表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第二十一話 とある侍女の忠義

とんでもなく間が開いてしまい申し訳ないです…忙しいため更新頻度は落ちますが絶対に完結させますので、のんびりお待ち頂ければ幸いです。

第二十一話 とある侍女の忠義


「…卿、夜分遅くに申し訳ございません。少々お時間よろしいでしょうか。」

レイドットに来客の旨を伝えた後、なんとなく手持ち無沙汰になり書類の整理を行なっていた私の執務室にノックの音が響いた。

「サーラか?入れ。」

普段こんな時間にシアの側付きの侍女であるサーラが私の元を尋ねて来る事は無い、何かあったのだろうかと思っていると彼女は一礼しながら静かに部屋へ入って来た、その後ろにはベンジャミンの姿もある。

シアの身に何かあったのかと思わず立ち上がろうとしてしまった私だったが、ベンジャミンの姿がボロボロであり、腫れた顔に大きく赤い手形がついているのを見て呆けてしまった。

ベンジャミンと目が合うも呑気にも苦笑だけを返された、どうやらシアの件でも緊急の用件という訳でも無さそうだ。

「…それで、どうした。」

再度椅子に腰を落ち着け、サーラと、それと何故かボロボロなベンジャミンを交互に見ながら尋ねるとサーラは私に頭を下げた。

「卿、私は今日限りで王家の侍女頭、そしてミッドランドの影の任を降りさせて頂きます…お許し下さい。」

「…何故だ?」

少なからず私は驚いてサーラを見た、彼女がミッドランドにやって来てから約五十年ほど経つだろうか、長命種であるらしく全く見た目の変わらないサーラは侍女頭として、そしてミッドランド王家を守る影として、彼女は存分に働き国に貢献してくれていた。

今のリッタや他のメイド達の教育に、王家の影である組織の形成や指導を行っていただけでなく、サーラは魔物暴走にも対処可能な数少ない貴重な人材であった。

その彼女が全ての任を降りると言っているのだ、ただ事ではない。

「ベンジャミン、どういう事だ?お前が何かしたのではないだろうな。」

「ああ〜…いやコレは別件で…。」

「理由をお伝えする前に、卿にお話したい事がございます。」

ベンジャミンを無視し、サーラは顔を上げて私を見た、その顔つきはいつもの様に凛としていたがどこか怒りと悲しみを感じるものだった。

一呼吸置いて、彼女は口を開く。

「私は、シア様の記憶を見ました…正確にはあのペンダントの記憶ですが、常にシア様が肌身離さず持っていたものですので、同じ事でしょう。」

そう言ってサーラは順序立てて語り出した。

まず、彼女には触れた物の記憶を読み取る能力があった。

〝付喪神〟というサーラのその能力はこの大陸で知られる魔法とは別種の力であり、触れたら勝手に発動してしまうため自身でコントロール出来るものではない。

また、使用者が長年大切にして来た物でなければ記憶を見る事は出来ず、記憶といっても断片的な映像を見る事が出来る程度で、見たい記憶を指定して見れる訳でもないため、普段の生活ではその能力が役立つ場面も発動する事も無く、サーラは過ごしていた。

しかし今日、シアの首にあったペンダントに触れた瞬間ペンダントの記憶を見てしまった、つまりシアがヴェルスナーに居た時の彼女の記憶を垣間見てしまったのだという。

与えられない食事、毎日行われていた暴行とも言えない拷問の数々、兵士達からの卑劣な行為…そんな信じられない言葉がサーラの口から語られていった。

「…更に、あの蛮族共はシア様の衰弱し、弱り切った小さな体を…まるで球蹴りの様に、蹴り飛ばして笑い物にし、遊んでいたのですよ…!!」

耐え切れず、といった素振りでそう叫んだサーラは、泣きそうな顔をしながら激しい怒りを抑える様に自分の拳を握った、その手は震えている。

絶句した後、私もまた改めてヴェルスナーに激しい怒りを覚えた、シアが置かれていた状況やその光景を思い浮かべるだけで腸が煮えくりかえる。

聖女である彼女は本来ならば敬われ、大切に扱われて当然の存在だ、それはミッドランドだけでなくどこの国であっても変わらない。にも関わらず、ヴェルスナーがシアに行ってきた仕打ちはあまりにも惨い。

