ホワイトボードの前で腕組みするラギィ。


「エイミは責任重大な仕事に忙殺されてた。事務所の同僚や姉にも言ってない秘密の気晴らしがあったのカモしれない」

「例えばどんな?」

「お伽話に特化したヲトナのゴッコ遊びのクラブがアル。みんなコスプレして集まルンだ…でも、変な意味のコスプレじゃないぞ。まぁそーゆーのもアルけど」


僕はムフフと思い出し笑い。


「そーゆーの、どーして知ってるの?」

「次回作のためのリサーチさ…しかし、可愛かったなムフフ」

「ミユリ姉様も御一緒なの?」


激しく否定。


「まさか!ソレじゃレストランにお弁当を持参スルよーなモンだ。みんなお伽話のコスプレをして物語を再現スル。エイミは、その最中に事件に巻き込まれたンだ」

「何だかテリィたんポク無い。普通に筋が通った推理なのね。もっとぶっ飛びな妄想はナイの?」

「実は… 正直に逝うと自分でもガッカリだ」


僕は顔をしかめる。エアリに覗き込まれる。


「私達もガッカリだわ。で、エイミの経済状況を調べたの。そしたら、4日前にトマト銀行から現金50万605円を口座から引き出してた」

「50万と605円ってずいぶん中途半端な額だな。

現金だろ?」

「YES。でも、お金は自宅になく、大きな買い物をした形跡もナイわ」


お手上げポーズのエアリ。


「引き出した理由をトマト銀行に聞いてみて」

「ROG」

「お願い…はい、ラギィ」


スマホを切り僕の方を向く。


「超天才ルイナのお呼びだわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の地下検視局。エイミの遺体を載せたストレッチャーの横に立つ僕達とスクラブを着たスピア。


僕のスマホから"リモート鑑識"するルイナの声。


「報告があるけど、聞いたらテリィたんはガッカリするわ。被害者の腕の傷に、この毛が付着してた。彼女のじゃナイ。DNA検査済み」

「そうしたら?」

「狼の毛だったわ」


狼の鳴きマネをスル僕。


「落ち着いて。まだ続きがアルの」

「失礼。どうぞ続けて」

「被害者の傷は全て同じ爪でつけられてる」


え。どーゆーコト?


「同じ爪って…1本足の狼が引っ掻いたとか?」

「狼じゃないのカモ」

「つまり、犯人が狼の仕業に見せかけたのね?だから、傷が1つもナイって?」


ドヤ顔のラギィ。


「犯人が狼の爪を使って引っ掻いただけカモ」

「なら、マジで死因は何だ?」

「注射痕が2つあった。背中だから自分では絶対に打てナイ場所」


毒殺されたのか?


「薬を打たれたの?性的暴行は?」

「ナイわ。因みに、打たれた薬はケタミンとオキシコドンね」

「恐らくケタミンで眠らせてからコスプレさせて…でも、薬の量が足りなくて彼女が目覚めた」


ゾンビかょ。しかし、犯人も驚いたろーな。


「ソレでエイミは必死に逃げた?」

「でも、結局捕まってオキシコドンで殺されたんだと思うな」

「マジかょ」


お伽話の世界もタイヘンだ。


「薬に狼の爪。犯人は、私達にお伽話の設定を連想させるように、周到に犯行を演出してるわ」

「でも、何のために?」

「何のためかより誰の仕業かが問題ね」


考え込むラギィ。


「犯人は、エイミを深夜の公園に呼び出せる人だ」

「つまり、彼女と親しくて信用されてる人?」

「赤頭巾とおばあちゃんみたいに?」


マリレが戻って来る。


「マリレ。エイミの同僚は何か言ってた?」

「エイミは、金曜は私用でPM休を取り、ココ最近妙にイライラしてたらしいわ」

「姉に電話しなくなった時期と一致スル。エイミに何があったかを調べて」


うなずき出て逝くマリレ。入れ違いにエアリ。


「ラギィ。また事件発生」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び和泉パーク。ヒョウタン池の(ほとり)


「あそこだ」


police line don't cross の黄色いテープを潜る。コスプレ女子が銀杏に寄りかかって…絶命しているw


周囲は焼け焦げてる。そして、あのコス(プレ)は…


「テリィたん。彼女が手に持ってるモノを見て」

「毒リンゴだ」

「胸に引っ掻き傷がアルわ」


white as snow, red as blood, black as ebony…


「白雪姫だわ」

「遺体に傷をつけるなんて」

「犯人は"夢の国(ディズニー)"系?」


いいや。あのメタリックなコスプレは"宇宙女刑事ギャバ子"だ。毒リンゴを手に持ってはいるけど。


「犯人は、SFスーツのコスプレイヤーをお伽話風に殺すのが趣味みたいだな」


口をへの字に曲げ、顔を見合わせる僕とラギィ。


第2章 連続殺レイヤー犯


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。駆け込むエアリ。


「ラギィ。被害者の身元がわかった。クテナ・カリス。25才。"blood type BLUE"」

「家族はいるの?」

「夫のノエラがいるわ。本部に呼んで事情を聞く」


うなずくラギィ。因みに、アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子がスーパーヒロインに覚醒する例が多発してるが、彼女達の血は青い。


