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9 合宿の夜は恋バナと相場決まってる


「やっぱり修学旅行とか合宿の夜といえば恋バナだよね!」


「テンション高いな玉木(たまき)


「だってそうでしょ! この班にはクラスの人気トップ2がいるんだよ」


 一年三組の女子班の一つ。

 メンバーは華紫波弥恵、最上綺更、玉木 (しずく)内山 夢(うちやま ゆめ)の4人班だ。

 玉木はツインテールでお茶目な女の子。内山はボーイッシュな女の子。

 畳みの一室で布団を敷き並べ、4人は話しやすいようにと顔を近づけて女子会のスタートだ。


「前から気になってたんだけど、華紫波さんは槇村くんと付き合ってるの?」


「っ……!?」


「え、その反応マジなのか華紫波?」


 玉木の質問に動揺した弥恵の反応を内山は見逃さなかった。

 こういう機会でしか聞けないからこその踏み込んだ質問。弥恵も恋バナをすると覚悟していたつもりだが、開口一番がこの話題とは思いもしなかったのだ。

 弥恵はちらっと、綺更の様子を窺うが、綺更はじーっと弥恵を見つめているだけだった。


「付き合ってないよ」


 一呼吸おいて冷静にそう答えた。

 付き合っていた……。

 それはもう過去のことだ。現在は恋人同士じゃない。故に嘘は何一つない。


「なんか意外だな。私はてっきり華紫波と槇村は付き合ってるのかと思ってたけど」


「中学が同じで仲はいいからね」


「そんなものなんだね」

 

 玉木は納得した様子で頷いた。


「それじゃあ、最上さんはどうなの?」


「私?」


 玉木は話題を弥恵から綺更へと変えた。

 その時、弥恵は何をおもったのか……。僅かばかりの敵対心のようなものを孕んだ瞳を綺更に向けた。


「最上さんも槇村くんとかなり話してるよね?」


「委員会が一緒だからね。最初に出来た異性の友達は槇村くんなのかも」


「それでどうなのさ? やっぱりいいなぁとか思うわけ?」


「かっこいいよね槇村くん」


「「「っ!?」」」


「頭も良くてスポーツも得意みたいだし、今回の合宿も自分から班長に立候補してたから責任感も強いんだろうなと思うし」


「おいおい、かなり好印象じゃんか!」


「これはもしかすると……!」


「……」


 綺更の慎二に対する印象は恋愛感情を抱いていてもおかしくないものだった。

 実際、慎二の人気はクラス、いや学年の垣根を超えている。しかし、それは綺更も同じ。

 だからこそお似合い。

 そんな二人を想像するだけで、玉木と内山の想像は勝手に膨らんでいく。

 それに反して、弥恵の胸はズキっと傷んだ。

 まるで棘が刺さったようなチクチク感と、雨雲のような不気味なモヤモヤが心を覆う。


「もちろん付き合ってはないよ。まだ話すようになって間もないし」


「そんなこと言って、気はあるんじゃないの? 何なら向こうはあったりして!」


 内山がそう茶化すと、またも弥恵の心は傷んだ。

 この際、綺更の気持ちなんて関係ない。あるのは慎二がどう思っているのかということ。

 もし慎二の気が綺更に向いているのだとしたら……。

 そう考えるだけで悔しくて仕方なかった。


「槇村くんの気持ちは私には分からないからね」


「まぁ下心が透けてるような人じゃないからね槇村くんは。なら、他に良いなと思う人とかいないの?」


「他かぁ……。逆に二人はどうなの?」


「私は部活で忙しいからそういう話は全くない」


「私も観ている分には楽しい勢だから、今回の主役は我ら一年三組のマドンナに是非ともお聞きしたいの!」


「うーん……難しいなぁ。あまり男子と話したことないんだよね」


「なら華紫波さんは?」


「私は……」


「影石くんとか仲良いよね?」


「影石くんとはよく話すけど、恋愛って意味じゃ違うかな」


「贅沢だね天使様方は。なら二人から見てクラスの男子で気になる人とかいないのか?」


「気になるって言われても、どうせ言ったら茶化すつもりなんでしょ?」


「茶化さないから安心してよ最上。でも、最上が気になるって人はさぞかし良い男なんだろうね!」


 ニヤリと、いたずらに笑みを浮かべて内山は言った。

 これが恋バナ、女子トークか。

 そう開き直って素直に綺更も考えてみることにした。

 その時、ぱあっと思い浮かんだ男子がいた。


「夜星くん……」


「「夜星?」」


「うん、夜星くん」


 一瞬静寂が流れた。

 

「夜星ってどんな男子?」


「内山さん、同じクラスの夜星くんだよ! 流石に忘れるのはまずくない?」


「違うって玉木。もちろん知ってる。ただ話したことないからさ」


「そういうことか……。そういう意味じゃ私もないかも」


 どこか腑に落ちた様子で玉木はこくっと頷いた。

 内山と一緒に綺更へと視線を向ける。


「夜星くんって多分めちゃくちゃ頭良いと思うの。私たちの班が優勝できたのも多分彼のおかげだと思うし」


「まじ? そのレベルなの?」


「てっきり最上さんや槇村くんの優等生二人組のおかげだと思ってたけど……」


「夜星くん、試験残り30分の頃には手が止まってたからね。諦めてたら、総合529点もとれてないと思うから」


 六人班で各々が最大100点満点の試験。その合計得点で競った大会。一人が諦め壊滅的な点数を取れば入賞は遠のく。

 

