2長髪
「あ、海。」
話しかけようと手を伸ばす。しかし、誰かと話している様だ。海は俯いている。
後で話そ。
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先生の説教が終わった。教室に戻る。すると、夏が誰もいない教室で、一人座りでじっとどっかを見ている。
「夏、」
呼びかけても返事が来ない。
「おい、夏!」
はっと意識が戻った様にこちらを向く。
「ぁあ。ごめん。」
たははと横で笑われる。
「ほんとに大丈夫?最近、やたらと多いで。」
「ほんと〜?気をつけなくちゃな。」
他人事みたく言われる。ほんとに心配しとるのに。
「ぁ。さっき先生と話してただろ。また髪の事?」
話題を変えられた。
「うん。そうやけど、ほんまあの先生うるさい。髪ぐらい自由にさせて欲しい。あのはげ〜!」
ぐっと拳に力を入れる。
「あはは。はげって。海の髪が羨ましいだけなんじゃない?海の髪綺麗だから。」
何気なく恥ずかしい事を、さらっと言われる。少し戸惑う。
「いいやろ。」
海が髪を態となびかせる。埃っぽい教室に二人の会話が響き渡る。
「触ってみる?」
「うん。」
冗談で言ったつもりが夏は承諾するなんて。まぁいいか。
「ほら。」
夏に顔を近づける。夏の匂いがする。
「わぁ……!すごい。綿糸みたいだ。」
眼を輝かせて髪を触ってくる。
「はは。綿糸って。」
夏の手が段々頭の方へ移動する。頭を撫でられる。
「?」
撫でられているという意識はなかった。
「あ……!ごめん。なんか撫でちゃった。」
「んふふー。僕の髪に見惚れたな?夏の髪も触らせろ!」
強引に頭をかきむしゃられる。
「わ!ちょっ、やめてよ!」
笑いながら言う。
「お返しだー!」
お互いの髪をぐしゃぐしゃにして、訳の分からないことになった。
一旦静かになる。
「ぶはは!おかしー!」
「あはは!海もね!」
二人で散々笑い合った。
「はぁ……。直そ。」
一息満足げのあるため息をつく。海の髪を手でとかす。
(あっ、いいこと思いついた。)
「あっ、なんか悪い事企んでるだろ〜。」
「っぅえ!?そんな事ないよ。」
うまく誤魔化せたか。
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「……。なんやこれ……。」
海がスマホのカメラを自分に向けて見ている。そこには無造作に結ばれた髪があった。
「芸術品だよ。」
「なんでちょっと誇らしげなん。」
続けて海が言う。
「てか、どこでそんな大量のヘアゴムがあんねん。」
「多分妹のイタズラ。」
夏はこう見えて立派な兄だ。
「あー。それなら想像がつくな。」
海がいきなり俺の方へ向く。
「何。」
嫌な予感。
「お返しや〜!」
「うわ〜。」
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「ふはは!傑作や!」
「……。」
ツインテールになっている。
下校。
「え。そのまま帰るの。」
「うん。夏の芸術なんやろ。」
揶揄った顔で言われる。夕陽が海にもたれかかる。
「海がいいならいいけど。」
ぴょんぴょんと海が一歩一歩、歩く度に髪が跳ねる。
「あはは!」
「なんや〜?」