「1人目の被害者のコトを何か知ってるカモ。このコスプレは、きっと犯人が着せたんだ。コスメーカーを調べれば入手経路もワカルわ」

「名案だわ。お願いね、マリレ」

「あったぞ。"雪の白。血の赤。黒檀の黒"はグリム童話の白雪姫からの引用だ」


駆け出して逝くヲタッキーズと入れ違いに入って来た僕は、図書館で借りた白雪姫の絵本を開いてる。


「(テリィたんが1番役に立たないわw)お伽話を再現してたのは、被害者ではなくて犯人だったのね!」

「YES。ただし、死因は毒入りリンゴじゃない。今回も注射痕がアル」

「ルイナ。死亡時刻は?」


本部のモニターにゴスロリのルイナが映ってる。


「恐らく今朝5時から7時。赤頭巾ちゃんの6時間後とは間隔が短いわね」

連続殺人犯(シリアルキラー)ポクなってきたな」

「テリィたん、被害者は未だ2人ょ。シリアルキラーの呼称は3人以上から。しかも、連続してないと」


ラギィは僕を(たしな)め、唇を噛む。


「でも、3人目は殺させないわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


本部の会議室。白雪姫のコスプレで死んだ妻の画像を見せられ項垂(うなだ)れるノエラ。エアリが尋ねる。


「最後に奥さんと会ったのは?」

「今朝5時前でした。妻がジョギングに行く時です。ハグしてキスして見送ったのが最後。まさか、死ぬナンて」

「走りに行くと知ってた人は他にいますか?」


クールに聞くエアリ。メイド服だがw


「パークに顔見知りがいたカモしれません。雪が降っても休まなかったから」

「その人達とのトラブルは?」

「聞いたコトはありません」


僕は切り口を変える。


「ストーカーの話はしてませんでしたか?」

「何?!そんな奴がいるのか?」

「いいえ。状況からして無差別殺人とは思えナイものですから。奥さんのお仕事は?」


顔を上げる夫。


「画廊を経営してました。父親から継いだ画廊で、彼女が経営してました」

「この人に見覚えは?」

「知りません。誰ですか?」


科学女忍者隊のコスプレをしたエイミの画像を見せるエアリ。直ちに首を横に振るノエラ。


「彼女も被害者ナンです。奥さんの御友人ではありませんか?コスプレ仲間とか」

「私にはわかりません。すみません」

「最近奥さんの言動で、おかしなコトはありませんでしたか?」


ゆっくり考えてから答える。力まない。


「そういえば、先週の金曜のコトですが、ランチの約束をしていたのにスッポかされました。後で電話があって、画廊で急用があったと言いワケされましたが」

「その約束は金曜の1時ですか?」

「YES。そうでした。なぜご存知で?」


僕と顔を見合わせるエアリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


引き続き捜査本部。ホワイトボードの前。


「クテナの言い訳はウソばかり。画廊に聞いたら、金曜はいなかったそうょ」

「つまり、被害者は2人とも全く同じ日時に消えて、恐らく殺されたってコトね。なぜかしら?」

「ソレを今、調べてるトコロょ」


スマホが鳴る。秒でとるエアリ。


「犠牲者2人は友人同士じゃないのか?」

「家族は否定してるし、仕事も住まいも全然違う。2人には全く接点がナイから友人同士ってコトはナイわ」

「やれやれ。共通点は犯人が同じってコトだけか」


不謹慎にも笑うラギィ。


「あと、2人ともSFスーツにお伽話のコスプレで殺されてる。殺人犯のタマタマの思いつきなのか、何か深い意味があるのか」

「おいおいおい。2人とも国民的SF作家を崇拝する(コスプ)レイヤーって点も忘れるな。お伽話はツケタシかもょ?とにかく、あの2人を結ぶモノは…」

「お金ょ」


エアリが割り込んで来る。


「クテナは信託財産を取り崩してた。50万605円を口座から引き落としてる」

「50万605円?エイミも金曜の夜に同じ金額を下ろしてる。とても偶然とは思えナイな」

「ソコが焦点ね。クテナの家族にお金の用途を聞いて。旦那がいたわょね?」


うなずき出掛けて逝くエアリ。入れ違いにマリレ。


「マリレ、何?」

「ラギィ、コレが何か手がかりになるカモ。2人のコス(プレ)だけど、2着とも同じメーカーだった」

「メーカー品?ハンドメイドじゃナイの?ギャバ子と科学女忍者隊なのに?」


首を振るマリレ。


「ソッチじゃなくて、赤頭巾と(白雪姫の)毒リンゴの方ナンだけど」

「あっそ。で、販売ルートは特定出来た?」

「今、通販と店舗のリストを待ってるトコロ。朝までには判明スル予定」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋葉原ヒルズの谷間に登る太陽はオレンジ色だ。電気街を黄昏と同じ色に染めて全てを覚醒して逝く。


