42 喜ぶ裏で悲しむ誰か
期末試験が終わった。
セットのテスト返却も済んでいる。中間試験同様に素点表が配られ、そこにクラス順位が記載されていた。
前回と同様に俺は一位だった。
「陛下!」
「誰が陛下だっ」
「今回もどうせ一位だったんでしょ?」
「どうせってなんだよ……まあ、一位だったけどさ」
「私一つ順位上がって五位だったんだよね。凄くない?」
「凄いな」
「本当に思ってる?」
「思ってるよ」
「なんか嘘くさい……」
なにこいつ?
自分から胸を張って自慢してきて、それにコメントしたらこの態度……。
「犬だな……」
「何の話?」
ウチの犬そっくりだと思った。
おやつやミルクを上げる時は尻尾を振ってくるくせに、それ以外では攻撃的。
ツンデレとも言えるだろうが、華紫波のそれはデレがないしツンもイマイチ。
やっぱりシベリアンハスキーだわ。
「今回は五位、つまり次回は四位。そしてその次は……ふふ、あと四回あれば夜星くんを超えて私がクラス一位になる! 君を抜く日は近いね!」
「一年生の間にあと何回定期試験があるか知ってるか?」
「三回でしょ? バカにしないでもらえる?」
「来年同じクラスとは限らないぞ?」
「それも知ってるけど?」
この子は……ダメだ、憐れんじゃだめだ俺!
この子なりに目標を掲げているんだ。ツッコミを入れるのは野暮ってもんだ。
クラス内順位は確かに高いが、どうしてもバカ丸出しな一面がある。
けど、それもこの子の魅力なんだと思う。
温かい目で見守ろう。
「ん? 何その目?」
首を傾げて俺の目を見つめ返す華紫波。
分からなくていいんだ。
そんな華紫波でも、俺は温かい目で見守るから。
「なんかよく分かんないけど、いつもの冷めた目じゃなければ何でもいいや」
「いつものって……普段から目つきが悪くて悪かったな」
「時々人を見下したような目をするでしょ? 夜星くんを観察してて、私に向ける頻度が一番多いことに気付いちゃったんだよね」
「へー、凄えじゃん」
「よく見てるでしょ?」
「さぁ、自覚はないから何とも言えんけど」
「自覚あったら怖いよ逆に。私めちゃくちゃ嫌われてることになるし」
「別に華紫波を嫌いって思ったことはないから安心してくれ。嫌いだったらこうして話さないしね」
「まあ私自身、他人に嫌われないタイプの人間だって自覚してるから良いんだけどね」
「……」
「っ……! 出た! 出たよその目!」
おぉ……この感情の時の目か。
ちなみに、「何言ってんだこいつ?」って感情を抱いてました。
今度鏡で自分を見てみたいな。
「そういえば、さっき先輩に紙を渡してたけど、先輩に知り合いなんていたんだね」
坂田先輩の事を言っているんだろうな。
例の演説用紙を渡したんだ。
「もしかしてラブレターだったりして……」
ニヤリと笑みを浮かべる。
「お花畑かお前の頭は……」
今どき小学生でもそんなイジリはしないだろう。時代が時代なだけにラブレターよりもトークアプリでのメッセージが盛んな気がするし。
「お花畑と言えば、最近慎二と前みたく話すようになったんだよね」
「へー、良かったじゃん」
どこにお花畑と言えば要素があるんだろう?
