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第十四話 暗雲

2024 5/28 少し修正しました。

第十四話 暗雲


幼子に使う様な眠りの魔法をかけ、シアを眠らさせた私は再度彼女の涙を拭った、余程怖かったのか血の気が失せ、ぐったりしているシアの顔を見ると沸々と自分の中に怒りの感情が湧き上がる。

シアのこの美貌だ、どうせこの男共は下卑た目でシアを見ていたのだろう、その様子は容易に想像出来た。

「シアを頼む。」

リッタとサーラにシアを託し立ち上がる、先程まであった結界はシアが意識を失ったからか崩壊し消失していたが、この無法者達はそうではない。

私の姿を見てか何人かは逃げた後だったが、残った輩はシアと私を交互に見ながら徐々に距離を縮めて来ていた、分かりやすい事だ。

「…舐められたものだな。」

そう息を吐き出すと、男達はそれを合図にするかの様に声を上げて一斉に襲いかかって来た。


だがもう遅い。


「あ、が…!」

指先一つで男達の濡れた足元から全身を凍らせ、動きを封じる、私はただそこにあった水を利用したに過ぎない。

どうやら残った者達は私の事を知らなかったらしい、先程までの表情とは異なり恐怖で染まったその顔が、もしやと私を見る。


「…落ちろ。」


憤りを込めた端的な言葉に呼応して雷鳴が轟き、一際眩い閃光が男達の体を貫く。

「私がミッドランドの宰相、ドラグナー・ヴァルスタッド…察しの通り、魔法使いだ。まあ、もう聞こえてはいないだろうが。」

悲鳴も無く倒れ伏し、黒焦げになっている男達を一瞥しながら私はそう吐き捨てた。

一見すると服装から商人の様に見えるが、それにしては持っている剣の質が良い。その上弓矢に毒を塗っていたりと、殺す事に一切の躊躇いが無いのが不自然だ。

ただの商人にしてはどうも何かきな臭い。

「申し訳ございません、卿。私がついていながらこの様な…。」

振り返って見るとサーラは己を責めているのか眠っているシアを抱き抱えながら唇を噛んでいた、彼女は忠誠心が人一倍強い上に責任感も強い、この一件は堪えるだろう。

「…宰相様、リッタの見たもの見て欲しいにゃ…それくらいしか、リッタ出来ないにゃ。」

リッタは過去に行われていた非道な人体実験の結果、魔石と共鳴し自分の見たものを鏡の様な場所に映し出す事が出来た、そしてここにはおあつらえ向きに湖がある。

「分かった、映してくれ。」

私の言葉に従いリッタが耳の魔石を弾くと、私がここへ転移する前の一部始終が水面に映し出される。

楽しそうに水遊びをしていたシア、サーラが異変を察知し警告したものの襲いかかって来た男達、そしてサーラの危機によって失われていたはずの力を取り戻し、結界を展開したシアの姿がそこには映っている。

男達が襲いかかって来るよりも先にシアが過呼吸を起こした原因も気になるが、一番の問題は外部の人間にシアが聖女だと知られてしまった事だ。

これがミッドランドの民なら緘口令を敷く事も可能だっただろうが、おそらくこの男達はこの国の民ではないだろう。サーラは自身の身分を〝ミッドランド王家に仕える使用人〟と名乗っている、この国の人間ならばその言葉で最初から立ち去っている、ましてや襲いかかって来る事などあり得ない。

「サーラ、所感は。」

「私の見立てではこの者達は雇われた者…単なる捨て駒でしょう。逃げた者の中に指揮をする者が居りましたがおそらくは貴族…撤退のタイミングといい、卿に知られるとまずい身分となると、他国の間者でほぼ間違いないかと…。」

「やはりヴェルスナーか…。」

はあ、と思わずため息を吐いてしまいながら私はシアを見る。確かにこの男達がヴェルスナーの者だったのならばシアの怯えようも納得がいく、恐らく彼女には分かる何かを身に付けていたのだろう、或いは顔見知りだった可能性もある。

シアの過去を想像するとこの者共を今すぐ八つ裂きにしてやりたい気分になったが、この男達が誰に雇われていたのかは知る必要がある、まだ殺す訳にはいかない。

「…サーラ、この者共の素性を聞き出せ。リッタは王へ言伝を頼みたい。シアは私が屋敷まで運ぼう。」

「御意のままに。」

「かしこまりましたにゃ。」


倒れた男達の始末をサーラに任せ、リッタをその場で王城へ転移させてから、シアを抱いて共に彼女の部屋に転移した。

シアの軽い体をベッドに寝かせようとすると、彼女の体が震えている事に気付いた。

水で冷えたのか、それとも恐怖からなのだろうか、シアはいつの間にか私の服をぎゅっと掴んでいた。

私の勝手な、都合の良い解釈だろうが、離れないでと懇願されている様な気がした。無理やり手を離す事も出来るだろう、けれどそんな事をしたくは無い。

私はシアの衣服を魔法で乾かし綺麗にしてから、今回だけだと自分に言い聞かせて彼女を腕に抱いたままベットへ入った。

震えているシアに大丈夫だと安心させるように抱きしめて、片手で彼女の銀糸を梳く。

ここ数ヶ月でシアは瞬く間に本来持っていたはずの美貌を取り戻していた、それも誰もが見惚れる程の絶世の美貌を。

きっとシアはそんな自身の変化にまだ気付いていない、その美貌を目にした者が彼女に送る視線の意味も分からずにいる。

「私が守ってやる…絶対に。」

決意と誓いを含んだ言葉を眠っている彼女へ紡ぎながら、シアの艶かしい鎖骨辺りにあるペンダントに口付ける。

結界を張る事は聖女にしか出来ないが、防護魔法や反射魔法程度なら私にもかける事が出来る、魔除け代わりにこうして魔法をかけておくに越した事はないだろう。

ヴェルスナーがどうして聖女であるシアをああまで虐げていたのか分からない今、こちらとしてもヴェルスナーが次にどういう動きを見せるのか全く読めない。

恐らくはシアを取り戻しには来るだろうがその手段も不明だ、秘密裏に攫っていくつもりであれば渡すつもりは毛頭ないが、帝国から公に圧力をかけられては流石に私個人では匿いきれない、国同士の対話を持ちかけられればミッドランドの王が話をするしか無いのだ。

恐らくは大丈夫だろうが、リッタに聞かせた言伝を聞いてやって来るだろう喧しい人物達を思い浮かべ、私はいつの間にか眉間に皺を寄せていた。

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