6すれ違い
「げんき?」
「うん。元気やで。」
病室。海が倒れてここに運ばれた。痛々しい海の傷が目に入る。その度に自分の無気力さが襲ってくる。
「あ、もう時間だし俺帰るわ。」
「分かった。また〜。」
海が微笑みながら見送ってくれた。
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バス停から家に帰る途中。向日葵畑が一面に咲いていた。
「きれい……。」
思わずつぶやく。海が退院したら見せに来よう。
そう思っていた刹那、誰かが俺の横を通る。何故か振り向く。咄嗟にその人の腕を掴む。
「待って…ください。」
―その人―がきょとんとする。その人の耳飾りが円を描く。
「ぁ、ごめんなさい。」
手を離す。自分でも何でこんな事したのか分からない。
「ぁの、っ……、あ。」
その人が何か変えてくれるかも知れない。そんな都合のいい事なんてないかも知れないが、そのような気持ちが湧き上がる。何か話さなければ、何処かへ行ってしまう。
「何か俺に御用ですか?」
その人は優しい柔らかな声だった。よく見ると昔の人が着る様な普段着を着ている。
「突然ですが、俺の話聞いてください……!何の取り柄もない通りすがりの者ですが。それでも、聞いて欲しいんです。」
こんな事しか咄嗟に考えられなかった。
「ん〜。なんか悩んでる様やなぁ。我でよければ話聞くよ。」
その人が微笑む。みかんより濃い橙色の光に包まれ、向日葵と入道雲が夏を感じさせる。
「……!本当ですか…!」
「うん。いいよぉ。けど立ち話も何やし、どっか座るとこないかな。」
その人が顎に手を乗せる。
「それなら、少し歩いたとこに自動販売機とベンチがあります。」
少しといっても結構な距離だ。
「ん。じゃ、そこにしよ。」
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「麦茶でよかったですか。」
「ん。いいよ。ありがとうなぁ。」
その人に自動販売機から買った麦茶を手渡す。麦茶のついていた水滴が手に残る。
「で。どうしたん。」
俺に微笑みかける。それは安心する様な、心温まる笑顔だった。雲でオレンジ色の太陽が隠れる。
「お、俺海って言う友達がいるんですけど」
こんな事話して何か得られるのか。視線が地面の方を向く。
「海とお祭りに行って、そしたら変なとこに切り替わったんです。何言ってるんだって思うかも知れませんがほんとなんです。」
黙って真っ直ぐな目で、けど緊張感が感じられなく話を聞いてくれている。
「そしたら突然、海が隣で倒れて。そこには敬語で話してくる奴いました。そいつが海をやったんです。」
今でもあの生々しい場面が思い浮かぶ。
「これって何だと…思いますか。」
こんな事聞いて何を期待しているのだろう。けれどその人は顔色一つ変えずに、答える。
「偶然やね。俺もそこの神社に行く途中やったんよ。そこは…、あんまいいとこちゃうね。生きて帰って来れた事が奇跡やで。」
その人が一つ間を置く。
「んで、お前さんは最近耳鳴りとかしぃひんか。」
「 え 」
見透かされている目。離せられない。
「何で…何で知ってるんですか……?」
揶揄う様な目で見られた。
「悪いもんが憑いとるからよ。」
「悪い者?」
「うん、そう。っとごめん。もう時間やし行くね。」
「待っ……。」
現代にはいないであろう人が遠のいていく。