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第十一話 願いのため

第十一話 願いのため


私の体が突然大きくなった、実際には年相応の体になっただけなのだけれど、私の年齢を知らない人達の反応はみんな同じだった。

アベルやサーラ、ベンジャミン医師はもちろん、いつもおしゃべりをしながらにこにこ笑顔で真っ先に駆け寄って来るリッタでさえ、本来の姿になった私を見た瞬間、凍り付いた様にその場で固まってしまったのだ。

今まで子供だと思って接していた私が突然こんな姿になれば誰だって気味が悪いだろうし、困惑するのは当たり前だ。当の本人である私にも今まで子供の姿のままだった理由が分からないのだから尚更不可解だろう。

このまま気味悪がられたら、気持ち悪いと思われて、今まで優しかったサーラやリッタがあのエレヴィーラのようになってしまったらどうしよう。

そう思った私だったがそれは杞憂だったらしい、サーラとリッタは驚いていただけの様で特に私を気味悪がる様子は無くいつも通り接してくれた、かえっていつも以上に丁重に扱ってくれているくらいだ。

「シア様、お召し物はどちらになさいますか?」

「どれも似合うと思うにゃ!」

元の姿に戻った私の丈に合うようにと揃えられた品の良さそうなドレスはどれも綺麗で魅力的だった、年相応におしゃれをしたいなど保護されている私の身では申し訳なさ過ぎて口が裂けても言えないが、どうやらアベルの考えは違うらしい。

リッタとサーラがひとまずと持って来たドレスだけでもざっと数十着はあった、しかもそのどれもが一目で一級品だと分かるものばかり。ちゃんと手足が極力出ない様に丈が長く作られているのに、レースやリボンによって違和感無く着られるデザインになっているのがまた素晴らしかった。

でも、こんな良いドレスを私が着ても良いのだろうかと気後れしてしまう。

「気に入らなかったにゃ?別の持って来るにゃ?」

選べないでいる私を見て、リッタが放った言葉に私は首を横に振った。気に入らないなんてとんでもない、私には勿体無いくらい全部素敵なドレスだ。

そう思っているのにまた他の物を持って来そうな勢いのリッタの様子に、私は慌ててサーラが持っていた白色のワンピースを選んだ。

「かしこまりました、お任せ下さい。」

にこりと微笑んだサーラの手によってレースがふんだんにあしらわれた透明感のあるドレスに身を包み、リッタの手で丁寧に髪を結ってもらうと、なんだか自分が別人になった気がした。

どうかな、と二人に確認してもらう意味で立ち上がり、その場で首を傾げて見せると二人は満面の笑みで綺麗だと褒めてくれた、なんだか少しだけくすぐったい。

「…先を越された。」

そんな呟きの様な小さな言葉に振り返ると、すでに開いている扉にノックする仕草をしながらアベルが部屋へ入って来た。そのまま真っ直ぐに私の前にやって来たアベルはそっと私の髪を掬うと、その私の髪に何の躊躇いもなく口付けた。

「綺麗だ、とても。」

蕩けそうなアベルのその視線に、私の頬が染まるのが自分でも分かった、嬉しいけど恥ずかしくてなんだか落ち着かない気持ちになる。

そんな私を見てかアベルはくすっと笑うと私の髪から手を離し、その代わりに私の手を取った。

「シア、何かしたい事はあるか?何でもいいんだ、私は君の望みを知りたい。」

そんなアベルの言葉に私は思案した、私の望みといってもすぐには思い浮かばない。それに今の環境は私にとって優雅で快適なものだったから、とてもこれ以上を望む理由が無かった。

アベルが居て、サーラもリッタも居る今のこの生活が私の幸せそのものなのだから。


ずっ と いっ しょ に い た い


アベルの瞳を見つめて、その大きな手を両手で握り返しながら私がゆっくりとそう唇を動かすと、彼は私の言葉を読み取ったのか目を見開いた。

その表情を見て、嫌がられただろうかと一瞬思ってしまったが、その不安を掻き消す様にアベルは片手で私を抱き寄せると、分かったと、はっきりそう言った。

「叶えよう…約束する。」

なんだか清々しい顔をして微笑むアベルの様子を不思議に思ったものの、その理由までは私には分からない。もしかしてアベルはこうして私の身を保護したものの、私の扱いをどうすべきか悩んでいたのだろうか。

聖女としての力を失い、喋る事さえ出来なくなった私はとても厄介な存在だ、それは自分でもよく分かっていた。

この世界ではそれだけ〝聖女〟は特別な存在なのだから。

「…シア様ひとりじめしてずるいにゃ…。」

そんな事を思っているとふとそんな声がした。私が後ろを振り返ると何故かリッタが分かりやすく頬を膨らませながらむくれている。

「…卿、シア様が大変お美しく、シア様しか視界に入らなくなるのは結構ですが、私達の存在まで忘れてしまわれるのは如何なものかと。」

その隣でこほん、と小さく咳払いをしているサーラも微妙な顔をしながらこちらを見ていて、私はなんとなくいたたまれなくなった。

「、…、、。」

アベルの手をそっと抜け出して、私はサーラとリッタの事を忘れてなんかいないよ、と二人になんとか伝えようとした。

「え?え?シア様、どうしたにゃ?」

しかし中々上手く伝える事が出来ず、弁明するつもりが逆にどうかしたのですか、と二人を困惑させてしまった、喋れないというのはやっぱり不便だ。

言葉が使えなくても二人に思いを伝えられる方法があれば良いのに。

「…!」

そう思った私はそこでハッとした、そうだ、言葉がダメでも文字がある。

私は長年幽閉されていた事から教養も何も身についておらず、文字を書く事も読む事も出来なかったが、今なら教えてもらえるのではないだろうか。

「どうしたシア?」

私の表情から何かを察したのかアベルが尋ねる、私は手振りで文字を書いたり本をめくったりする動作をしてそれを伝えた。

「…ああ、読み書きが出来るようになりたいのか。」

どうやら私の意思はアベルに伝わったらしい、私はその言葉に強く頷いた。

私が読み書きを出来るようになるまでどれくらいかかるか分からないけれど、私の声が治る保証も無い今、私が置かれていた状況や今は亡きお母様の事を伝えられる手段が声の他に欲しかった。

「サーラ、頼めるか?」

「はい、私が適任かと。責任を持って務めさせて頂きます。」

一礼するサーラにありがとうと私が唇を動かすと、サーラは一瞬驚いた様に目を見開いてから私に向かって優しく微笑んだ、時々サーラはこういう顔をする。

「シア様良かったにゃ!シア様の笑顔見るとリッタも嬉しくなるにゃ!」

ぱたぱたと尻尾を振りながらリッタは満面の笑みで私の方へ頬をくっつけた。

構って構ってと言わんばかりに喉を鳴らすリッタの頭をを撫でてあげていると、サーラが何か思いついた様にリッタを見た。

「リッタ、そういえば貴女は読む事は出来ても書けませんでしたね?シア様が勉強なさる時には貴女も参加なさい、ついでです。」

「にゃ?!リッタもにゃ?!」

リッタは驚いた様に尻尾をぴーんと立てたが、教養はあっても困りません、というサーラの言葉を聞くと真剣な眼差しで分かったと頷いた。

一緒に頑張ろうね、という意味でリッタの手を握るとリッタはふにゃりと顔を綻ばせ、頑張るにゃ、と決意の声を上げた。


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