8 勉強大会ってより、ただの試験じゃね?
カレー作りは難なく終わった。
カレーってのは作った直後よりも煮込んだ方が美味いのは言わずもがなだが、なかなか美味しかったと思う。
ジャガイモやニンジンの切った大きさや茹で時間がちょうど良かったのか、固くならずふっくらしていて実に美味しかった。
そんな楽しい思い出の日中とは打って変わって、俺たちは山奥のホテルに到着した。
冥海と強い繋がりのあるホテルらしく、全12階の構造で10階を溟海高校が利用する。
それぞれが部屋に荷物を預け、順番に入浴を済ませると集められたのは広い会議室。天井こそ特別高いわけではないが、面積は学校の体育館くらいありそうだ。
カレー作りの班ごとに座り、学校側が用意した問題冊子が数枚裏面で並べられていた。
「これより勉強合宿恒例、班別勉強大会を行う。ルールは各自が解き、採点結果をグループで集計し、総合得点が一番高い班の優勝とする」
ルールはいたってシンプル。
要するにチームで各自が満点を取れば簡単に優勝できるわけだ。もちろんそんな簡単なはずはないのだが……。
「時間は120分。問題数は多いが最後まで集中を切らさず、分からない問題は後回しにして出来るだけ最後まで目を通すように」
簡単な問題はあるんだろうか?
「それでは始め!」
その合図と同時に、一斉に紙が捲られる音が会議室に響いた。カチカチとシャーペンをノックする音や、カタカタと字を書く音が響いてくる。
まずは名前からだよな、と俺は丁寧に名前を書いていく。
問題冊子は全25ページ。
パラパラと全体に目を通せば、左から英語、数学、そして右のページから開くと国語という三教科ミックスの問題冊子となっていた。
国語から解くのが無難か。
集中力が切れる後半よりも、頭が冴えてる前半で論説文を解いた方が楽だろうし。
そう考えて俺は国語を早めに片付ける事ができた。
次に手を出したのは英語。これも長文があるから早めに片付けたいところだが、案外時間はかからず、残すは数学だけとなった。
時間を確認すればまだ半分は残ってる。
集中力も切れてない。むしろ国語と英語のおかげで脳が冴えた。
最後に最も得意な数学を持ってきて正解だった。
問題量は多く難易度は確かに高い。しかし、20分程度で数学は解き終えることが出来た。
残すは40分。
見直しをしてゆっくり脳を休めようじゃないか……。
◇
勉強大会というなの試験が終わった。
採点は班ごとに別の班と答案用紙を交換して採点。時間にしておよそ一時間ほどかけて全グループの採点が終了した。
採点された答案用紙が戻ってくることはなく、そのまま先生方に提出。
これから発表されるのは総合点が上位の班のみ。呼ばれなければそれまでということだ。
「みんなお疲れ。今回のテストは中学3年間の総復習ではあるが、難易度はかなり高かったと思う。しかし、高校で習う知識も中学時代の基礎があってこそ。今回手応えがなかったと感じた者は復習をする良い機会になるかもしれない」
学年主任が労いの言葉をかけつつ、勉強するモチベーションを高める言葉を紡いでいく。
そして長々と話し終えたところで、ランキングの集計が終わったようだ。
「それでは5位から発表する」
会場に緊張が走った。
やるからには上位に入賞したい。みんなそう思って全力で解いたはずだ。
何せ冥海は名門。そこに通う学生には大なり小なり勉強に対するプライドってのがあるはずだ。
それに加え、個人戦ではなく団体戦。自分だけで完結せず、自分の結果がチームに影響を与えるという条件下では誰もが本気を出さざるを得ない。
故に、本気を出した結果入賞したのかどうか、誰もが気になって仕方ない様子だ。
「総合494点。一年一組のD班」
5位が発表されると、一年一組は一斉に盛り上がった。同じクラスが受賞したというだけでクラス一丸となって盛り上がる。
その騒がしさはまるで全国を制した運動部のようだった。
「続いて4位。総合506点――」
発表の瞬間は毎回静寂になる。
そしていざ発表されれば該当した班とクラスは非常に盛り上がる。
そうして3位、2位と順に発表され、残すは1位のみ。
「今回、栄えある一位に輝いたのは、一年三組のF班」
学年主任がそう告げた時、俺たちのクラスは他クラス同様、一斉に盛り上がりを見せた。
何より、F班は俺が所属する班。
つまり。
「私らすごくね!」
「一位とかまじ!?」
村山と矢田はびっくり仰天。
「おぉ、すげえな」
槇村は震えた声でそう言い、宮下と最上も驚きを隠せていないのか、僅かに体が奮えている。
「それでは呼ばれた班は前に出てきてくれ」
大会なんだから授賞式があって当然か。まさか一位になるとは思っていなかったから前に出る心の準備がまだ出来てない。
しかし時間は待ってくれない。
俺の班のメンバーは一斉に立ち上がって前へと歩いて行く。
置いてかれるわけにはいくまいと、俺も席を立って前へ向かう。
「お前が一位かよ」
「朔楽……もしかして二位の班ってお前のとこ?」
「ああ」
どうやら朔楽たちのクラスの班が二位だったらしい。
スポーツ推薦の朔楽だが、頭はめちゃくちゃいい。それこそ地元の公立中学じゃ学年でもトップ5だったし。
イケメンでスポーツ万能。それで秀才ときた。唯一の弱点は狼みたくコミュニケーションが難しいところだが、どうやら部活の方じゃ先輩たちに可愛がられているらしい。
あ、嫌われて先輩の洗礼を受けているとかじゃなくて、ちゃんと良い意味で先輩たちのお気に入り。
このむすっとした態度が末っ子みたいで可愛いとのことだ。
「それでは5位の一年一組、D班前へ」
5位から順番に表彰される流れ。そうなると俺たちは一番最後だ。
端に立って表彰される班を見届けている。
「ねぇ夜星くん」
よその班を見届けていると、隣からこそこそ声で最上が俺の名前を呼んだ。
「もしかして簡単だった?」
「どうして?」
「残り30分くらいの時、夜星くんの様子を窺ったらなんか退屈そうにしてたから」
残り30分といえば、ささっと見直しを済ませて確かに退屈していた時だ。
「もしかしたら諦めてたのかなってその時は思ったんだけど、夜星くんが諦めてたとしたら多分一位は取れてないと思うの。だから夜星くんにとっては簡単すぎてすぐに終わったんじゃないかなって考えてみたんだけど?」
よく見てるもんだな。
「簡単ってことはなかった。ただ相性が良かったのかもしれない。今日は脳みそが冴えてたような気もするし。多分それだけ」
「やっぱり自信があるんだね。夜星くんって頭良いし」
「まぁ冥海に入学してるし賢いとは思ってる。けど勉強は好きってわけじゃないし、義務感のようなものでやってるから、地頭が良いわけではないと思う」
「多分それ賢い人の意見だよ。よく客観視出来てると思うし」
「客観視って……最上から見た俺と、今の俺の自己評価は解釈一致ってことか?」
「うん」
こくっとあざとく頷く最上。
流石は人気なだけあってその可愛さは凄まじい。
ただ、最上とは高校からのクラスメイトだし、まともに話したのも今日が初めてかもしれない。
まるで俺の性格を知っているような発言にも聞こえたが、もしかすると他人を観察するのが得意なのかもしれないな。
試験中も俺の様子を窺っていたようだし。
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