「何か違うわ。そのソファはソッチょ…あ、テリィ様。良いトコロへお帰りです。ソファの移動を手伝ってください」

「ミユリさん。そのソファは動かさないでょ」

「明日の晩"お一人様ミュージカル"がハケたら元に戻しますので」


朝帰りで御屋敷(メイドバー)に御帰宅したら、ミユリさんが例のイケメンに指図してソファの引っ越しをしている。


「こんな時のためにミユリさん専用のスタジヲがあれば…あれ?確かこの前、契約したょね?」

「え。いや…あの、より親近感のアル空間こそ舞台として大事だと思えたモノですから…」

「その方が前衛的(アバンギャルド)になります」


イケメンがフォローする。気に入らない。


「そうょね。このソファはコッチの方が映えるわ。私が思うに…」

「おいおいおい。スピア、何でミユリさんを止めてくれなかった?」

「だって、私を舞台監督にスルって言うから」


常連で元カノのスピアはスマシ顔だ。彼女は、元カノの総元締めて、元カノ会の会長をお願いしてる。


「テリィたん、心配しなくても大丈夫。20人から30人集まるだけだし、ソファは終わったら元に戻すわ」

「30人?!そんなに集まるのか?」

「ミユリ姉様の"お一人様ミュージカル"、面白いわよ。ほら」


スピアから"脚本"を見せられる。


「ミユリ姉様の新たな一面を知ったわ。"アキバでリキまず生きる方法"ですって。テリィたんのコトも新発見しちゃった」


僕の眉間に指を当て、肩をなぞって歩き去る。


「ちょっ、ちょっち待て。僕のコト?」

「ココは演技スペースょ。もっと広くしなきゃ」

「ナニナニ?…"テリィ様の天職は、連続殺人犯(シリアルキラー)かSF作家。彼の考えるコトはいつも暗かった"って、何なんだコレ?ヒドいな」


"脚本"の出来に愕然となる。


「あら。少し誇張し過ぎたかしら」

「僕が初仕事を取れた理由は、ミユリさんが…何かスゴいコトが描いてアルけど、枕営業?!」

「でも、きっと実力でも成功出来たハズだと描きましたが」


のたまうイケメンwコイツは死刑だな。


「僕は、実力で成功したンだ。ミユリさんの枕のお陰じゃない!」

「確かに。実際、彼と親しくなったのはテリィ様のデビュー作の出版後でした。でも、この方が面白いでしょ?」

「ミユリさん。ヲタならともかく推しがDD(誰でも大好き)ってシャレにならナイんですけど」


史上最大の溜め息をつく僕。


「少し…コーヒーを飲ませてくれ。脳内の忌々しい景色を消したい」

「テリィ様。明日はラギィも呼んだから、元カノと2人でデート代わりに来てください」

「ソレって…」


コーヒーにブランデーを注ぐ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


エレベーターの扉が開き僕とラギィは本部に入る。


「ミユリ姉様のお誘いを断れば良かったの?」

「YES。だってソレしかナイだろ!」

「なぜそんなに嫌がるの?」


愉快そうなラギィ。


「僕の人生を勝手に脚色してルンだ。僕の人生を自分専用のお伽話みたいに仕立て上げてルンだょ!」

「他人に自分の人生を勝手に語られるのが嫌なのね?なら、私の場合はどーなるの?」

「"宇宙女刑事ギャバ子"とは話が違うぜ」


実は…ギャバ子のモデルはラギィだ。


「あら。どう違うの?」

「僕のSFは、あくまでフィクションだ」

「ミユリ姉様も一緒だわ。ほら、テリィたんもお伽話は万人に必要だっていつも言ってたじゃない。ミユリ姉様が"お一人様ミュージカル"の脚色をしたって良いでしょ?」


明らかにラギィは、この会話を楽しんでるw


「もう耐えられない。話題を変えよう。例の50万605円の謎は解けた?」

「犠牲者2人に近い人達に聞いてみたけど、どうしてそんな額を引き出したのかワカル人は皆無」

「金曜の1時にいた場所は?」


肩をスボめるラギィ。フランス人みたい。


「エイミの方は収穫ナシ。クテナの方は調査中」

「ラギィ!やっと手がかりゲットょ!犠牲者が着てた白雪姫と赤頭巾のコスプレは8日前に発送されてたわ。ネット販売」

「受け取り人は誰?」


身を乗り出すラギィ。重要情報だ。


「ジェミ・アザソ。"秋葉原ヒルズ"に住んでる。ソレと注文は2着じゃなくて3着。3着目のコスプレは…眠り姫!」

「いつか王子様がって奴?何処まで"ネズミの国(ディズニー)"ナンだ…ってか未だ殺す気か?」

「その前に捕まえなきゃ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


短機関銃を構えた特殊部隊が重厚なドアの左右に張り付く。隊員の視線にヲタッキーズがうなずく。


ドアを激しく叩く。


「ジェミ・アザト!万世橋警察署(アキバP.D.)だ。ドアを開けろ!」


応答ナシ。電子錠を強制解錠。突入!


万世橋警察署(アキバP.D.)万世橋警察署(アキバP.D.)!」

「ジェミ・アザト!手を挙げて出て来い!」

「ダイニング、クリア!しかし、コレは…」


異様な部屋だ。壁一面に並ぶフィギュアは全てドール。異様に強調された目が突入隊員を見詰めてる。


「何だ…」

「不気味だな。しかし、連続殺人犯(シリアルキラー)の部屋としては予想通りね。警戒して」

「ヲタッキーズ、来てください」


奥の部屋に飛び込んだ隊員が、短機関銃を構えたまま後退り、エアリとマリレを呼ぶ…銃口を下げる。


ズシン、ズシン、ズシン…


不気味な物音。一斉に短機関銃を構える突入部隊。


「ヲまわりさん!ドアを壊すコト、ナイじゃナイですか!あぁどーしよー」


巨漢ヲタクが現れる。太り過ぎで老人みたいな歩行器をついてるw気の弱そうな顔して精一杯の抗議。


「いや、スミマセン。応答がなかったモノで…あの、ジェミ・アザト…さんを御存知ですか?」

「ノックが聞こえたので応対に出ようと必死に出て来たのに」

「えっと、その…ジェミさんは御在宅ですか?」


慎重に質問を繰り返すエアリ。


「御在宅に決まってるでしょ。私がジェミです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホンモノのヲタッキーズと知り怒りを鎮め…さらにお茶やらスナック菓子やらを盛んに勧めるジェミ。


