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text.3 イルミネーション

 はぁ、と吐いた息が白く色を孕んだ。

 部下の勝手に取ったホテルの部屋から抜け出して、戯れにやって来た町外れの住宅街は人っ子一人、気配すらせず閑古鳥。淡い電飾に彩られ、街は深い夜の闇とは相反して白々しく煌々と光を放っていた。

 こいつはイルミネーション、と言ったか。

 ……かつての獣達とは違い、海の涸れた今を生きる人型を取った海の獣達は母なる優しい海に守られない。そうして陸を生きるこちら側では遮る物なく降り注ぐ太陽をどうにかこうにか宥めすかして世界を暗くすることに苦心して、かつての自然的な海底の闇を再現する為に街灯は殆ど置かれない。

 だがしかし、この人間の世界ではそれとは全く対照的に、彼らは暗闇を厭うように何処までも徹底的に人工的な光で塗り潰し、未踏の場所を完膚なきまでに塗り潰そうとする。

 カシミヤの黒いマフラーを口元に引き上げる。鼻の天辺はきっと赤くなっていて、だがしかし、刺すような寒さも心地が良い。さくさくと道を歩く。

 低木に引っ掛けるように道沿いに張り巡らされたイルミネーションが鈍く光っていて、そこらの水槽から適当にチョウチンアンコウを引っ掛けてやってきて無理矢理ハリガネでぐりぐりと繋いだもののように見えた。

 きっと淡い光の側に寄り添った深い闇の中にはチョウチンアンコウの本体が隠れていて、深い皺のある丸々と肥った不気味な軀がぶら下がっている。

 そんな風に、小さな美と生命を象った小さな光は欺瞞に満ちて、小さな生命を飼い殺しているのだ……。


 というのは、考え過ぎか。


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