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海夏  作者: あ行
8/11

8 二階

2階

「皆さん、良い夏休みを!」

 校長がなにか有難い話をしている。海の方を見る。血色のいい唇で、猫みたくあくびをしていた。明日から夏休みだ。

「明日から何するー?」

 海がキラキラした笑顔で聞いてきた。

「んー。なにしよ。」

 俺も海と何か楽しいことを想像しながら言った。

――――――

「海ー、夏くんがきてはるよー?!」

 母さんが廊下から、顔を覗かせている。

「……え?夏が?」

 時計を見る。もう八時過ぎだ。こんな時間に夏が来るなんて。玄関へ足を運ぶ。

「夏?どうし……。」

 夏のでこに傷がある。痛々しい。

「……!どうしたんその傷…!」

「……。」

 夏は黙ったまま、地面を見ている。

「なんか冷やすもん持ってくる。」

 夏から離れ、冷蔵庫に保冷剤を取り出す。それに布で覆って夏の所へ戻る。

「はい、これ。」

 保冷剤を手渡す。

「……ぁりがとう。」

 いつにもまして声が小さい。

「ちょっと、外歩こ。」

 夏の手を引く。

 じーりんりんしゃわしゃわ

 色んな虫の音が聞こえる。

 小さい河川敷。二人は黙ったまま、足音を鳴らしながら歩いている。

「……。ぁ、蛍。」

 川沿いの所まで来たか。蛍は一つ一つ淡く自分の存在を示している。

「綺麗やな、」

 海は夏の方へ向く。綺麗な髪がなびく。

「……ぅん。」

 何故夏がこんなに落ち込んでいるのか。そういえばこんな事、前にもあった。朝の学校やっけ。夏の顔が沈んどったなぁ。いいや。こんな事考えてる場合じゃない。えっと。

「な、夏。」

 呼びかけた。下を俯いたまま、黙り込んでいる。

「 」

 夏が小さく震えている。どうしよう。分からない。夏をぎゅっと抱きしめた。

「ぅ、うっ……。おれ、俺父さんにっ…。ぁっ……。」

我慢していたから、一気に溢れ出す。手で荒く拭ってもまたすぐに溢れてくる。

「海、おれ、どうしよ……、俺生きてていいのかな。ぉれ、すぐ問題、おこすし…、」

 どんな返答を期待して、海に聞いたんだろう。自分が憎い。

「んーん。そんな事ないよ。夏は俺の大切な親友。だから、そんな事言わんとって。な。」

 海の身体から声の振動が伝わってくる。海は顔も整っていて、その上性格までいいなんて。こんな俺を優しくしてくれるなんて。 

――――――――――――

 日本の昔ながらの海の部屋。畳の匂いがする。

「今日は泊まっていいってお母さんが。」

「ありがとう。」

 目を合わしてくれない。まだ気持ちの整理ができていないのだろう。

「いいよ〜。」

 それでもいつも通りの返事をする。

 海が何か取り出す。

「シャボン玉しよ。」

 子供みたいな、無邪気な顔で夏に笑いかける。

「……ぇ。」

 夏が少しこちらを向く。

 小さい段がある大きい窓に、座り外の方を向く。夏の匂いがする。夜風が吹く。

 ぷくぷく

 ストローからシャボン玉が、いきなり離れていく。この世のものとは思えない、左右対称の丸だ。月光に照らされ、虹色に輝いている。

「あ……!見て見て!大きいやつできた。」

 満点の笑顔で夏を見る。大きいシャボン玉を指差す。その瞬間シャボン玉が割れた。

「……ぁ。」

 呆然とする。

「……くす。」

 夏が笑った。良かった。

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