「ボクのウチにヲタッキーズが来るなんて!」


神妙な顔でソファに座り、ペットボトルから注がれた烏龍茶をすするヲタッキーズ。パンチラに注意w


「とっておきの"札幌ポテト幸せマーガリン味"もあるンだ。食べますか?」

「結構です…えっと他にココに住む人は?」

「同居人はボクとヲタ友(ドール)だけです」


引きこもりの巣だ。壁一面に並ぶ不気味な目をしたドールを見上げ、思わず目を逸らすヲタッキーズ。


「誰か定期的に来る人はいませんか?ヘルパーとか?介護の人とか?」

「ソレと…人間のヲタ友はいませんか?」

「大勢いるょ。全員ネットだけど。リアルにココに来る人は皆無。なぜ?」


だろーな。


「先週何か宅配を受け取りませんでしたか」

「しょっちゅう受け取ってる。この子達は新入りのセーラーベテルギュースとセーラーM-87だ。パンチラが似合う」

「えぇそうですね」


両膝をピタリと合わせるヲタッキーズ。


「夢の国系お伽話のコスは?」

「なにソレ?美味しいの?」

「先週ネットで3着も購入されましたょね?」


鳩が豆鉄砲を食った顔になるジェミ。


「何言ってるの?ボクがコス買ってどうするの?そもそも通販じゃボクに合うサイズなんかナイょ」

「ですよね!じゃヲタクは絶対に注文してないんですね?」

「ボクは無駄遣いはしない。おじいちゃんの遺産で

ヒルズ族としてギリギリの生活をしてる。コスプレの余裕なんてナイょ」


ムダに胸を張る。ヒルズ族、なってみたい。


「ヒルズD棟はコンシェルジュがいないようですが、宅配の荷物はどちらに?」

「郵便受けの横の箱だょ」

「ジェミさん。最近のクレジットカードの請求で身に覚えの無いモノはありませんか?」


ソファのお尻の下から黒い人形を摘み出すエアリ。


「そうヤスヤスとは使わせないさ!最近はヒルズも物騒だからね」


ジャージの前をはだけ、女子なら深い谷間になるだろうブヨブヨの胸からカードを取り出して見せる。


「肌身離さズが正解です」


うなずくヲタッキーズ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。嘆くラギィ。


「宅配業者は、レジデンスD棟は、いつもロビーに置き配だと言ってるわ。受け取りのサインもナシ。ジェミの指示らしい」

「ロビーの中にも外にも監視カメラがナイ。ヒルズもD棟までいくと安全管理がお粗末だな」

「犯人はそこに目をつけて配送先にしてるワケね。カード番号を知っているなら、ジェミの知人カモ」


僕も重大な指摘をスル。


「マルサみたいにゴミを漁ってカード番号知った可能性もアル。とにかく!早くなんとかしないと眠り姫が殺されるぞ」

「ねぇねぇ聞いて。クテナのスマホの履歴を調べてたンだけど、ランチの約束をすっぽかした金曜日、彼女は何をしてたと思う?12時50分にスマホのナビアプリでカフェの場所を調べてたわ」

「そのカフェに行って誰と会ってたかを調べて!」


ヲタッキーズに指示を飛ばしスマホを掴むラギィ。


「眠り姫に備えて和泉パークの警備を強化するように言うわ」

「待て待て待て。次の殺害現場はパークじゃないぞ?お伽話で赤頭巾と白雪姫は森で見つかるけど眠り姫は…」

「え。森じゃないの?」


眠り姫って意外にマイナーだw


「眠り姫は寝室だょ」

「知らなかった。でも、寝室となると可能性のある場所は膨大な数ょ?」

「どうもワカラナイな」


僕は立ち上がり背伸びをスル。


「何がわからないの?」

「犯人の動機だよ。連続殺人犯は、何らかの衝動に駆られている。つまり、犯行にはそれなりの理屈があるハズなんだ」

「続けて」


ホワイトボードの前で腕を組むポーズのラギィ。


「赤頭巾も白雪姫も、ギャバ子も科学女忍者隊も、確かにヒロピンで死にかけるけど、最後は助かる。ところが、我等がシリアルキラー殿は、敢えてハッピーエンドにさせまいと必死だ。ソレに数多くのお伽話や、ベストセラー揃いの僕のSFの中からギャバ子と科学女忍者隊を選び、それぞれコスプレさせて毒リンゴとかのガジェットだけがお伽話だ。全てにきっと理由がアル。だが、ソレがわからない」

「犠牲者が口座から下ろしたお金が絶対関係してると思うわ。全ての殺人の動機はお金だモノ」

「貯金を下ろしたコスプレイヤーを狙った?でも、何でだ?頭巾や林檎の意味は…」


ヒラメくラギィ。


「そうだわ!」

「何だわ?」

「眠り姫も殺された2人も同じ額を引き出してルンだけど…」


全員の視線が僕に集まる。


「秋葉原では、ATMから50万円以上引き出した場合は、全てリアルタイムで銀行から国税庁に報告が上がルンだ。だから、調べればワカル」

「マジ?テリィたん、良く知ってるわね」

「国税庁とはお友達だからな…ベストセラー作家は高額納税者なのさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヒルズの谷間にあるメイドカフェ。


「あ、その子なら来たわよ。私が新しいジーンズにシミを作った日だから覚えてる。70%offで買ったんだけどね。日曜日の昼だったわ」

「彼女は1人で来たの?」

「いいえ。女子3人組。ねぇねぇ貴女達ヲタッキーズでしょ?SNSにUPしてもOK?」


お給仕中なのにはしゃぐメイドに画像を示す。


「SNSはno thank you。この子だった?」

「YES。もしかして犯罪者だったの?金持ちっぽかったけど」

「いいえ。ただ残る1人に危険が迫っていて…急いで特定したいんだけど。クレジットカード情報や名前はわからない?」


メイドはアッサリ可能性を否定スル。


「支払いは現金だった」

「他に誰かいなかった?男子とか」

「いなかった」


食い下がるマリレ。


「3人を見てた人は?」

「そりゃ御屋敷(メイドカフェ)の真ん中で口論してればインバウンドが見るわよ」

「口論?」


話を引き出すエアリ。


「YES。中身を聞きたかったけど、近づくと睨むの。きっと聞かれちゃマズい話をしてたンだわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「国税庁のデータベースでは、50万円を引き出す取引は3429件あったわ。そのうちの2人は赤頭巾と白雪姫だから、コレと男性と、その他モロモロを除くと残ったのはハーパ、ポイド、ウルソの3人ょ」