「つまり、余裕過ぎて早く終わってたと?」


「そうなんじゃないかな。本人に聞いたら相性が良かったって言ってたし」


「はぇ……あの試験でそんな事言える人、ウチのクラスにいたんだ……」


 試験は決して簡単ではなかった。

 だからこそ内山は心の声が漏れた。内山は時間ギリギリまで解き、それでも解らないからと飛ばした問題が数問。

 故にあの試験をあっさり解いてしまったというその事実に驚きと感心が隠せなかった。


「私も勉強は頑張ってきたけど、流石に次元が違うなぁって」


「なるほど。それで最上さんにとって、夜星くんは気になる人になったってことだね!」


「類は友を呼ぶってか?」


 賢い人は賢い人に惹かれる。

 そんな感じか? と内山と玉木は納得したようだ。


「前から、ね……」


「え?」


 ボソッと。

 内山と玉木には聞こえない、小さな声で綺更は呟き、その声は確かに弥恵の耳に届いていた。

 前から……その言葉の意味を理解しようと、弥恵の頭はその事ばかりを考えていた。


「そういえば、夜星ってサービスエリアでウチらバスケ部の期待の星、広末美織と仲良さげだったんだよね。もしかして付き合ってんじゃね? って、女バス一年の間でさっき話題に上がってたんだけど……」


「付き合ってないらしいよ」


「え、そうなのか華紫波?」


「カレー作りの時に言ってた」


「へー、華紫波は夜星と話すんだな。あまりそういうところ見たことないけど」


「火起こし仲間だからね。資材を取りに行くときに聞いたんだ」


 弥恵にとって、凛月はよく話すクラスメイトの一人だが、思い返せば人前で堂々と話したことはないかもしれない。

 まるで隠れて付き合ってるカップルのようだなと頭に過ったが、実際に少し前まで隠れて付き合っていた事実も同時に思い出し、ズキっと胸が痛んだ。


「話してみて夜星くんは優しいの?」


「……うん」


 変な間が空いた。

 即答出来なかった理由は言わずもがな。凛月と弥恵の会話内容を思い出してみると特別優しいと思えるものは――。


「うん、優しいかも」


 ふと気付いた。

 だから今度は自信を持って頷いた。

 その弥恵の様子を、3人はどこか微笑ましく見つめていた。



 ◇



 弥恵が凛月と一緒に薪を回収に行った時、弥恵の班の薪の上には虫がいた。

 虫が苦手な人は少なくないだろう、弥恵もその内の一人だ。

 例え虫を追い払ったとしても、虫がついていた物を触るのも敬遠するほど苦手意識が強い。

 そんな中、凛月は弥恵の班の薪を手に取った。何をしているのか理解が出来なかった。

 凛月に尋ねると、どっちも同じだろと一蹴されたが、考えれば分かることだった。


「合宿、終わるの早いね」


 翌日。

 帰るまでの空き時間でたまたま二人きりになった凛月に弥恵はそう言った。


「早かったな。けど、早いって感じるのは楽しかったからなんだろうな」


「へー、夜星くんもそう感じることあるんだ」


「楽しいものは楽しいだろ? もしかして俺って屁理屈な野郎に見えてる?」


「少なくとも性格は悪いじゃん? って、昨日も言ったよね」


「俺のどこが性格悪いのやら……」


 凛月は良くも悪くもストレートに発言する。

 時にはそれが相手を傷付ける事もあるだろう。弥恵は慎二に振られたあの日、凛月に言われた言葉で少なからず傷付いた部分もあった。

 それと同時に前を向く決意も出来たわけだが……。


「まあ、優しい部分もあるよね」


「お、よく分かってるじゃん」


 こういうところはウザいけど……。

 そう言いそうになったが、グッと堪えた。


「昨日、私たちの班の薪を持っていたのは、私が虫嫌いって察してくれたからなんでしょ?」


 その優しさに気付いたのは遅かった。

 しかし気付いたからこそお礼を言おうと思った。


「どうせ虫が乗ってたから触りたくないとか、ああだこうだピーピー騒ぐだろ? そうなると面倒だしね」


「ぬっ! 言い方! もっとキザに振る舞えないの?」


「昨日の自分を振り返ってみろよ。虫がいただけであんなうるさかったんだぜ?」


「くっ!?」


 弥恵は顔を赤くした。

 それはもう真っ赤なもので、タコにも劣らないほどだ。

 しかし焦るな、慌てるな。

 そう弥恵は心に言い聞かせ、冷静になった。

 もしかすると女子に感謝されて照れてるだけかもしれない。

 いや、きっとそうだ!

 そう考えて凛月を見つめ――。


「あ、ないわ……」


 あり得ないと察した。


「何の話?」


 冷めた目で問う凛月。

 この目のどこに照れている要素があろうか?


「やっぱり性格悪いよ君」


「なんで?」


 弥恵はふん、とそっぽを向いて歩き去った。


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