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第六話 傷痕

第六話 傷痕


「シア様、湯浴みのご用意が出来ました。」

サーラの言葉に私はきょとんとした顔をしてしまったと思う、一瞬何を言われたか本当に分からなかったのだ。

ずっとあの苔の生えた石の牢獄に入れられていた私にとって、毎日エレヴィーラに水をかけられていた事が唯一それらしい事だっただろうか。体を洗うという行為自体、まして湯浴みなど幽閉されてから一度もさせてもらえた事はない。

「大丈夫だにゃ!リッタも最初はびっくりしたけど、お風呂は慣れると気持ちいいんだにゃ!」

微妙な顔をしている私にお風呂が苦手だと思ったのか、私をひょいと軽々抱っこしながらのんびりとリッタが付け足す、どうやら彼女は入浴が苦手だった事があるらしい。

にこにこ笑顔のリッタが私を抱き上げた瞬間、あまりの軽さに一瞬絶句したのをサーラだけが見逃さなかった。


浴場は私一人が使うには広過ぎるほど大きく、真っ白な大理石で作られている湯船には花が浮かべられていてとても良い匂いがした。

「元あった浴室は少々手狭でしたので、シア様のために急遽作って頂きました。気に入って頂けましたでしょうか?」

サーラの言葉に私はぎょっとして思わず目を見開いた、まさかこんな豪華で見事な大浴場を、私一人のために作ったというのだろうか。

「好みじゃなかったにゃ?気に入らないならもう一回作って貰えば良いのにゃ!」

唖然としている私にリッタがあっけらかんとそんな事を言うものだから私は慌てて、首が取れるかと思うほど首を横に振った、文句などあるはずがない。

でも、服を脱ぐ事にはやはり抵抗があった、私が昏睡している間に着替えをさせたのは彼女達だったと聞いているから、もう知られているのだけれど、やはりこの肌を晒すのは緊張してしまう。

「…シア様、お嫌でなければ私どももご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

じっと服と睨めっこをしたまま固まっている私を見かねたのか、サーラは私にそう尋ねて来た。少し不思議に思ったものの、特に断る理由も無いため私が頷くと、二人はするすると着ていた服を脱いで私に素肌を見せた、そこにあったものに私は絶句してしまう。

リッタの体には私もよく知っている、鞭で打たれた古傷がいくつもあり、胸には痛々しい奴隷印がはっきりと焼き付いていた。

サーラの身は半分ほど焼け爛れて変色しており、腕や腹には幾つも刺されたり斬られたりして出来た様な古傷があった。

「シア様、私達は汚いでしょうか…醜いでしょうか?」

サーラのその言葉に私は泣きながら二人に抱きついて首を横に振った、そんな事あるはずがない、汚いわけがない、醜いなんて思わないと、言葉は出せずとも私は懸命に二人に訴えた。

「ええ、ええ、同じなのですシア様。シア様と同じ様に、私達もシア様の身を、夥しい程の傷痕があっても…汚いなどと思うはずが無いのですよ。」

諭す様なサーラの言葉が私の心の中にじんわりと染み込んでいく、リッタとサーラにふわりと優しく抱きしめ返されて私は初めて自分の、この傷だらけの体を受け入れる事が出来た。


「これとっても良い匂いなのにゃ〜。」

「シア様、少しでも痛みがあれば仰って下さいね。」

リッタには髪を、サーラには体をそれぞれ丁寧に洗われている私は少しだけ気恥ずかしくて、落ち着かない気持ちになった。

ふわふわした心地のまま手際の良い二人に全身を洗い上げられると、憑き物が落ちた様に気分まですっきりしていたからまるで魔法の様だと思ってしまった。

「あ〜〜あったまるにゃ〜。」

そうしてやっと三人揃って湯船につかるとリッタは心底気持ち良さそうに声を出した、確かにとても気持ちいい。

流れて来た花をなんとなく掬い上げてしばらくぼんやりと見ていると、隣のサーラが嬉しそうに微笑んだ。

「シア様は花がお好きなのですね。」

サーラの言葉に私が頷くと、反対側のリッタが何か思いついた様に、じゃあリッタのとっておき見せてあげるにゃ、と声を上げた。

リッタが鼻歌を歌いながら耳飾りの魔石を軽く指先で弾くと、湯船に一面金色の花が映し出された、水面に揺れ動く花は本物と見間違えるほど精巧で、思わず触れてしまったがそよ感触はやはり水だった。

「すごいですにゃ?」

私が思わず何度も大きく頷くとリッタは満足そうに笑って、ついでに撫でてくれとばかりに頭を差し出して耳を揺らした。その耳と頭を優しく撫でてあげると、リッタはやはりごろごろと喉を鳴らして気持ち良さそうに目を細める。

「シア様。そろそろ上がりましょうか、あまり入っているとのぼせてしまいますので。」

確かにお湯に入り慣れていない私があまり長湯するのは危険なのだろう、私はこの穏やかで心地よい時間に少しだけ名残惜しさを感じてしまったが素直に頷いた。

「…大丈夫ですよシア様、これからは毎日入れますので。」

サーラはそんな私の様子に気が付いたのか、一瞬迷った素ぶりを見せたがそっと、遠慮がちに頭を撫でてくれた。


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