ラギィは自分のPCに3人の画像を並べる。


「残ったハーパとウルソは50代で被害者像に合わない。ってコトは、シャロ・ポイドで決まりね」


ラギィのスマホが鳴る。エアリからだ。


「ラギィ?犠牲者2人は、もう1人の女子とカフェに来てたわ。きっと連続レイヤー殺しの次のターゲットはこの子ょ。身元は不明だけど特徴は聞き込みした」

「ソレって20代で茶色の髪のカラコン女子?」

「あら?何でわかったの?お友達?」


シャロ・ポイドに電話してた僕は首を振る。


「ダメだ。シャロはスマホに出ない」

「エアリ、彼女の名前はシャロ・ポイド。住所を送るから現場で会いましょ」

「ROG」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


また"秋葉原ヒルズ"だ。今度は少し出世してC棟。音波銃を抜いたラギィが先頭。鍵は空いているw


「誰もいない?」

「寝室は何処だ?」

「キッチン、クリア!」


ラッパ型に開いた音波銃の銃口を下に向け、奥に進むラギィ。僕はフト覗いた部屋で彼女を見つける。


「ラギィ、来てくれ」

「何?テリィたん」

「…3人目だ」


"太陽系海軍シリーズ"最新作の"船コレ"のコスプレでベッドに横たわる美女。深い眠りに落ちている。僕はビニ手(ビニール手袋)した手で彼女の脈をとる。


「救急車を呼んでくれ。未だ生きてる」


第3章 ラストサマー


"宇宙船コレ"の"ラバウルたん"のコスをした眠り姫の傍らでスマホを切り、僕の方を向くラギィ。


「そう。わかったわ。また容体を教えて…病院(外神田ER)からだった。シャロ・ポイドは安定してるけど意識がないって」

「今回も薬はオキシコドンかな」

「YES。でも、間一髪で助かったわ」


僕はフランス人みたいに両肩をスボめる。


「まるでお伽話だ」

「王子様はテリィたん?」

「僕でよければな…しかし、今回はハッピーエンドみたいだ」


迂闊な発言にラギィが噛み付く。


「連続レイヤー殺しを捕まえるまでは、ハッピーエンドとは言えないわ。ココに何か手がかりとなる証拠が残ってると良いンだけど」

「家中探したが50万605円は見つからないわ」

「ありがとう、マリレ。しかし、またまた億ション暮らしのヒルズ族なのね。彼女の仕事は何?」


ラギィはマリレに聞く。


「超高級物件のみを扱う不動産ブローカー。顧客は金持ちばかり」

「犠牲者は、全員アキバで成功した20代の女性だ。彼女達は金曜日に秘密の会合をし、銀行から同じ額を引き出して死んだ」

「何かの共同資金だったのかしら?」


僕は肩をスボめる。


「宝くじを買った形跡はなさそうだ」

「3人を結びつける何かがキットあるハズょ」

「ヤダ。コレを見て」


マリレはベッドサイドのテーブルの引き出しの底から1枚の写真を見つけ出す。

コスプレした3人の犠牲者。手前に口を大きく開け舌をベロンと出してる男w


誰だ?


「エイミ、シャロ、クテナ。それぞれガッチャウーマン、ギャバ子、ラバウルたんのコスプレ。3人揃ってるわ」

「SFスーツの上にお伽話のコスプレだな。おや?日付を見てょ」

「50605?2025年6月5日かしら」


違うだろ?


「50605は50万605円だょ」

「見て。写真の裏側に走り書きだわ」

「え。ナニナニ?」


"who's the guiltist?pay to see another day(最も悪いのは誰?バラされたくなければ金払え)"


「3人は恐喝されてたの?」

「この日に3人を結びつける何かが起きたんだ」

「そのせいで殺されたのね」


最初の疑問に戻る。


「で、この男は誰かしら?」

「連続レイヤー殺しの犯人カモな」

「本人に聞きましょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「例の写真についてた指紋はシャロのだった。しかも、現像されてから2週間ぐらいしか経ってナイ」

「何でワカルの?」

「現像すると、写真の裏に管理コードが印字されるの。何処の店で現像したかもワカル。今、追跡調査中だけど、もしかしたら客まで特定出来ちゃうカモ」


ドヤ顔のマリレ。


「しかし、写真を現像スルなんて…時代の遺物をなぜ今になって?」

「ソレは、きっと写真の撮影日に事件が起きたからカモょ!」

「事件?エアリ、王子様の身元がわかったの?」


エアリが割り込む。コチラもドヤ顔。


「王子の名前はヲエン・トマス。でも、彼は犯人じゃないわ。2025年5月6日に死んでる」


本部のモニターにヲエン・トマスの画像が並ぶ。右に例の舌をベロンと出した奴。左は…死に顔だw


「50605。この写真が撮られた日、ヲエンは深夜のコスパ(コスプレパーティ)に駆り出した。最後の目撃情報は22時45分」

「でも、この舌をベロンと出した写真は23時23分に撮られてるわ。ヲエンの死因は何?」

「内出血およびケタミンとオキシコドンの大量摂取」

「今回の凶器の薬と同じだわ」


うなるラギィ。


「薬は快楽目的で使ったとして、なぜ内出血?」

「検視報告に拠れば、轢き逃げね。遺体が道路脇に放置されていたので、鑑識はそう判断した。目撃者はおらず、事件は未解決のママ」

「映画の"ラストサマー"だ」


僕は指を鳴らす…あれ?失敗w


「"ラストサマー"だと、この舌ベロンの男を囲む3人のコスプレイヤーの中にひき逃げ犯がいる」

「一理あるカモ。調書には、コスプレイヤーは3人とも警察に何の協力もしなかったとアルわ」

「でも、どうして何年も経った今、殺されなきゃいけないの?"闇の裁判所"が捜査妨害罪で死刑を宣告したとか」


何だょその"闇の裁判所"って?


「今になって、その写真を見て一念発起した奴がいるンだな」

「ヲタッキーズ、ヲエンの家族や友人を調べて!」

「ROG」


走り去るヲタッキーズ。ラギィのスマホが鳴る。


「OK。直ぐ行くわ…テリィたん、眠り姫がお目覚めだって」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"。眠り姫のコスプレ美女が目を醒ます。王子様のキスも無いママに…薬が切れたからw


「シャロさん!私は、万世橋警察署のラギィ警部。コチラはテリィたん。いくつか質問しても良いかしら?」

「あ。国民的SF作家の…えぇどうぞ」

「どんな状況で襲われたの?」

「私はスマホで音楽を聴いていたら、突然床に押し倒された!」


怯えた目で僕達を見る。


「犯人を見た?」

「いいえ。でも、薬を打ったって言われたわ。何で私がこんな目に遭うの?」

「あら。心当たりはあるんじゃない?3人ともこの写真を受け取ったでしょ?」


例の舌ベロン男と彼を囲んではしゃぐ3人のコスプレイヤーの写真を示す。息を呑むシャロ・ポイド。


「残念ながらエイミとクテナは助からなかった」

「そんな!私達は…私達は言われた通りにお金を払ったのに!」

「何を知られたの?ヲエン・トマスの身に何が起きたの?話して」


ベッドから半身を起こし、絶望的な眼差しで僕達を見上げるシャロ。やがて、シクシクと泣き出す。


「お伽話がテーマの、ただのコスプレパーティだった。踊って楽しみたかっただけ。でも、ヲエンがくれたケタミンが予想以上に効き過ぎた。クテナがオキシコドンで中和しよう、落ち着くからと言って…気づいたらエイミの車の中で写真を撮ってたわ」

