9線香花火
「なぁなぁ、お母さんから花火貰った。しよ〜!」
海が元気よく話す。もうすっかり夜なのに元気だなぁ。
「うん、しよ。」
手持ち花火が沢山ある。隣には水の入ったバケツとライターがあった。
「ほら、近付けて。」
海がライターをつけている。花火に火がつく。
「あはは。」
両手に花火を持って、円を描く様に踊っている。海が花火の光に照らされて笑う。綺麗だ。髪もふわふわと波を打つ。
「あ、終わった。」
ジュッ
バケツに使い終わった手持ち花火をつける。煙の匂いがする。
海が耳に手を覆っていた。
「? 海、どうしたの?」
上目遣いで海を見る。
「ん。あぁ、いや。何でもない。」
目を逸らす。
「んー?何か隠してるなぁ?ばればれだぞ。」
「えぇー?」
もっと目を逸らす。顔もそっぽむく。下から見たら、鼻が良く通っていることがわかる。
「耳鳴りしただけ。」
「え。 」
思考が止まる。俺のせい?俺が何もこの耳鳴りを放っているから?海にも移った?
「あ゙ー。夏がそうなるから、言いたくなかったんだよ。どうせ、俺のせいとか考えてるんだろ。今は無し!次、線香花火。先に落ちた方が負けな。」
海に飲み込まれていく。そうじゃない、と言いかけたのに線香花火を手渡してきた。
パチパチ
線香花火が光る。花火より長く。
海の方を見る。線香花火に照らされて、綺麗だった。肩から逃げている髪が、所々ある。
「「あ」」
声が重なる。
線香花火が二つとも、くっついた。二人の手が近付く。
「くっついたぁ、はは。」
「ちょっと。笑ったら、落ちるだろ。あはは。」
「「あ」」
また重なる。
線香花火が地面に落ちた。すぐに火の色から黒へと変わっていき、周りの暗さと同化する。
「勝負にならなかったね。」
「まぁ、綺麗やったしいいじゃん。」
二人は笑い合った。