5迷い
キーン
耳の近くで鳴る。
「今日さぁ、帰りに神社寄らない?」
海がきょとんとする。
「いいけど。夏からあそこに行きたいなんて、珍しいなぁ。」
「今日、祭りだよ。」
海は目を丸くする。
「ほんまぁ?!行こ、行こ!」
――――――――――――
がやがや
人の会話を遮って海が問う。空は淡い青で雲は赤く太陽の光に反射している。
「なつぅ。一緒に連れつく女子おらんのー?」
「いないよ?」
「そっかぁ。」
残念そうに言葉をこぼす。
「俺は海が居れば充分――」
景色が変わる。さっきまで祭りで賑わってたのに。知らない神社にいる。辺りは田んぼが広がっている。
カァカァ
烏が鳴く。
「え。ここどこ。」
焦りが止まらない。
「僕たち祭りに来てたよな。」
「おやおや、迷いが来ましたねぇ。」
背後から声。
「だ……だれ」
「うっ……!」
海の方を見る。腹を抑えて苦しんでいる。血が垂れている。
「海!海……!」
視界が揺れる。あの奴は?海は?ここはどこ?
様々疑問が飛び交う。
「んふふ。貴方もそっち側へ行かせてあげますよ。」
横から音。こいつ人間じゃない。俺たちを見下げて近付いてくる。
「……っ!くぁ……!」
上手く言葉にできない。あたまがまわらない。どうしようどうしぁうひうみのちがとまらない。
キーン
「あぁ……!」
煩い。
「おやぁ。貴方、何か悪い者が憑いてますねぇ。主人がこれを召し上がられるのは……。」
何か言ってる。海の柔らかい髪が腕に当たる。
「そうですねぇ。それでは、
あなたの人生をお聞かせください。」
言葉がうまく理解出来ない。
「俺の……人生?」
ただ、言葉を繰り返しただけだ。繰り返してやっと言葉の意味が理解出来た。
「はい。どんな人生でしたか。」
「俺は……、何の取り柄もない人間だった。」
琥珀色の光が風景を包む。
「けど……!海がいたから、いてくれたから!俺は存在できたんだ……。」
長い間。
そうだ、海。まず海を助けなきゃ。こんな事話している場合ではない。
「あれ。」
辺りが祭りに変わっている。
「血を流してるぞ!」
「救急車!」
人々が叫び合う。
後の方は覚えていない。