「ヲエンはどうして道路脇に放置されたの?」

「彼は幻覚症状が酷くて、私達につかみかかってきたり、叫んだりして大変だった。だから、車を止めて道に降ろした。てっきり、パーティに戻ると思ったの」


ワーンと大泣きするシャロ。


「そしたら、翌朝のニュースでヲエンが轢き逃げされたって…」

「なぜ警察に行かなかったの?」

「私達は子供だった!怖気づいてしまったの。だって、この秘密を知られたら家の名に傷がつくし、大学も合格が取り消しになってしまうわ!だから、その晩のコトは秘密にしようと誓い、私達は2度と会わない約束をしたの。言い訳はしない。マジ馬鹿な判断だった。でも、私達は何もやってない!」


僕は溜め息をつく。


「でも、やったと思ってる人がいるンだ」

「…お金はどうしたの?」

「指定の場所に置いたわ!紺屋町の金物通りにあるゴミ捨て場。騒ぎにされたくなかったから応じた。お金を払ったのに何で私達を襲うの?!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。ホワイトボードの前。


「ゴミ捨て場の場所は、神田金物通りの交差点。この付近に防犯カメラはないわ。目撃者もナシ」

「実に慎重な犯人だな」

「マジで全くイライラするわ」


唇を噛むラギィ。


「怒った顔、カワイイょ。特に怒りが僕に対してでナイ時はね…」

「ラギィ!ヲエンの家族に怪しいのがいたわ!ヲエンと非常に仲の良かった実の兄貴ょ」

「犠牲者との接点は?」


エアリが駆け込んで来る。


「ソレが大アリなの。見て」

「…ダレン?ラズリの夫のダレン?」

「YES。ヲエンの兄は犠牲者の義兄ってワケ。スゴい偶然だと思わない?」


そりゃ思うでしょ。


「ダレンは、弟の死がコスプレ好きな義理の妹のせいだと知ったワケか」

「いいえ。タマタマ知り合いなだけカモ。ダレンが犯人とは限らないわ。ね?エアリ」

「ソレが…ごめん、ラギィ。証拠がアルの。脅迫文が裏描きされた写真は3枚焼き増しされてたンだけど…」


ラギィは、ナゼかガッカリ顔w


「店員が客を覚えてた?」

「今どきの現像はセルフょ。店内の防犯カメラに写ってた」

「画像をモニターに流すわ」


モニターに流れる画像は…ダレン。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の会議室。ラズリを迎えるヲタッキーズ。


「大急ぎで来たわ!妹のエイミを殺した犯人がわかったの?」

「その前に先ず教えて。ご主人の弟のヲエンとエイミの関係は?」

「みんな同じ高校の友達ょ。因みに私も同窓」


出身は地方の小さな街らしい。本部に駆けつけた姉のラズリにギャレーのコーヒーを薦めて共に着席。


「ソレがエイミと何の関係があるの?ヲエンは昔、不幸な事故で亡くなったのよ?」

「この写真に見覚えは?」

「気持ち悪い。何コレ?知らないわ」


舌ベロン男の写真を恐る恐る手にするラズリ。


「コレはエイミとヲエンね。珍しくSFスーツのコスプレじゃ無いわ。他の2人は誰だか知らない」

「ヲエンが亡くなった日に撮られてルンだけど」

「そうなの?」


ラズリの顔に困惑が広がる。


「実は、ご主人が2週間前に3枚焼き増しをしてる。何処でネガを手に入れたのかな」

「先月、父の屋根裏部屋を掃除してたら、フィルムが入ったカメラを見つけた。確かダレンが現像してみるとか言ってたけど…ねぇ夫はエイミの死とは無関係よね?」

「いや、ソレが…」

 

メイド2人は、顔を見合わせる。


「ねぇ!無関係だって言ってょ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の…取調室。ラズリの夫、ダレンを取り調べスル僕とラギィ。モチロン今回は珈琲は出ない。


「おい、一体何の話だ?まるで犯罪者扱いじゃナイか。俺は恐喝なんてしてない」

「そう。じゃこの写真に覚えは無い?」

「全然ナイぜエヘヘ」


例の舌ベロン男の写真を平然と見下すダレン。


「じゃコレは貴女ではナイと言うの?」

「さぞかし辛かっただろうな。コスプレ好きの義理の妹が実の弟の死に関与してると知った時は」

「神田紺屋町にある貴方のロッカーを調べたら150万1815円の現金があったわ。それは偶然にも50万605円のちょうど3倍ナンですけど」


僕とラギィで詰め寄る。ダレンは焦り出す。


「弟は酔ってたンだ。なのに、コスプレ連中は、弟を置き去りにした。そのせいで、弟は無惨にも死んだ!」

「何で通報しなかったの?」

「警察は、低能な冤罪量産マシンだ。真相究明には全く役に立たない。俺は、コスプレ連中に償わせたかっただけだ。あの金でアニメーター養成の奨学金を設立しようと思ってた。秋葉原のために」


鼻で笑うラギィ。


「殺人を犯しておいて奨学金ですって?笑っちゃうわ。貴方は、コスプレイヤー達を恐喝スルだけでは飽き足らずに、死んだ弟と同じ目に遭わせようとした。お伽話のコスプレをさせて、弟と同じ薬を打ったのょ!」

