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異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません!  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィ』一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞!
第四章 『ヒロイン』の企みに悪役令嬢と抗います

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第三十八話 愛されヒロインと悪役令嬢の攻防

「ライセット公爵令嬢、実は近頃悩みがあるのですが、聞いていただけますか」


「何よ? 神妙そうな顔して」


 男爵令嬢メアリが編入してきてから半年、一学年目がまもなく終了するという頃のこと。

 和菓子を作り、女子寮の仲間で食べ合っていたアイリーンは、友人の侯爵令嬢からの相談を受けた。


「実は(わたくし)の婚約者が某女子生徒に心を許し、親密な関係に至っていることが発覚したのです」


「最低ね!」


 躊躇いなく言い切るアイリーン。

 仮にも他人の婚約者に言うべきことではないが、親密な関係というのはオブラートに包んでいるだけで、おそらくはただの浮気。クズ野郎なのは確定だろう。


 同席していた他の令嬢たちも皆揃って頷いている。


「悪い方ではないのです。今までずっと、(わたくし)に優しく接してくださいましたし。ですから(わたくし)、女子生徒に向いている彼の目を(わたくし)の方へ再び向けさせたいのです。

 ライセット公爵令嬢は婚約者の第一王子殿下とたいへん仲がよろしいとお聞きします。そのご関係を保つために工夫なさっていることなどはございませんか?」


「そうねぇ……。ファブリス殿下は軟弱だから、どうにか強く鍛えないと思って、ぐいぐい引っ張っていくことにしたの。それを今も続けているだけね!」


 ファブリス王子との関係は相変わらず良好だ。

 と言っても、ここが紫彩の言う通り物語の中の世界であるなら、運命というか強制力というか、そういうものもあるかも知れないので気が抜けないままだったが。


 もしも万が一、ファブリス王子との関係が険悪になってしまったら……その時はどのような選択を取るべきなのか。

 その答えは私にはわからなかった。


「とにかくその男が反省するまで引きずり回しなさい。舐められないようにするのよ!」


「ありがとうございます……!」


「あ、そうだわ。ちなみに一つ、いいかしら」


 いつになく静かな声でアイリーンが問いかけた。


「その女の名前を教えてほしいのだけれど」


 侯爵令嬢は名前も思い出したくないとばかりに渋い顔をして、しかしすぐにその名を口にする。

 そしてそれは私とアイリーンの予想通りのもので。


「メアリ・ハーマン男爵令嬢です」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 学園の中で徐々に、対立構造ができていっているらしい。

 メアリに寄り付き、親しくする下級貴族の集団。それに興味を持ってふらふらと近づいていく上級貴族の令息。それをよく思わないその婚約者たち。


 婚約者たちがメアリに直接意見をすると、決まってこう言われるという。


『彼女はそんなつもりで言ったんじゃない』

『醜い嫉妬はやめろ』

『平民上がりなんだから優しくしてあげてください』


 クラスが違うのでいつもはメアリの姿を見ることさえないが、一度だけその場に居合わせたことがある。

 女子生徒三人、男子生徒五人の集団。彼らは苦言を呈しにきたのであろう中級クラスの令嬢を糾弾していた。


 その中央で困ったような表情を浮かべているのがメアリだ。

 「喧嘩はやめましょうよぉ〜」なんて言いながら、自分は無関係だとばかりに振る舞っている。


「虫唾が走るわね」


 私もまったくの同感だった。

 しかし二度と関わり合いになるなと言ってしまった以上、口を挟むわけにはいかない。


「わたくしの友人を貶めておきながらいい子ぶっているなんて、許せないわ。……編入生のくせに学年二位の成績なのも気に入らないし」


「どうするつもりですか」


「学園長に言ってやるわ。あのピンク髪女が風紀を乱してるってね!」


 大概やんちゃをしまくってアイリーン様がそれを言うのは筋が通らないのでは。

 そう思ったが、確かに上に報告するのが最適解のように思えた。


 そして翌日、学園長に直談判しに行くことに。

 だがその返答はあまりに情けないものだった。


 婚約解消に至るなどの実被害がない現時点では、あくまで注意することしかできないというのだ。


 思わず憤ったが、学園長の言い分もわからないではない。

 私たちは引き下がるしかなかった。


 いつもの勉強会でアイリーンが愚痴った。


「わたくしは間違っていないのに、意見を聞き入れないなんておかしいわ!」


「気持ちはわかるけど、王族である僕が言っても同じだったと思うよ。生徒を退学させると色々面倒だ。貴族の情勢が、大きく傾ぐ。……意見しただけでも危ういかも知れない。何も起こらないといいけどね」


 ファブリス王子は美しい碧眼を不安そうに細めてアイリーンを見つめる。

 彼の言葉の意味がわかったのは、それから数日後のことだった。


 ――アイリーン・ライセット公爵令嬢が男爵令嬢メアリを退学に追い込もうとしている。

 そんな話が学園中に広まっていたのだ。




 どこから噂が漏れ出したのかはわからない。もしかすると直談判しに行くアイリーンの後ろ姿を誰かが目撃して、扉の前で盗み聞きなどをしていたのかも知れなかった。


 その噂と共にメアリの行動が本格化していく。

 最初はこんなことを言い出したらしい。


『アイリーン様に悪口を言われたんですぅ。それから尻軽女は出ていけって脅されて……』


 メアリの周りの生徒たちは怒り狂った。

 貴族学園というくらいだから教育レベルは高いし、たとえ下級貴族であっても頭は悪くないはずだ。少し考えればアイリーンがそんなことをしないのはわかるだろうに、メアリに毒され過ぎているらしい。


 話が大きくなる一方だった。

 教科書が切り裂かれただのジュースを頭からぶっかけられただの、小学生のいじめか!とツッコミたくなるようなレベルのことをされたとメアリが主張するのだ。


 本当に馬鹿馬鹿しい。でも――。


「いい加減我慢ならないわ! わたくしは未来の王妃。侮られるわけにはいかないのよ!」


 されるがままでいるわけにはいかなかった。

 学園長に頼っても逆効果。ファブリス王子に力を貸してもらうことになれば、ますます対立を深める可能性もある。

 ならどうするべきか。


 私には考えがあった。

 本当に良案かはわからない。ただこれくらいしか思いつかなかったから。


「アイリーン様、紫彩に頼りましょう」

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