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海夏  作者: あ行
1/11

1耳鳴り

 キーン

 遠くの方で耳鳴りがする。

「……でさぁ。夏、どう思う?」

「ぇ。」

 耳鳴りで聞こえなかった。海が俺を見つめてくる。

「夏さ、最近妙にぼーっとしとるな。大丈夫?」

「うん。へーき。」

 学校からの帰り道。周りは田んぼだらけで殺風景だ。夏だけ自転車を押して、毎日話しながら帰る。むぁっと蒸し暑いし、夕方なのにまだ照っている。

「んー?ほんまかぁ?まぁ夏がそう言うならいいかー。」

 田舎には似合わない海の水色の髪が、生ぬるい風でなびく。夕陽が肩より長い髪の間を通りくぐる。

海が立ち止まった。

「? どうした。止まって。」

 ぎこぎこ鳴り続けていた自転車の音が止まる。

「なんか、この神社懐くない?」

「え?夏ここの神社来た事あったっけ。」

 夏はニ月に京都から引っ越して来た。だからここに来て、まだあまり時間は経ってない。

「よってこ。」

 海がほのかに笑う。

「いいけど。」

 自転車を道端に置いて、神社の長い階段を登っていく。

 ふと、海を横目で見た。黙って無表情だが、綺麗な顔で整っている。長い髪と長い(まつげ)がより一層、「綺麗」を引き立てる。

「ん。なんか付いてる?」

 綺麗な指を顔に指して俺に問いかけた。少し関西弁混じりの言葉を乗せて。見過ぎた。

「んーん。何もついてないよ。」

「あ、そ。」

 海がどんどん先に登っていく。置いて行かれない様に階段を登っていく。

「普通の神社だね。」

「うん。そーやな。」

 神社に着いた。鳥居をくぐる。 

「ちょっと座って休も。」

 神社の階段部分に腰を下ろす。夏が隣に座った。まだまだ暑い。生温い風と湿った空気。

「綺麗だなぁ。」

 夏がぼそっと言った。正面に顔をやる。太陽が眼に入り込んでくる。眩しい。雲が太陽に照らされて、烏が飛んでる。鳥居の影が濃い。

「うん、綺麗やなぁ。」

――――――――――

 海の家の前。

「また、あの神社行こ。僕の勘は正しかったやろ?」

 にかっと冗談顔で言う。

「正しいって、まぁいいけど。また明日。」

「うん。また明日〜。」

 お互い手を振って、海はガラス戸を開き、夏は自転車に跨ぐ。

 湿気を含んだ暖かい風が頬を撫でる。片手で耳を覆う。

「早く治らないかなぁ。」

夏→可哀想なやつ。耳鳴り

海→綺麗なやつ

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