「 あと眠り姫もな」

「何だと?!」


赤頭巾と白雪姫のコスプレ死体写真を示すラギィ。最後に眠り姫が1枚加わる。


「待て待て待て!殺したのは俺じゃないぞ!」

「弟の死に関連してコスプレイヤー達を恨んでた。しかも、たった今、恐喝を認めたし」

「弁護士を呼びたい」


ラギィは、肩をスボめてみせる。


「でしょうね」


第4章 眠り姫の正体


本部のホワイトボードから次々とメモや画像を剥がすラギィ。もはや、事件は解決したと思っている。


では、教育してやろうw


「今、ダレンに必要なのは弁護士ではなく奇跡ね。

奥さんのラズリの話では、犯行時は家にいなかったそうよ。もー犯人に決まりだわ」

「ソンなモンかな」

「やっとテリィたんの元カノに、この事件にリボンをつけて送検出来るわ」


最高検察庁のミクス次長検事は…僕の元カノだ。その時、ダレンが警官に挟まれ連行されて来る。正面からはラズリ。すれ違いザマ夫に詰め寄るラズリ。


「ダレン!ねぇマジなの?私の目を見てウソだと答えてょ!」

「待て。俺は殺してナイ!」

「ねぇ!妹のエイミを恐喝したの?このウソつき!」


ラズリの剣幕にダレンはタジタジだ。


「違う、聞けよ。俺はコスプレイヤー達に償わせたかっただけだ。誰も殺してない!」

「信じられないわ。貴方以外に誰が殺したの?」

「とにかく!俺は殺してない。信じてくれ」


何と妻に胸をコズかれヨロけるダレンw


「妹を殺すなんて!もう来ないで」

「待てょ。良いから…話せばワカル!」

「問答無用!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


愁嘆場を目の当たりにしてコチラまで落ち込むw


「殺人って残された方が地獄だな」

「YES。全部隠しゴトのせいょ」

「秘密って時限爆弾だ。いずれは爆発スル」


珍しくラギィも言葉少なだ。


「ダレンのしたコトは許されないけど、気持ちは良くワカルわ」

「僕も復讐したくなる気持ちは理解出来る。でも、どうも復讐の方法が腑に落ちないンだ」

「復讐の方法?」


ラギィは、怪訝そうだ。


「復讐の方法って何ソレ?美味しいの?」

「ホラ。恐喝ってさ、間接的な復讐だょ。距離を置いてやる復讐だ。でも、殺人って…直接的だょね?同じ性格のヲタクが両方ヤルかな?」

「ダメょテリィたん。引っかからないで。彼は恐喝を認めるコトで、殺人の容疑から逃れようとしてるだけ。実にシリアルキラーらしい、見事な役者ぶりだわ。そういえば…」


話題ワープ?その前に確認だ。


殺人鬼(シリアルキラー)の話?役者の話?」

「ミユリ姉様のコトだけど」

「ソレならドッチも当てハマるな」


愉快そうに笑うラギィ。


「今からならミユリ姉様の"お一人様ミュージカル"に間に合うって思ったの」

「マジか?…げ。ホントに間に合うな。何でソンなコト思い出すンだょ?赤頭巾ちゃん、また怖い森に足を踏み入れたいのか?」

「大丈夫。"悪い狼"からなら、私が音波銃で守ってあげる」


太腿ホルダーの音波銃をチラ見せ。悩殺だー


「ハレルヤ!ミユリさんを撃つンだね?元カノが今カノを…ヲタク感涙のシチュエーションだ。ありがと」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「わ!ホノヲ?久しぶり…」


入口でバニー衣装でカクテルグラスを配るのはアキバでもNo.級メイドのホノヲ。御屋敷(メイドバー)は…超満員だ!


「驚いたわ。盛大な会なのね」

「ミユリさんって、意外に派手好きだからな」

「とりあえず、乾杯?」


グラスを合わせた向こうでスピアが手招きスル。その目が、何処に逝ってたの?早く来てと訴えてるw


「ちょっと失礼スルょ」


シャンパングラスをラギィに預け僕が書斎に使ってる奥の部屋に入る。今回は楽屋になってるようだ。


「お帰りなさいませ、テリィ様。もういらっしゃれないのかと…」

「間に合って良かった。頑張って」

「姉様。定刻通り2分後にスタートよ」


ミユリさんとハグ。気を利かせて姿を消すスピア。


「テリィ様…このメイド服のリボン、綺麗に結べないのです」

「僕が結ぶょ」

「テリィ様が?リボンなんて結べます?」


毎日、靴紐を結んでるけど。


「あれ?待てょ?結び方が…ヘンだった」

「わかりました、テリィ様。やっぱりステージマネージャーのスピアに頼みます」

「いいや。違うンだ。ミユリさんのじゃなくて犠牲者のだょ」


唇を噛む。


「僕達は犯人を間違えた」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"。シャロの病室に飛び込む。


「わ!ムーンライトセレナーダー?モノホンなの?マジでメイド服を着てるのね…どーゆーコト?犯人はダレンじゃないってコト?」

「YES。彼がしたのは恐喝だけさ」

「じゃ犯人は再び私を襲って来るの?怖いわ、国民的SF作家のテリィたん」


ヤンデレ病人で僕に媚びを売るシャロの前に立ち塞がるアキバ最強のスーパーヒロイン(邪魔だなw)!


「大丈夫。部屋の外には24時間体制で制服警官の警護がつくわ。コスプレじゃ無いリアル警官ょ。だから、犯人逮捕のために協力してくれるかな?」

「良いとも!」

「真犯人を見つけるためには、ヲエンの事件を正確に知る必要がアルわ。質問に答えて」


大きくうなずくシャロ。


「モチロン答えるわ。でも、私が知ってるコトは全部、万世橋のお姐さんに話したけど」

「OK。みんなでエイミの車に乗ってたのね?」

「YES。ムーンライトセレナーダー」


ベッドの上で半身を起こしたママ背筋を伸ばす。


「運転してたのは誰?」

「エイミょなぜ?」

「調べたトコロ、ヲエンが死んだ翌日、エイミは車を修理に持って逝き、バンパーの凹みを治してる。バンパーは何で凹んだのかな?」


僕のタブレットには、ヲタッキーズが調べてくれたメモがUPされてる。


「ホントは何が起きたんだ?あの日、ヲエンは車に戻ろうとして、慌てたエイミが轢いてしまったのではナイのか?」

「どうなの?シャロ」

「…戻るようにエイミに言ったわ。クテナも私も。でも、エイミーは走らせ続けた。ワザと轢いたンじゃナイ。アレは…事故だったのよ。ソレがマジで起きたコト」


シャロの大きく見開かれた瞳から涙がコボれる。


「そうか?じゃコレを見て。それぞれコスプレについてるリボンの結び方に注目してくれ」

「ソレが何?」

「薬を打った後で犯人が結んだモノだ。よーく見ると輪っかが水平になるように結んである。ところが、コッチの眠り姫のコスプレだけ、輪っかが垂直だ。変だろ?何で君のだけ結び方が違う?」


