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異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません!  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィ』一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞!
第四章 『ヒロイン』の企みに悪役令嬢と抗います

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第四十話 原作者の意見と、王子の望み

 二度目の夏季休暇が始まって数日。

 ライセット公爵邸の庭園で、私たちは金髪碧眼の姫君――紫彩と向かい合って座っていた。


 一年前はあの旅のあともずっと各地を馬で駆け回ってばかりだったから、こうしてお茶会をするのは初めてになる。

 この場にファブリス王子はいない。二人きり、いや、三人きりで思う存分話すためだった。


「やっぱりメアリ、やらかしてるんだね」


「ええ、ずいぶんと派手にやってくれているわよ。わたくしに悪口を言われたのどうだの、嘘ばっかり吐かれて迷惑もいいところだわ! あんたがメアリの生みの親なんでしょ、責任持ったらどうなの?」


「うぅ。ごめんなさい、何もできなくて……」


 紫彩が学園に入学するのは一年後。

 アイリーンが追い出されるのは二年生のうちだというから、メアリと居合わせることはまずないという。


「でもその代わり紫彩は私たちに知恵を授けることができる。そうでしょう?」


「別にわたしが口を出すほどでもないと思うよ。どれだけ状況が厳しくなっても、ファブリスから婚約破棄されなければ破滅しない事実は変わらない。

 まあそれでも可能性はないわけじゃない。どうしても不安要素を取り除きたいなら手はあるけど」


「もったいぶらないで教えなさい!」


「――退学する」


 紫彩ははっきりと言い切った。


「お姉ちゃんのおかげで、今のアイリーンにはかなりの学力がついた。たとえば小さな問題を意図的に起こしてそれを理由に退学すれば、二度とメアリに絡まれることはないのは当然だよね。そうしたら全てのフラグを回避できるでしょ」


「――――」


「本来の展開から大きく逸れたいなら、はっきり言ってこれしかない。それが原作者の私の意見」


 言い返したいのに言い返せない。

 考えつきもしなかったけれど、それが一番の安全策だということに間違いはなかった。これ以上厄介事に巻き込まれることなく、身を引いて静かに過ごしたとしても自然に王妃になれるだろう。


 でも。


「そんなのは絶対にお断りね。退場すべきはあのピンク髪女よ。決してわたくしではないわ!」


「そうだよね。アイリーンはそうでなくっちゃ。

 逃げを選ばないのなら戦うしかない。この勝負、結局のところファブリスに愛された方が勝つわけだけど……自信はある?」


 ファブリス王子とよく似た青い瞳で、こちらの奥底まで見つめてくる紫彩。

 そのまっすぐな問いかけにぴくりと体が震えた。


 これは私ではない。アイリーンが、震えたのだ。


「……愛されているかなんて、よくわからないわね」


「どうして?」


「わたくしが美しく、誰よりも王妃に相応しいのは事実。でもファブリス殿下ったら、口付けの一つもしてくださらないのだもの」


 そういえばそうだ。

 ファブリス王子は優しいとはいえ、奔放なアイリーンにどこまでも付き合ってくれるのはそれだけの理由とは考えられない。だから少なくとも好かれているのは確かだ。

 だがそれが幼馴染としてのものなのか恋人としてなのか、それとも憧れのようなものか――改めて考えてみると微妙なところだった。


 ファブリス王子はアイリーンを、そして私をどう思っているのだろうか。


「それでもポッと出のピンク髪女には絶対に負けてやるつもりはないわよ!」


「わかった。その意気ならきっと大丈夫だね」


 アイリーンもお姉ちゃんも頑張って、応援される。

 本当にこんな根性論みたいなので学園での危機を乗り越えられるかは未知数だが、私は頷いておいた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ……というわけで。


 少しでもファブリス王子を惹きつけ、その愛を得なければならない。

 とはいえもうずいぶんと長い付き合いになる。手作り料理や菓子類はたくさん食べさせてきたしなんなら一緒に作ったこともある。膝枕は経験済み。デート、つまり二人でお出かけも新鮮味があるとは言えなかった。


(意外と恋人らしいことしてたみたい。なんだかびっくりだわ)


 全くそういう雰囲気がないので意識したことがなかったが、出来事だけを見れば仲良しカップル以外の何者でもない気がしてきた。


 では、どうするべきか。

 思い切って訊いてみた。


「ファブリス殿下はされて嬉しいことってあるかしら?」


「突然だね。僕はただアイリーンが隣でいてくれて、言葉を交わしてくれたらそれだけで幸せだよ」


「そういう抽象的なのじゃなくて!」


「そうだなぁ。――頼られたら嬉しい、かな」


 意外な答えだ。

 「臆病者なのに?」と首を傾げるアイリーンに、ファブリス王子は笑って言った。


「臆病者だけど、僕だって男の子だからさ」


「ふーん。そんなものなの」


 頼られたら嬉しいなんて言われても、困る。

 だってもう充分過ぎるくらい、彼に頼り切ってしまっているから。


 男に頼り、か弱さを見せびらかすのはきっとメアリの方が得意だ。

 もしも彼女が力になってほしいと頼ってきたら――ファブリス王子はアイリーンよりそちらを魅力的に思ったりするのではなかろうか。


 きっと的外れだろうけれど、そんな懸念を抱かずにはいられなかった。

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