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海夏  作者: あ行
6/11

6すれ違い

「げんき?」

「うん。元気やで。」

 病室。海が倒れてここに運ばれた。痛々しい海の傷が目に入る。その度に自分の無気力さが襲ってくる。

「あ、もう時間だし俺帰るわ。」

「分かった。また〜。」

 海が微笑みながら見送ってくれた。

――――――――

 バス停から家に帰る途中。向日葵畑が一面に咲いていた。

「きれい……。」

 思わずつぶやく。海が退院したら見せに来よう。

 そう思っていた刹那、誰かが俺の横を通る。何故か振り向く。咄嗟にその人の腕を掴む。

「待って…ください。」

 ―その人―がきょとんとする。その人の耳飾りが円を描く。

「ぁ、ごめんなさい。」

 手を離す。自分でも何でこんな事したのか分からない。

「ぁの、っ……、あ。」

 その人が何か変えてくれるかも知れない。そんな都合のいい事なんてないかも知れないが、そのような気持ちが湧き上がる。何か話さなければ、何処かへ行ってしまう。

「何か俺に御用ですか?」

 その人は優しい柔らかな声だった。よく見ると昔の人が着る様な普段着を着ている。

「突然ですが、俺の話聞いてください……!何の取り柄もない通りすがりの者ですが。それでも、聞いて欲しいんです。」

 こんな事しか咄嗟に考えられなかった。

「ん〜。なんか悩んでる様やなぁ。()でよければ話聞くよ。」

 その人が微笑む。みかんより濃い橙色の光に包まれ、向日葵と入道雲が夏を感じさせる。

「……!本当ですか…!」

「うん。いいよぉ。けど立ち話も何やし、どっか座るとこないかな。」

 その人が顎に手を乗せる。

「それなら、少し歩いたとこに自動販売機とベンチがあります。」

 少しといっても結構な距離だ。

「ん。じゃ、そこにしよ。」

――――――――――――

「麦茶でよかったですか。」

「ん。いいよ。ありがとうなぁ。」

 その人に自動販売機から買った麦茶を手渡す。麦茶のついていた水滴が手に残る。

「で。どうしたん。」

 俺に微笑みかける。それは安心する様な、心温まる笑顔だった。雲でオレンジ色の太陽が隠れる。

「お、俺海って言う友達がいるんですけど」

 こんな事話して何か得られるのか。視線が地面の方を向く。

「海とお祭りに行って、そしたら変なとこに切り替わったんです。何言ってるんだって思うかも知れませんがほんとなんです。」

 黙って真っ直ぐな目で、けど緊張感が感じられなく話を聞いてくれている。

「そしたら突然、海が隣で倒れて。そこには敬語で話してくる奴いました。そいつが海をやったんです。」

 今でもあの生々しい場面が思い浮かぶ。

「これって何だと…思いますか。」

 こんな事聞いて何を期待しているのだろう。けれどその人は顔色一つ変えずに、答える。

「偶然やね。俺もそこの神社に行く途中やったんよ。そこは…、あんまいいとこちゃうね。生きて帰って来れた事が奇跡やで。」

 その人が一つ間を置く。

「んで、お前さんは最近耳鳴りとかしぃひんか。」

「 え 」

 見透かされている目。離せられない。

「何で…何で知ってるんですか……?」

 揶揄う様な目で見られた。

「悪いもんが憑いとるからよ。」

「悪い者?」


「うん、そう。っとごめん。もう時間やし行くね。」

「待っ……。」

 現代にはいないであろう人が遠のいていく。

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