1耳鳴り
キーン
遠くの方で耳鳴りがする。
「……でさぁ。夏、どう思う?」
「ぇ。」
耳鳴りで聞こえなかった。海が俺を見つめてくる。
「夏さ、最近妙にぼーっとしとるな。大丈夫?」
「うん。へーき。」
学校からの帰り道。周りは田んぼだらけで殺風景だ。夏だけ自転車を押して、毎日話しながら帰る。むぁっと蒸し暑いし、夕方なのにまだ照っている。
「んー?ほんまかぁ?まぁ夏がそう言うならいいかー。」
田舎には似合わない海の水色の髪が、生ぬるい風でなびく。夕陽が肩より長い髪の間を通りくぐる。
海が立ち止まった。
「? どうした。止まって。」
ぎこぎこ鳴り続けていた自転車の音が止まる。
「なんか、この神社懐くない?」
「え?夏ここの神社来た事あったっけ。」
夏はニ月に京都から引っ越して来た。だからここに来て、まだあまり時間は経ってない。
「よってこ。」
海がほのかに笑う。
「いいけど。」
自転車を道端に置いて、神社の長い階段を登っていく。
ふと、海を横目で見た。黙って無表情だが、綺麗な顔で整っている。長い髪と長い睫がより一層、「綺麗」を引き立てる。
「ん。なんか付いてる?」
綺麗な指を顔に指して俺に問いかけた。少し関西弁混じりの言葉を乗せて。見過ぎた。
「んーん。何もついてないよ。」
「あ、そ。」
海がどんどん先に登っていく。置いて行かれない様に階段を登っていく。
「普通の神社だね。」
「うん。そーやな。」
神社に着いた。鳥居をくぐる。
「ちょっと座って休も。」
神社の階段部分に腰を下ろす。夏が隣に座った。まだまだ暑い。生温い風と湿った空気。
「綺麗だなぁ。」
夏がぼそっと言った。正面に顔をやる。太陽が眼に入り込んでくる。眩しい。雲が太陽に照らされて、烏が飛んでる。鳥居の影が濃い。
「うん、綺麗やなぁ。」
――――――――――
海の家の前。
「また、あの神社行こ。僕の勘は正しかったやろ?」
にかっと冗談顔で言う。
「正しいって、まぁいいけど。また明日。」
「うん。また明日〜。」
お互い手を振って、海はガラス戸を開き、夏は自転車に跨ぐ。
湿気を含んだ暖かい風が頬を撫でる。片手で耳を覆う。
「早く治らないかなぁ。」
夏→可哀想なやつ。耳鳴り
海→綺麗なやつ