一気にしんと静まり返ってしまった室内だったが、その怒りを諌める様に彼女の手をやんわりと握ったのは、隣に居たベンジャミンだった。

「まあ落ち着いて、サーラ。」

「触らないで下さい…ケダモノが。」

吐き捨てる様にそう言いながらベンジャミンの手を振り払ったサーラは、まるで羽虫を見る様な冷たい眼差しでベンジャミンを見ていた。

そんなサーラの様子に驚き、一転して私が一体何をしたんだという視線をベンジャミンに送ると、思い切り目を逸らされてしまった。

「…ベンジャミン。」

「…ええとね、ドラグナー、サーラはシア様がされて来た事に激昂して、怒りのあまり八つ当たりしに東の森へ行っちゃったんだ、僕はそれを見かけて連れ戻しに行って、まあ…こうなった感じ…。」

東の森は魔物が徘徊する森だ、サーラはともかくベンジャミンには厳しいだろう、サーラを連れ戻しに行ったとはいえ危ない橋を渡ったものだと感心してしまった。

こんなにボロボロになっていたのは魔物のせいだったのか、と私は一人納得していたのだがサーラは厳しい眼差しでベンジャミンを睨みつける。

「…卿、加えて進言いたします。この男は無理矢理接吻し、薬物を飲ませて来る様な下衆です、シア様の主治医にはふさわしくないかと。」

先程の怒りとは別種のサーラの沸々とした怒りを感じ、私は今度こそ呆れ顔でベンジャミンを見た。

…お前は何をしているのだ、と。

「え、ドラグナー?ちょ、何その目、これにはワケが…。」

「話を戻しますが。卿、私は本日よりミッドランドの王ではなくシア様に忠誠を誓いたいのです。」

ベンジャミンを無視し、どうかお許しを、と真面目な顔をして跪くサーラに私は考え込んだ。

確かにサーラが抜けた事で生じる穴は大きい、だがそもそもこの屋敷へ彼女を引き抜いた時点で侍女頭の地位も影の役目も既に他の者へ引き継がれているはずだ、なんら問題は無いだろう。

まあ、引き継がれた者がサーラと同じ働きを出来るかと問われれば、答えは否であろうがそれは私の預かり知らぬところだ。

「今度こそ…お守りしたいのです。」

その言葉に強い意志を感じ私はサーラを見つめた、彼女の過去に何があったのかまでは私には分からないし知る由もない、しかし誰かを守れなかった過去がサーラを強くした、その事実だけは分かっているつもりだ。

「良いだろう、今この時を持って王家預かりであったサーラを解任する。シアを…よろしく頼む。」

「はい、この命に代えましても。」

サーラのその迷いの無い言葉に私は思わず眉を顰め、わざとゆっくりと、これみよがしにため息を吐いた。

「…それはやめろ、シアが悲しむ。シアの事を第一に考えるのであれば何があろうと命を捨てるな、最後まで生きて守れ。」

私がそう告げるとサーラは目を見開いて私を見た、そして次の瞬間、泣きそうな顔をしながらも毒気を抜かれた様に笑った。

「やはり尊敬すべきお方です、卿。流石シア様が選んだ方…ええ、本当に…本当に仰る通りです。」

噛みしめるようにそう反芻しながらサーラは恭しくもう一度頭を下げた、どうやら思うところがあったらしい、考え直してくれたのであれば何よりだ。

「さて、もう夜更けだ、全員私室に戻るとしよう。ああそれと…サーラ、望むならベンジャミンを罪に問うが…。」

「え?!だからこれは不可抗力だったんだって!いやまあ確かに…役得ではあったというか?僕が無理矢理薬を飲ませたのは事実だけど…。」

「卿、明日改めて訴状を提出させて頂きますのでお目通し頂きたく。」

先程とは打って変わって青筋を立て、真顔のまま冷たい声色で言い放つサーラに、今度こそ本気だと察したのかベンジャミンは冷や汗をかきながら懸命に弁明したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