ムーンライトセレナーダーが1歩前に出る。セパレートタイプのメイド服。真冬だが…室内だからな。


「ソレは、3つとも貴女が結んだからでしょ?死体のリボンは上手く結べても、自分のリボンを結ぶのは難しかった」

「違うわ、ムーンライトセレナーダー!私は、シリアルキラーに襲われたの。犠牲者になりかけたのょ!」

「でも、鑑識を買って出たウチの超天才の話では、オキシコドンの量は貴女だけ半分。致死量じゃなかったわ。ラギィ警部とウチの御主人様の到着後に自分で打ったのでしょ?」


涙を流すのも忘れムキになって反論するシャロ。


「何言ってるの?なぜ私がそんなコトをするの?」

「貴女が2人の口封じをしたコトが永遠にバレないように」

「何の話ょムーンライトセレナーダー。ヲタクの味方じゃナイの?」


スーパーヒロインは首を横に振る。


「クテナとエイミは秘密を守ると約束した。でも、最近になって、この舌ベロン男の写真が出回った。貴女は、2人のどちらか、或いは両方が真実を誰かに話すコトを恐れた」

「無理もナイ。バレたら一大事だからな。即、蔵前橋(けいむしょ)逝きで人生は破滅だ。真実を知る2人が君の運命を握ってる」

「あの夜、エイミの車を運転していたのは貴女ね?ヲエンを轢き殺したのは貴女でしょ?」


スーパーヒロインに変身した推しとヤンデレ娘を追い詰める。最高のプレイだ!イメクラみたいだな。


「違うわ。運転してたのはエイミだって何度も言ってるじゃない!」

「じゃナゼ貴女が修理代を出したの?領収証に貴女のサインがアルんだけど」

「…実際に何が起きたかはワカラナイわ!轢き逃げした証拠は無いわ。2人の殺害も証明は不可能ょ!ヲホホ…」


悪の女幹部みたいに高笑いして堂々と開き直る。僕の手招きでヲタッキーズのメイド2人が病室に入る。


「ソレが出来るのょシャロ」

「ジェミ・アザソは貴女の顧客でしょ?彼は何ゴトもクレジットカード払い。そして、貴女は同じカードでコスプレ3着を購入してるわ。あと火炎放射器もね。姉様、お願いします…ダメょテリィたんじゃなくて!」

「失礼いたします、テリィ様…シャロ・ポイド、エイミ・モガンとクテナ・カテスの殺害容疑およびヲエン・トマスの轢き逃げ容疑で身柄を拘束、万世橋警察署に引き渡します」


ムーンライトセレナーダーが立哨の警官を呼ぶ。


「たかがコスプレのリボンの結び方で?そんなバカなコトって…」


頭を抱えるシャロ・ポイド。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今度こそ解散が決まって後片付けが始まった捜査本部。ラギィを囲む僕とヲタッキーズのメイド2人。


「シャロは、悪い狼のように善人を装い、白雪姫の継母みたいに保身のために殺人を犯したンだ」

「ヲエンの死は、何年も経って、やっと真相が解明されたのね」

「でも、その代償として2人が殺され、1人(ダレン)が恐喝罪で起訴された」


でも、ラギィは前向きだ。


「そんな辛い現実の中でも、お伽話のハッピーエンドは希望をくれるわ」

「そっか。ラギィがそう逝うと何だか救われるな」

「じゃまた明日」


ヲタッキーズは、昭和のOLみたいに手のひらをメイド服の前でヒラヒラさせながら去って逝く。


「ラギィ。ミユリさんが僕達のために"お一人様ミュージカル"をアンコール上演してくれるって…どーする?」

「素敵じゃない!さ、森に戻る時間ょ」

「マジかょ何で断らないンだ?」


僕は念を推す。


「音波銃は持ったか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…ソレは人生で1度の大ヲタ活だった。何と私が"秋葉原ブロードウェイ"で"黒メイド"を演じるナンて。でも、その公演は週にソワレ6回、マチネ2回。無理ょ。いくら覚醒したスーパーヒロインでも、ソレだけの舞台はこなせない…」

「ラギィ、安心してくれ。全部ウソだから」

「…フランシス・ベーコンレタスバーガー、かく語りき。"子ある者は運命に人質をとられたも同じ。私が人質なら、我がTO(トップヲタク)のテリィ様は、私の自由を奪う独裁者ょ!」


ちょっちヒドいな、この脚本w


「…私は、栄光に光り輝く未来に背を向けて、役を辞退した。でも、ソレは最高の判断だった。ナゼなら、ソレ以上に素晴らしい役を手に入れたから。コレまで演じた中で、最も素晴らしい役カモしれない。ソレは"テリィ様の推し"と逝う役」

「まぁ!素敵じゃない?」

「う、うん。全くだ」


スピアが唇に指を当てる。


「ご静粛に」

「so sorry」

「…しかし、TO(トップヲタク)の役を与えられたテリィ様も、私と同じだけの熱量で役を全うしてくれたら良かったのに…」


そして、僕は再び深い森を彷徨う。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"お伽話殺人"をテーマに、連続殺人鬼を追うサスペンスものです。ちょうど"ある日、王子様が"を演奏スル機会があり、アメリカンカルチャーを意識しながら、実は苦手なサスペンスものを描きました。なお、週1作ペースを2週に1作ペースに落とし"ていねいな仕事"を心掛けるシリーズとなります。


今回は、ヒロインの"お一人様ミュージカル"などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインバウンドが夜遅くまで溢れる眠らない街と化した秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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