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3 バイト先にクラスメイトが来るという緊急事態!(大袈裟)


 俺が通うのは私立冥海(めいかい)大学付属高校。幼稚園、小学校、中学校、高校……そしてもちろん大学まで繋がっている所謂名門校。

 そんな高校に今年の春から入学したピチピチの一年生。

 地元の中学から入学したのは俺を含めて三人。とはいえクラスは違う。

 入学して約一ヶ月が経つというのに、俺は教室の陰に潜むように空気と化していた。

 別に友達がいないわけじゃない。中学の頃はめっちゃいたし? 

 ただ高校に入ってからは、同中以外の連中と上手く話せてないだけというか……。

 

「それじゃあ、ゴールデンウィークの勉強合宿に備えて、前回分けた班で集まってちょうだい」


 午後のホームルーム。2限続きのこのホームルームでは冥海高校の伝統、ゴールデンウィークの勉強合宿に向けて班で決め事をしなきゃならないらしい。

 とは言え、一泊二日で、初日の昼にカレー作り。そんで夜は勉強大会という、勉強合宿とは言いつつも、新クラスの仲を深めようという意図がある合宿らしい。

 俺は以前決めた班で集まり、席を囲って向かい合うように座った。

 メンバーは槇村、宮下(みやした)村山(むらやま)最上(もがみ)矢田(やだ)、そして俺こと夜星。

 名前の通り、出席番号順で決まった班だ。


「決めなきゃいけないのは班長と副班長。それとカレー作りの細かい役割分担だな」


 さすがはクラスの中心槇村。

 率先してグループを引っ張る意識が見受けられる。俺たちの班は男が俺、槇村、宮下で、それ以外は女子という、男女3人ずつのバランスのいいグループ。

 思春期特有の異性を意識してなかなか発言ができない中、グループを引っ張れる存在がいてくれるのはありがたい。

 別に俺が思春期特有の一例ってわけではない。断じてない……うん。


「班長ってなんか小学生みたいだよね」


「それウチも思った! しかも副班長って」


 村山と矢田はゲラゲラと笑う。

 確かに二人の言っている事は理解できるが、グループを作ってリーダーを決めるのは社会に出てもそうだろう。

 俺の姉貴も大学とかのグループワークでしょっちゅう役割決めをするとか言ってたし。


「班長やりたい奴がいないなら、俺がやろうか?」


「ほんと! 槇村くんがやってくれるとめっちゃありがたいんだけど!」


「ね! 普通に似合ってるし」


 村山と矢田は班長とかやりたくないタイプの人間。だからこそ、槇村が名乗り出れば全力で賛成する。

 ちな、俺も班長とかやりたくないから助かる。


「なら、私は副班長をやろうかな?」


 ウチのグループのもう一人の女子、最上がそう言った。


「ありがとう最上。おかげで班長と副班長は早く決まったよ」


「槇村くんこそ班長を率先してくれてありがとう」


 キラーンと輝きを放つ美男美女。

 ウチのクラスでは槇村と華紫波が入学早々から騒がれていたのと同時に、この最上 綺更(きさら)というブロンドの髪を背中まで伸ばした絶世の美女の話題も尽きなかった。

 一見ハーフのように見えるが、噂によるとクォーターらしく、肌の白さが日本人離れしているのが特徴。

 

「そんじゃ、あとはカレー作りの役割分担だな。みんなやりたい役割とかあるか?」


「俺は野菜を切りたい」


「ウチもそれがいい」


「私も」


 宮下が意見すると続くように村山と矢田が名乗り出た。

 こうなると余った俺は……。


「夜星はどうする?」


「俺は火起こしをやるよ」


 必然的に余った役割を選ぶしかないわけだ。

 3人が名乗り出た後に俺も野菜を切りたいとは言えないし、言いたくもない。

 こいうのは先に意見したもの勝ち。

 相場はそう決まってんのよ。

 と、俺の余ったところに入るという便利屋ムーブをかましたことで、役割決めもすぐに終わったわけだ。



 ◇



「ゴールデンウィークはシフト入れないのよね?」


「はい。学校の行事で忙しくて」


「勉強合宿なんて偉いわね。アタシなんて学生時代は一切勉強なんてしなかったもの」


「でも今じゃ立派な店を持ってるじゃないですか? そっちの方が全然凄いと思うんですけど」


「社会に出て痛い目を見て、それで社会に揉まれて……心を入れ替えた35歳の頃、一生懸命働いて今に至ったわ。結局それもたくさん勉強したから今のアタシがあるのよ」


 放課後。

 俺はバイトの休暇中、店長とシフト表を見ながらそんな他愛のない話をしていた。

 勉強合宿があるためゴールデンウィークは出られない。一泊二日のゴールデンウィークだが、ゴールデンウィーク課題もあるので暇はないんだ。


「それにしても、夜星ちゃんには助かってるわ。まだ入って一ヶ月なのに仕事を覚えるのは早いし、たくさんシフトを入れてくれるし」


「部活に入ってないですからね。それに仕事を覚えるのも毎日のようにシフトを入れてれば覚えますって」


「立派な即戦力なんだから謙遜することないのに。けど、そんなに稼いで何か欲しいものでもあるの?」


「特にないです。強いて言うなら、大学生になったら独り暮らしをしたいので、その貯金ですかね?」


「本当に偉いわね。そんな未来を見据えてるなんて立派にも程があるわよ!」


「褒められることじゃないですよ。独り暮らしとか高校生の憧れですしね」


 きっと大学はそのまま冥海大学に進学するだろう。そのために高校は冥海を選んだんだ。

 家から近くてレベルが高い。そして有名大学の付属高校。条件としては最高だった。


「それじゃあ、アタシは先に休憩上がるわね」


 店長はひと足先に休憩を終えた。本来なら休憩なんて取らないけど、今日はやけに暇だからな。

 俺も5分ほどの休憩を終えて仕事に戻った。

 客席には誰もいない。こんな事は珍しく、俺がバイトに入ってから初めての事だ。そんなわけで暇な俺はできる仕事を探すわけだが、食器洗いも机の整理も完璧。

 テラスは先輩が掃除してるし、残すは店内の床掃除とかになってくるわけだ。

 腰に負担がかかるからあんまり好きな仕事じゃないけど、突っ立ってるだけなのは給料泥棒だし、やりますか――。

 そう覚悟を決めた時、来客を知らせるカランコロンという音が扉の方から響いてきた。


「いらっしゃいませっ!」


 反射でそう迎えた俺。


「凄い広いね。しかも店から海を見渡せるし」


「いいでしょここ! 見つけちゃったんだよね!」


「さすが弥恵。タダでは失恋をしない女だね」


「一言余計だよ!」


 明るく元気な制服姿の女子高生が二人入店してきた。

 華紫波だ。

 そしてもう一人は他校の制服のようだが、華紫波とは仲良さげな様子のショートカット。

 今この二人を案内できるのはテラス席にいる先輩でも、レジ確認をしている店長でも、休憩中の先輩でもなく、ましてや一時間後にシフトを入れてる者でもない。

 

「2名様ですか?」


 そう、俺しかいないのだ。


「はい、2名です」


「それでは、お好きな席へどうぞ」


「ありがとうございます」


 そう言ってショートカットの女子は店の奥へと足を進めていく。

 その背後を歩く華紫波はというと。


「いたんだね」


 ニヤリと俺を見てそう呟き、トコトコと連れのもとへ駆け足で向かっていった。

 知り合ったばかりのクラスメイトがバイト先に来るという、何とも言えないむず痒さ。

 誰か、シフト変わってください……。


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