あえて聞くことはしないけど。
「流石に時間が経てば自然と上手くやれるようにはなったんだけどさ、慎二のやつ、付き合ってた頃みたいに私に絡んでくるんだよね」
「嬉しいんだろ?」
「そうなんだけど……なんか久々な感じというか、ちょっと慣れなくて」
もじもじとした様子で体を捻らせ、乙女のような反応をする華紫波。
照れ隠しのつもりだろうけど、内心嬉しいんだという感情がダダ漏れだ。
「何か良いことでもあったんだろうな……」
何も知らない。
そう装って俺は言った。
良いことなんてあるはずがない。少なくとも恋愛という面においては振られた後だ。
それを華紫波が知っているのか俺には知る由がない。
けれど、この反応を見るに多分知らない。知らないからこそ、動揺しつつも嬉しくて仕方ないんだろうな。
「慎二、最近は中学の頃の同級生とも頻繁に連絡をとってるみたいで、私にもその話が回ってくるんだよね」
「珍しいことなのか?」
「入学した頃は連絡を取ってたみたいだけど、私と別れたあたりから連絡もしなくなったみたいで……。集まることもなくなってさ」
「もう、自分探しの旅は終わったのかもな」
「え……?」
「華紫波と別れた理由だよ。高校に入って自分を見つめ直す時間が欲しいって言ってただろ?」
「よく覚えてるね……」
「特等席で見てたからな」
「っ……!?」
少し揶揄うとぷくーと頬を膨らませる華紫波。
「倉形さん以外にも、別れた事は伝えてあったのか?」
「もちろんね。だから連絡が減ったんだと思うよ。私と慎二を同時に誘うのは気まずいだろうし、気を遣ってくれてたのかも」
「槇村から連絡したなら、前みたいにみんなで集まれるんじゃないか?」
「そうかもね。なんだかんだでそれが嬉しいのかも」
「良かったな。自分探しの旅が終わったなら、また華紫波と付き合うかもしれないし」
「そうかなぁ?」
「何か不安でも?」
「綺更ちゃんの事は良いのかなって……」
綺更ちゃん……。
いつの間にか名前で呼ぶ仲になっていたらしい。
少し前までは恋敵として敵情視察をしていたくらいなのに。
「華紫波の勘違いだったんじゃねえの?」
「いや、あれは間違いなく綺更ちゃんに惚れ込んでたよ」
「華紫波にしか分からないってやつか……。けど、前みたく話せるようになったのなら、もう一度チャンスが回ってきたって事だろ」
「そうだと……いいな」
やっぱり照れくさいのか、俺に表情を見せまいと俯いて顔を隠した。
「一度は付き合ってたわけだし、復縁は簡単だろ」
「そんな単純じゃないよ……。向こうは私に気を遣ってるだろうし」
「だからだよ。華紫波の様子を窺ってるなら、こっちからグイグイいけばいい。主導権は握ったようなもんだろ」
最上に振られた。
そのタイミングで華紫波と話す機会が増えた。
つまりはそういうことだろ。
「私、ちょっと頑張ってみようかなって思う!」
「おう! 良い報告を待ってるぞ」
「っ……! 任せてよ!」
◇
「へー、今回はクラス三位だったのかよ」
放課後。
昇降口で部活に向かう途中の朔楽と試験の結果を話していると、朔楽はクラスで三位だった事を知った。
ちなみに前回は五位。
部活動に所属しながら、テスト前は遊んでいる割に好順位。しかも今回はさらに上。
「美織が付きっきりだったからな」
そう言って舌打ちをする朔楽。
テストの結果よりも、妹の監視が鬱陶しかったようだ。
それでも、美織のおかげで更に成績を伸ばせたのなら良かったではないか。
結果さえ出せば二人の父親は満足だからな。
「夜星くん……」
最上だ。
「どうした?」
「今日時間ある?」
「今日これからバイト」
「……そっか」
「最上は部活じゃないの?」
「今日は休む事にしたの……。顧問には伝えてあるんだけど、広末くんからみんなに伝えてもらってもいい?」
「……分かった」
こいつ絶対言う気ないだろ。
「とりあえず槇村あたりに伝えておけよ。そしたら槇村から伝わっていくだろうし」
「そうする」
俺の提案にピクッと反応した当たり、やっぱり伝える気がなかったんだろうなと思う。
大勢に話しかけるのが好きじゃないからね朔楽は。けど影響力と発言力がある奴に伝えておけば後は勝手に広めてくれる。
その点、槇村は本当に頼りになるポジションにいるよな。
俺と最上は部活に向かった朔楽の背中を見送り、二人で校門を目指して歩いた。
「何かあったのか?」
「大したことじゃないんだけど……順位が少し下がっちゃって」
華紫波が一つ順位を上げた分、誰かが下がったのは当たり前のことだ。
それが最上だったというだけ。
「どうしようかなって思って……」
落ち込んでいるのがひしひしと伝わってくる。とは言え慰めの言葉はなかなか思い浮かばない。
言い訳したってテストの結果は変わらない。
「次で挽回すればいいんじゃないか? 校外模試もあることだしさ」
「そ、そうだよね……。今更期末試験の結果は変わらないもんね」
「最上……?」
どこか焦った様子で、無理やり自分を納得させているかのように最上はそう言った。
「夜星くんが良ければ、模試の勉強付き合ってくれない?」
「試験期間の間に入れられなかった分シフトを入れたから、都合の良い日付があればだけど……」
「忙しいの……?」
上目違い。
強すぎてやばい。
何が強いのか、何がやばいのか説明は出来ないけど、とにかく凄い。
「暇な時があったら連絡するよ」
「ありがとう」
少しだけ表情の硬さが取れたかな?
「それじゃ、バイト頑張ってね」
そう言って最上はひと足に先に帰って行った。駅までは一緒なんだからこのまま一緒に向かえばよかったのに……。
「はっ……!?」
俺と二人が嫌ってこと?
ワイ泣いてまうぞ!
ソフトバンクファンの皆様、おめでとうございます!
作者は凛月と同じく横浜ファンなので心境が不安定ですが、最後の攻撃は声を出して応援していましたw
という、作者のプライベート話でしたがスルーしていただいて構いません!
読んでいただきありがとうございました!




